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チートしかいない二年D組  作者: 神谷 秀一
78/86

番外編16

『英雄計画』



「くそ!」

 語調を荒げた綾沼が保健室の机を叩く。

「落ち着けよ綾沼」

 手のつけようがなくなったE・N・Dの暴走に、綾沼、西村、十夜、咲の四人と意識のなかった佐藤ツグミは撤退を余儀なくされた。

 本来の目的は達成しているのだが、由也は理由も話さず姿をくらましたし、E・N・Dの暴走がいつ自身達に降りかかるかわからなかったので、心中には割り切れないものばかりが残っている。

「それに、これ以上手を出そうにも、あんなのを暴走させてしまった僕達に少なからずの追求はかかるだろうし、これ以上の接触は破滅を招きかねないね」

 時間としては昼に差さかかった辺り。当然のことだが多数の生徒が目を覚ましているはずだし、E・N・Dの暴走を察知した各学科の執行部が鎮圧に乗り出している。

 その成果はまったくと言って良いほど上がっていないが。

「その内、大規模破壊能力を持った兵器が投入されるか、それに準じた異能者どもが向かわされるだろうよ」

 三つあるベットの内、真ん中に腰掛けていた十夜が穴だらけになったコートを脱ぎ捨て座っている。そして、そこから覗く右肩から先は何もない。

「私達のクラスにも招集がかかるでしょうね」

 そう言った咲は十夜の横に立って金属製の義手を持っていた。どうやら十夜の右腕らしい。

「息吹やクソ女、それに備前や響みたいな連中は姿をくらましてるから、呼び出されるのは俺やテメェ、それにアレフってとこか?」

「まったくもって役に立たない面子ね」

 言い捨て溜息をつくと、義手をベットに置いて十夜の右肩の結合部品部分に指を伸ばす。

「ふっ、俺達を忘れてもらっては困るぜ?」

「言っておくけど、あのいかれた頭脳を吸収したE・N・Dは、校舎の素材を見境無しに吸収して全長十メートルを越えてるって話は忘れたの?」

 それは事実。

 ベルウッドを吸収したE・N・Dは、今や手のつけられない巨大化を続けている。それと向かい合えるのはテレビの中のヒーローだけだ。

「僕としては放って置いても問題ないんだけどね」

 言って見下ろせば、窓際のベットの中で静かな寝息をたてるツグミを見下ろす。

「問題なのは、彼女の兄である由也があんな真似をしてくれたということと、ツグミちゃんの代わりにE・N・Dの中に人がいるってこと」

 彼女は今の時代に珍しい優しすぎる少女だ。

「それだけに、本人が望んで生体ユニットになったとはいえ、E・N・Dごとあのキチガイが殺されれば「私の代わりに」って言ってとても傷つく。それだけは避けたい」

「じゃあどうしろっつーんだよ。っつ!」

 言いながら眉を寄せたのは咲が少々乱暴な手つきで破損部品を引き千切ったからだ。

「ってぇな! そのコード神経に通じてんだから、もう少し優しく触れよ!」

「私が作った義手なのだから、どう扱おうと私の自由よ」

 微妙に緊張感がないのだが、綾沼が溜息混じりに息をつく。

「一応聞いておくけど、君達はあの化け物を倒せる?」

「・・・・・。」「・・・・・」

 十夜と咲はしばし顔を見合わせ、

「全力出せばいけるだろ?」

「だけど、間違いなく中の人間は死ぬわね」

「っゆーか、君達揃って本当に人類? 勿論僕とツグミちゃんは別として」

 その言葉に十夜と咲は肩を竦め、西村は誇らしげに胸を張っている。

「つーわけで、その女のために、非殺であのE・N・Dとかいうのを破壊しろって抜かすつもりか?」

 言うまでもなく不可能だ。

 西村の力が超人的であろうと、全長十メートル以上の巨体を粉砕することは出来ない。

