第3話 好きの意味
僕はしばらく窓際に立って、なんとなく外を眺めていた。
「ねえアキくん」
「ん、なに?先生」
振り返ると恵里子先生は、ベッドの隣に立っておいでおいでと手招きをしている。
何かと思い、僕は先生の方へ近づいていった。すると先生はベッドをカーテンで覆って外から見えなくした。そして突然僕の腕を掴んだかと思うと、勢いよくグイッと引っ張った。
「わわっ!!」
僕は完全にバランスを崩し、ベッドに頭から突っ込んだ。
「あ・・・ゴメン大丈夫?」
すぐ後ろから先生の声が聞こえた。幸い枕があったので衝撃は少し和らいだ。
「はい、大丈夫です」
くぐもった声で答える。
一体なんなんだと思いながら体の向きを変えると、なんと先生が僕の上に覆い被さっていた!
「せっ、先生?」
驚きで声が裏返る。
先生は何も言わず微笑んだまま体を僕に密着させてきた。僕の頭の中でいろんな想像(妄想)が駆け巡る。
放課後で、カーテン閉めて、ベッドでふたりっきりっていったら・・・まさかアレ!?
途端に顔が熱くなる。
「顔赤いよ?もぉ、何想像してたの?」
そういう先生の顔も若干赤い。何って・・・そりゃ、まあ・・・ね・・・
「アキくん」
視線を合わせられずにいると、先生が僕の頬を両手で包み込み、顔を近づけてきた。
「!! ちょっ・・・え、恵里子先生・・・」
僕はどうしていいかわからずただ困惑していた。顔がかなり近い。もしかしてこれは・・・・・・キス!?
人生初のキスが年上の恵里子先生に奪われる・・・!
・・・・・・ということにはならなかった。先生はあと数センチというところで顔を止めた。恵里子先生の顔をこんなに間近で見たのは初めてだった。先生のパッチリした目。首筋をくすぐる茶色い髪、ほんのり赤く染まる頬。お互いの息が触れて熱が伝わるこの距離が、不思議と緊張を感じさせなかった。
「・・・アキくん」
いつになく真剣な目でつぶやく先生。
「は、はい」
先生は僕をじっと見つめて言った。
「私のこと、嫌い?」
・・・・・・え?
「せ、先生?何を・・・・・・」
困惑する僕に先生は続けた。
「私のこと迷惑って思ってない?」
「別にそんな風には・・・」
「本当?」
そう言って潤んだ目で僕を見つめる。両手で顔を包み込まれているので僕は顔の向きを変えれず、落ち着きなく目を動かした。
「いや、迷惑なんかじゃないけど・・・やっぱり弁当持ってきたときは驚いたかな・・・」
先生は笑って、更に体を密着させてきた。僕の頬と先生の頬が触れあう。先生は僕の首と体に手をまわしていた。だが僕はどうしていいかわからず、何もせずに体を固くしていた。
僕の耳元で先生が囁いた。
「私のこと、嫌い?」
僕はかすかに首を振った。
「嫌いじゃないです・・・」
「じゃあ好き?」
僕は少し躊躇ったが答えた。
「はい、好きです・・・」
「そう、よかった」
「あ、でもそういう意味じゃ・・・」
僕の言葉に先生は体を起こした。そして少し怒った口調で話す。
「じゃあどういう意味なの?先生として好きって言ったら、怒るよ」
僕は困った。じゃあ、なんて言ったらいいんだ?
「アキくん。私ね、好きの意味はひとつだと思うの」
何も言えずにいた僕に、先生はやさしく話し掛ける。
「少しでも好きって気持ちがあるなら、それでいいんじゃないかなって思うよ」
健と同じだ・・・・・・
「・・・10歳も差があっても?」
「うん・・・年齢差なんてどうにでもなるよ」
僕の問いに先生はすぐ答えた。何故だかその顔は悲しそうだった。
「そうかな」
「そうだよ」
不思議と言いくるめられている感じはしなかった。僕は立ち上がり、先生の隣に立って一緒に窓の外の風景を眺めた。
外を歩いている生徒で先生に手を振ってくる人もいた。僕は恥ずかしく、窓に背を向けた。でも僕の左手はしっかりと先生の手を握っていた。
こんな恋愛も・・・・・・ありなのかな。
当分その答えは出せそうにない。
End
読んで頂いてありがとうございます。
これで恵里子先生と晶のお話はひとまず完結です。
続編もやってみようかな・・・なんて考えてます。