1章 異世界で魔法使いになった男 -3-
深い森に足を踏み入れてからしばらく経つ。
拠点までの道を見失うことがないようにだけ注意しながら歩き続けているが、動物にも食べられそうな野菜や果物といったものにも出会わない。
キノコや虫は見かけるものの食べられるかどうかなど分からないし手を付けたくはなかった。
だが歩かなくてはならない。食料と水源を見つけなければ最悪の場合3日程で俺は動けなくなってそのまま何もできず餓死してしまうからだ。
時々、顔の辺りに伸びてきて鬱陶しい枝を避けながら目印となるように草を強く踏みつけながら歩いていると、次第に草が生えていない、土だけの地面に、そしてなんと石畳と出会った。
「人が…いるのか?」
微かな希望と共に現れたのは、数時間ぶりの足を取られないしっかりと踏みしめることができる石の道だ。きっと、もしかしたら、この先に人がいる。そう信じて歩いていった先にあったのは…巨大な石碑と扉、そして長大な壁に覆われた建造物だった。
巨大だ。とにかく…巨大だという表現しか思いつかない。その建造物は、形としては塔になるのだろう。見上げてもその天辺が見えない程に長い塔だ。
石碑とその奥にある扉がくっついている外壁は中国にある万里の頂上を思いださせる造りになっている。扉の入り口まで近づいてみれば、石碑が光を放ち石でできた扉が勝手に開き始めた。
まるで、よくぞ来た。さぁ入れと言わんばかりの様子である。
その物理を無視した神秘的な光景から感じられるのは、未知に対する恐怖のみである。獣に追われ、トンネルを抜け、訳の分からない場所に来たと思ってから僅か数時間の事だ。もう俺の頭はどうにかなりそうになっている。
大きな口を明けるその建物を前にそっと後ろを振り返る。予感があるのだ。とびきり嫌な予感だ。
これに入れば、これ以上何が待ち受けているのか分からない。それはきっと碌でもないものであると。
しかし、後ろに引き返したところでこれ以上、何もありはしないという予感もある。
俺は大きく息を吸い込み、後にこれが神造物と呼ばれる巨大迷宮であることを知る、ダンジョンへと入っていった。