 綾沼のハッキングプログラムも、全身の制御を奪い取る前に、カウンタープログラムで排除されるだろう。

 となれば手段はないに等しい。

「気は進まないけどその通りだよ」

 その言葉に西村がにやりと笑う。

「あのキチガイを救うのは不本意だけど、あれをどうにかしないと由也は姿をくらましたままだろうからね」

 なんとなくだがそんな確信がある。

「でも、勝ち目のない戦いほど、無意味で無謀な事はないわ」

 義手の接合部分から伸びる神経接合ケーブルを繋ぎながら、怜悧な声が釘を刺す。

「鈴木智康もバカじゃない。本体はE・N・Dの最奥に守られているはずよ。それを抉り出すなんて事は出来ないわ」

 最後にゴキッと重く硬い音と共に、十夜のくぐもった悲鳴が上がり、咲は彼から離れていく。

「修理は終わったわ。スペアはないから大事に使いなさい」

 言って四人に背を向けると、そのまま歩き去ろうとする。しかし、その瞬間を狙ったかのように、ややくぐもった寝息がベットの上から上がった。

「つ、ツグミちゃん?!」

 今までの態度と一変して慌てた様子の綾沼が、目元を揺らすツグミを覗き込み、次の瞬間、菜の花のような微笑ましい顔立ちが驚きの色に染まり、

「っ!」

 なんともいえない表情に引き歪む。そして、

「女の寝顔ジロジロ見てんじゃねぇ!」

 ゴガッ! と普通の生活を送る上では絶対聞けないような鈍い音が、たいして広くもない保健室内に響き渡る。

 そして、その叫びに遅れて綾沼の体が天井擦れ擦れまで浮かび上がった。

 その瞬間だけは、歩き去ろうとしていた咲でさえ、足を止めて目を丸くして見上げていた。

『・・・あれ?』


 生まれたのは浮遊感。だが、脳裏は疑問だけで埋め尽くされていた。

『これはいわゆる一つの5W1H?』

 What……拳が。

 When……この瞬間。

 Where…保健室で。

 Why………顔を覗き込んだから?

 Who………ツグミちゃんが?

 How………なんかもうどうでもいいや。


 そして、無闇に騒がしい破壊音をかき鳴らして着地。というか墜落。

「・・・・・」「・・・」「・・・・・ふっ」

 それを呆然とした面持ちでもつめる三人。

「うぅぅ・・・ん」

 そして、視線を元の位置に戻せば、拳を突き上げたままのツグミが目元を擦りながら起き上がるところだった。

「・・・・・」

 隣のベットに座っていた十夜が心なしか距離を取る。

「・・・・・。」

 ただでさえ離れていた咲が、更に一歩退いた。

「・・・・ふっ」

 西村が意味なく笑ってそのまま立っている。

「ったくクソ兄貴め、人の事嵌めやがって! 次あったら口に手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわせてやる!」

 胸元にかかっていたシーツを剥ぎ取り毒づくその姿は、この場にいる誰もが知らない姿だった。

 確かに、見た目と容姿は綾沼と西村の知っているものだ。しかし、その言動と振る舞いはまるで別人。

「ふっ、ツグミ良い朝だな」

 そんな変わり果てた彼女に声をかけたチャレンジャーは西村。綾沼の方は机の瓦礫に埋もれて沈黙中。

 そして、原因の当事者であるツグミは眉間に皺を寄せて、

「ツグミ? あたしはカイムだ! あんなお人好しの小娘なんかと一緒にすんじゃねぇよ!」

「ん? ツグミは外人になったのか?」

 驚愕していないところが西村らしいといえば西村らしいが。

「カイム? 一体どういう意味だよ」

 シャツをはだけさせていた右肩から袖を通しながら十夜が問えば、カイムと名乗った少女……ツグミが鼻を鳴らす。

「不勉強じゃねーの? カイムってのは『地獄の辞典』に登場する上級魔神。三十の軍団を率いる地獄の大総裁。普段は(つぐみ)の姿をしているんだよ。それくらい言われなくても気付けバカ」

