1章 閑話 -1-
「とまぁ、ここまでが俺がこの世界に来たとこまでの話な」
ダンジョンの帰り、神造都市第二階層のレストポイントである酒場で安酒を煽りながら俺はこの世界にやってきてからの初めての友人であり相棒のアンナに、彼女と出会うまでに俺がどこで何をしていたのかを話していた。
「アラタもずいぶん苦労されたのですねぇ、友人は選んだほうがよいのでは?」
小首をかわいらしく傾げた彼女の指摘は最もである。そもそも、俺だってあんな連中と付き合いたくはなかったのだ。人のことを夜中に足があるからという理由で山奥まで連れ出した挙句にいざとなったらあっさり見捨てて逃げ出していくような連中等とは。
「そうでしたか、まぁアラタはそのような方々と付き合うようなタイプには見えませんしね」
全くその通りだ。俺は清く正しい、まっとうな人間である。アンナはそこのところ良く分かってくれている。見捨てられた代わりに、一人で車を走らせたことについては、真に遺憾ではあるが仕方のないことだったのである。
「あぁ、元も世界に帰ったら二度とあんな連中とはつるんだりしないさ」
あれから俺は、あの石の扉をくぐってから巨大なダンジョンを抜けてどうにかこの巨塔…神造物と呼ばれている巨塔の迷宮、その最下層を抜けこの第二層へとたどり着いた。
「そう、そこですよアラタ!この塔の迷宮はいくら最下層とはいえ何の訓練もしていない一般人が踏破できるほど甘くはありませんよ。一体どうやって抜けてきたのですか?」
興奮気味に問いかけたアンナに言わせれば、とてもではないが信じられる話ではないそうだ。彼女もまた、富と名誉を求め迷宮へと挑む冒険者の一人である。
彼女によれば、ダンジョンは下層から上層に上がればあがるほど迷宮の複雑さや出現するモンスターの強さが上がるそうだ。
もちろん、俺が抜けてきた最下層は迷宮としての難易度もモンスターの強さも神造物全体としては最弱だ。それでも彼女は約十年もの間専門機関でダンジョンについて学び、訓練を重ねやっと最下層に挑むものだと言う。
「まぁ、俺はアンナよりも年上だしこれまでに色々と学んできてるから。後はほとんど運だな。じゃあこれからそこら辺も話そうか」
期待してます、といわんばかりにこちらを見つめてくる小さな相棒に向けて、俺は話の続きを話し始めた。