第2話 呼び出し
「ね、先生ってなんか他人行儀だから呼び方変えない?」
僕はようやく弁当箱を開けて食べ始めたところだったが、ここでまた時と場所を考えず発言する保健室のお姉さん。
「あの〜ここは学校ですよ?生徒が先生って呼ぶのは普通なんじゃ・・・」
「それじゃダメ!だって私達は愛し合ってるんだよ!?名前を呼び合うのが普通でしょ?」
確かに先生は僕のこと好きみたいだが、愛し合った覚えはない。全くね。
「僕のことはアキって呼んでるじゃないですか」
「だってアキくんはあたしのこと名前で呼んでくれないじゃない!」
いやいや、それは無理がありやすぜお姉さん。
「年上を呼び捨てってのはちょっと・・・」
「あたしは全然構わないから!ほら、呼んで、恵里子って。え・り・こ」
そう言って僕の顔をのぞき込む先生。うう・・・そんな顔で見つめないでくれ。
「え、恵里子・・・先生・・・・・・」
これで勘弁してくれ。
「もうっ!それじゃ他の女生徒と一緒じゃない」
すいません・・・ってなんで僕謝ってんの?
「いいもん、これからずっと恵里子って呼んでもらうから」
それはちょっと問題発言じゃないか?
顔を上げると先生はまだ少し怒った顔をしていたが、僕と目が合うと表情を緩めた。
「早くお弁当食べないと授業始まっちゃうよ?」
その言葉で僕は我に返り時計を見た。5時間目が始まる10分前だ。うわ、これはまずい。
僕は残りの弁当を一気にかきこみ、先生に何も言わず猛スピードで教室へ戻った。友達に声を掛けられながら自分の席に向かう。座ってから気づいた。机の端に何かメモが貼ってある・・・・・・
セロハンテープを取って裏返すと、こんなことが書いてあった。
放課後もきてね 恵里子
完璧な根回しだな。今日は早く帰ろうと思ってたのに・・・・・・
「お前らラブラブだな」
「うわっ!」
驚き、後ろを振り返ると健が身を乗り出していた。きっとこのメモをのぞき見したに違いない。
「ゴメンゴメン、驚かす気はなかったんだけど」
「・・・見たか?」
「お前が来る前にな」
余計悪いわっ!
「しかしあの恵里子先生とつき合うなんてお前すごいな」
椅子に座って健が言う。
「別につき合ってないし」
「え、そうなの?」
何度もそう言ってる!
「何回言わせれば気が済むんだよ。別に先生の・・・」
「アキは先生のこと好きじゃないの?」
なんだ?いきなり?
「別にそんな感情ないし・・・」
「じゃあ、好きか嫌いかっていったらどっちだ?」
そりゃ、まあ嫌いではない。
「好き、だけど。でも」
「ならいいじゃん」
そう言って健は机から教科書やノートを出し始めた。前を見ると数学の先生が教室に入ってきたので、僕も話すのをやめて教科書を取り出した。
その後の授業はあっという間に過ぎ、すぐに放課後になってしまった。僕はすぐにでも家に帰り、ゲームでもやっていたい気分だったが一応保健室に行ってみることにした。
階段を降りて角を曲がり、突き当たりの所に保健室はある。僕は扉を静かに動かした。
「失礼します・・・」
「あ、アキくん。ちょっと待ってね、これ、終わらせちゃうから」
先生は自分の机に向かってノートに何か書いていた。僕はいつもの椅子に座って待つことにした。
「何書いてるんですか?」
「これはね、私の日記。初めて教師の仕事をした日から毎日書いてるの」
「へえ、いいですね。そういうの」
僕が感心していると先生は書きながらつぶやいた。
「アキくんとの、ランチタイム・・・楽しかった。今日は、放課後も、来てくれて・・・うれしい・・・」
・・・それって僕のことばっかりなんじゃ・・・・・・
日記を書き終えたらしく先生はノートをバッグにしまった。そして頬杖をついて僕を見つめる。
「えっと、なんか僕に用があるんですか?」
「ううん、特にないよ」
? 用もなしに僕を呼んだのか?
「アキくんと話がしたいなって思って。強いて言えばそれが用件だよ」
そう言ってニコッと笑う恵里子先生。
こういうのは苦手なんだけど、たまにはいいか。
恵里子先生と過ごす毎日の中で、久しぶりに落ち着く時間だった。