「なんか同族嫌悪な感じだな、おい」

 十夜の感想はもっともなものだが、ツグミ……もといカイムの容姿が品性方向なだけに、見た目という意味ではいろんな意味で負けている。

「あんたなんぞと一緒にしないで欲しいぜアンチロウウォーカー。あたしはあんたやツグミなんかとは違うんだ」

 ケッと舌を鳴らしてベットから下りると、固まった関節をほぐすように伸びをする。

「かー、あの変態キチガイ野郎のせいで全身バキバキだぜ。気に入りの浴衣も金属くせぇし、踏んだり蹴ったりじゃねぇか」

 確かにツグミは攫われた際、浴衣を着ていたのだが、そのままE・N・Dの中に入れられていたらしい。

「よし、そこにいるディアボロス、状況を説明しな」

 その物言いに、立ち止まっていた咲が不快げに眉を傾ける。

「私と吹雪の事を知っているの?」

 カイムが呼んだ名はどちらも彼等の二つ名だ。

「ツグミの方は知らねぇんだろーけど、あたしはD組の有名どころは大体覚えてるぜ。そこの金髪の趣味悪い黒づくめがアンチロウウォーカーに、白と黒のゴシックドレスみたいの着た人形女がディアボロス。このバカがオーバードブーストに瓦礫塗れがドッペルゲンガーだろ?」

 見た目だけはどこにでもいるような愛らしい少女だ。しかし、その口から紡がれるのは毒の如き棘あるセリフ。

「・・・殺す」

「・・・堕す」

 十夜が拳銃を引き抜き、咲がナイフをホルダーから抜き放つ。そして、吐かれる言葉はどこまでも本気だ。

「あん? あんた等あたしとやる気? 言っとくけどあたしは強いぜ?主人格はツグミの方だから所属はしてねぇが、近接戦闘学科に入れる程度には強いぞ」

 はっきりとした嘲笑を口元に浮かべ挑発する様は、彼女を知る者にとって悪夢の光景に近い。しかし、そんなことなど知ったことではない十夜と咲は、そのまま殺意のボルテージを高めていき、それぞれの心にかせられた安全装置が弾け飛ぶ寸前、

「状況は最悪だよ。由也は姿を消すし、ベルウッドはE・N・Dの中に入って暴れまわってる。このまま行けば戦略級兵器の使用であのキチガイは殺されるよ」

 そこで、部屋の奥に追いやられていた瓦礫の中から青いロングコートをボロボロにした綾沼が這い出てくる。

「ふっ、無事だったようだなマイフレンド」

「君の目は節穴っていうよりガランドウ?」

 いつも通りの軽口を叩きあいながら、綾沼はふらつく足取りのままカイムの前に進み出る。

「あのキチガイがE・N・Dとか言う自動人形に入ったって言うのかよドッペルゲンガー」

 カイムの言葉使いに綾沼は顔をしかめながらも頷いた。その上で肩を竦めて見せる。

「僕としては見捨てても全然構わないんだけど、そうすると優しいツグミちゃんは傷ついてしまうからね。予防策としてどうするか考えていたんだけど、その前に一つ聞いていいかな?」

「なんだ? 言ってみなドッペルゲンガー」

 こった首を鳴らす粗野な仕草。それは綾沼の知るツグミと一致しない行為だ。だが、あえてそれを口にせず、疑問だけを口にする。

「君はツグミちゃんの行っていた行為を自分のことのように覚えているみたいだけど、彼女は君の行う行為を覚えているの?」

「んなわけねーだろうが。あたしはツグミの耐えられない世界の担い手だ。あいつの苦しみはあたしの苦しみ。だから、あたしのやるのは汚れ仕事だ。そして、その記憶をあいつに渡すわけにはいかねーよ」

 そう、と綾沼は頷き息をつく。

「まあ、やることは変わらないけど、ツグミちゃんにバイオレンスな記憶は残したくないしね」

「微妙に引っかかる言い方だな、おい」

 とはいえ、その言葉に西村が笑む。

「ということは、新たなる戦いが幕をあけるわけだなマイフレンド」

「どうだろうね」

 綾沼は薄く笑ってアームターミナルを操作。

「勝率七・五パーセント。ちなみに僕達の持っている能力を最大限に引き出した、限りなく楽観的な結果を踏まえた上での勝率だよ」

 ナイフをホルダーに戻しながら咲が、

「勝手に数に入れないで欲しいわ」

 拳銃を懐に収めながら十夜が、

「後で酒奢れよ」

 カイムが不敵な笑みを浮かべて、

「気にくわねーがやってやらぁ、もう一人のあたしのためにな」

 西村は意味なく腕を組んで頷く。

「ふっ、俺はいつだって全力疾走だ」

 そして、綾沼は苦笑と共に頷く。

「白雪さんには言いたいことがいくらでもあるし、十夜には言いたい文句がいくらでもあるし、西村にはしなければならない説教が星の数ほどあるし、今見知ったばかりのカイムには聞かなきゃならないことがいくらでもあるけど」

 言葉を切る。そして、言う。この中で、誰よりも無力で弱者である綾沼が中心に立って。

「ここにいるのは現在望み得る最大の戦力。嫌だと言っても付き合ってもらうよ?」

 その言葉に四人は揃って笑んだ。

「貸しにしておくわ」

「安物の酒は断るぞ」

「文句は後で聞けよ」

「ふっ、俺は無敵だ」

 そして、彼等に習うよう綾沼も笑む。

「それじゃあ、好き勝手に僕等を巻き込んで、好き勝手に暴走して、好き勝手やってる彼等の首に縄をくくりつけて引っ立ててやろう」

 一度言葉を切り、

「今度はこちらからの反撃だ」


「………で、協力するのは仕方ないことだとしても、一体どうするつもり? あんな大人数が取り囲んでいる中に飛び込んでいって正体がばれてみなさい。事件が終わった後も危険人物として監視され続けるわよ」

 あきれたように冷たい声色のところが咲らしい。綾沼、十夜、カイムの三人が顔を見合わせ、困ったように頬をかく。そして、こぼれるように洩れる溜息。

「戦うだけだったら誰にでもできるわ。問題なのはいかに波風を立てないか」

 その時だった。全ての問題を解決する提案が、誰よりも意外な口から紡ぎだされた。

「ふっ、全ての問題が解決し、なおかつ気分が爽快な作戦が一つあるぞ?」

 それが幸運なのか、ケチのつけ始めだったのか、それを知るものはいない。


 佐藤ツグミ……もといカイムの目的は達成されていた。

 当初は何でそんな真似をしなければならないのか疑問でならなかったが、理由を説明されればもっともなもので協力をせざるを得なかった。

 その果てが、E・N・Dと呼ばれる生体自動人形の中枢ユニットとして組み込まれるということだったのだが、それだけは聞かされていなかったのだ。

『あのクソ兄貴め』

 幼い頃からつぐみの暗部を担ってきたとはいえ、今回は極めつけだった。

 割に合わないことはいくらでもやってきた。しかし、これほど割に合わなく、誰にもプラスにならない事件も珍しい。まあ、関わっている人物達は、そんな事を気にもしていないだろうが。

『まあ、ツグミはしばらく眠ってるみたいだし、あたしのやりたいようにやらせてもらうぜ』

 金属臭が鼻につく浴衣を脱ぎ捨てながら、櫛を通したあった髪をかき乱し、乱れたザンバラ髪に整え直すと、渡されていた『予防策』のための衣装に袖を通していく。

「しっかし、ホントにこのイカレタ衣装はどうにかならねぇのかなぁ」

 別の意味でツグミが眠っていてくれて良かった。カイムは心のそこからそう思い、鏡に映った自分の姿に溜息を吐いた。

 鏡に映る、ピンク色のシルエットに、何よりも重い溜息を吐いた。


 それは、突如現れた。

 魔法学科の校舎の一部を消し飛ばしたと思った直後、周囲にある何もかもを区別も差別もなく破壊し、その次に自身の体として再構成していく。そして、そのスピードは止まるどころか増す一方だった。

 現実に生まれた悪夢。

 そうとしか表現できないような、城砦のごとき巨大な異形で、波うつ体表は金属の光沢を持っているのに有機的で、見ているだけで吐き気がもよおしてくるようなおぞましさ。

「ケガ人は下がれ、魔法学科の一斉射撃の後に、機械戦闘学部の砲撃が続くぞ!」

 全長十メートル以上まで膨れ上がった有機自動人形を二十メートル以上の間隔で包囲するのは、魔法学科執行部の攻撃部隊。

 自身等の校舎を半壊されられているだけに、その様子は怒り狂った必死な様子。

「まずは我々からだ、総員放て!」

 半円の陣形を組んだ合計五十人の魔法士達が、揃って自身等の術式や法式を組んで、次の瞬間にはありとあらゆる形として放っていた。

「後列部隊、砲撃が続くから防御陣の構成を!」

 無数の炎や紫電、黒ずんだなにかと閃光の結晶体、それらが自動人形に接触し、秘められたその威力を解き放つと同時に、瓦礫はあまりの熱量の前に蒸発し、迸る紫電は蛇のように駆け巡り、闇色の影は対象物を爆縮させた。

その結果生まれる無数の反作用は半円陣形の後方で控えていた結界士や白魔法士達が、押し寄せてくる熱風や飛び散る破片から不可視の障壁を張って最小の被害で抑える。

「対ショック姿勢!」

 直後、超遠距離から放たれた機械戦闘学部の誘導式砲弾がダース単位で降り注ぐ。

 魔法や魔術とは別の意味での圧倒的な破壊力。殺す事を前提とした兵器なだけに破壊力に容赦はなく、無駄な不純物が無い。それだけに巨大な自動人形も四肢の一部は爆散し、蠢く生態金属を跳び散らさせていく。

 そこに容赦なく降り注ぐ更なる破壊の意を込められた砲弾の群。

 耳を抑えたぐらいでは耐えられない轟音が連続して鳴り響き、砲弾の威力が届かないとわかっていても舞い上がる砂塵に視界が奪われ、絶え間なく続く音ならぬ音に悲鳴が上がる。

 だが、それもわずかな間。

 一際大きな砲音が鳴り響いた後、機械戦闘学科の射撃は終了し、今度は嫌になるくらいの静寂が辺りを包み始めた。

「精霊魔術師は空気に干渉して温度を下げるのを忘れるな。魔法士は風を生んで粉塵を散らせ」

 言いながら部隊の指揮官は勝利を確信していた。

 今まで様々な事件が起こってきたが、これだけの攻撃を受けて無事だったクリーチャーは一切存在していなかった。それだけに、自然と口元は緩んでいく。

 精霊術師が気圧と温度を通常状態にまで操作し、

「なっ?!」

 魔法士達が舞い散る粉塵を吹き散らすまでは。

「バ、バカな、あの威力で滅びていないだと!」

 晴れていく土色の煙の向こう。

 いまだにそれはそびえ立っていた。

 体表に刻まれているのは大なり小なりの亀裂ではあったが、それらは脈打つように上下すると、一瞬にして元の光沢を取り戻していく。

 無論、抉れたような大きな傷もあるのだが、結局はその程度、原形や跡形無く打ち砕けたわけではない。

 学校校舎の一つや二つは全て瓦礫に変える程の威力があったのにも関わらず。

「ク、クソ、もう一度………」

 指揮官である生徒がそう言いかけた時のことだった。

『カウンターブリット』

 耳障りなキンキン声が周囲に響き渡ったかと思えば、大型自動人形の一部から、筒状の何かが生え出した。いや、それは筒と呼べるような生易しいものではない。どんな物も者も区別しない破壊のための凶器。

白と黒の不気味なコントラストで装飾された長砲身。内部を覗かせる空洞の中にはライフリングが刻まれており、それを悟った指揮官は、無線機のスイッチを入れて叫んでいた。

「機械戦闘学部狙われているぞ!」

 轟音。

 その衝撃がいかほどのものであったのか、砲撃を放った自動人形の巨体が大きく沈み、それとほぼ同時に、遠くに見えていた戦闘学科の研究棟校舎が跡形も無く消し飛んだ。

「そ、そんな・・・」

 指揮官は呆然と呟きながら膝をつく。そして、見上げる先にそびえ立つのは、もはや傷一つない異形の王。

 髑髏のような頭部も巨大化していく身体にあわせて膨張しており、そこから覗く紅の双眸が眼下の少年少女を順に見据えていく。

「あぁ・・あ」

 それは捕食者。

 全ての生態系の頂点を喰らって生きる、新たに生まれし世界の王。それに見初められた少女達が声にならない悲鳴を上げて後ずさろうとする。

 しかし、八本まで足を増やした巨大な自動人形は、体格に見合わぬ速さで戦意を失ったままの少年少女達へと迫っていく。

「ヒ、ひっ!」「だ、誰か助けて!」「く、くるなよ!」

 誰もが顔を引きつらせて腰を抜かしていく。中には攻撃魔法を展開して応戦しているものもいたが、砲撃を受けて無事だったのに、個人の攻撃が通用するはずも無かった。

「総員退却だ! 動けない奴を助けてやりながら退却しろ!」

 しかし、結局はろくな戦闘訓練を受けたわけではない歳若い少年少女。

 誰もが我先にと悲鳴を上げながら後退して行く。走ることの出来ない仲間達を残して。

「クソ!」

 しかし、指揮官であった年長の少年が舌打ち混じりに選んだのは前進。

 一番手近にいた白魔法士の少女の腕を掴むとそのまま肩に担いで、迫りくる異形に背を向け走り出す。他にも残っている生徒達はいた。しかし、彼が個人で救える人数には限りがあるし、無理をしたところで無駄死にになるなら意味が無い。

 だから、苦渋を噛み締めながら唇を噛んだ。

 しかし、それでも鼓膜を叩く悲鳴は心を打ち砕くほど悲痛なもの。

 堪らず彼は叫んでいた。

「こんな理不尽を許していいのか?! こんな化け物をどうにかしてくれる都合のいい奴等がいたっていいじゃないか! なんでもありが学園都市なら何でもいいから起こったっていいじゃないか!」

 甲高い悲鳴が背後で上がる。

「誰でもいいから断じて否と言ってくれ! あんなわけのわからない化け物を否定してくれ!」

 それは願い。

 何よりも切実で、何よりも悲痛な弱者の声。

 力がない事を自覚し、それでも足掻いて叫ぶ魂の咆哮。

 それを困った者の神頼みとは言わない。

 純粋な叫びなのだ。

 純粋な願いなのだ。


 そして、それは聞き届けられた。


 轟音。

 直後、刹那の炎が異形の頭部に炸裂し、その首が大きく傾いだ。

「えっ?」

 陣形など形も無くなり、人の姿すらまばらになっている校舎の敷地に、五つの影が並んで立っている。

 遠くも無ければ近くも無い距離で、それは逃げるわけでもなく一列に並び、明確な意思を持っていた。

「・・・え?」

 例えば全身を黒の衣装でまとめた少年らしき人物は、槍の如き長大な狙撃銃を肩に担ぎ、白くたなびく硝煙を銃口から上らせている。

 つまり、先程の爆炎は、その銃が成した結果なのだ。しかし、問題なのはその程度のことではない。

「………今すぐ帰りてぇ」

 黒いシルエットが疲れたように呟いた。

「………何で私がこんな目に」

 白いシルエットが悔やむように呟いた。

「つーかなんであたしがピンクなんだよ」

 桃色のシルエットが呆れ混じりに呟いた。

「これって新手の拷問?」

 青のシルエットが眉間に手を当て呟いた。

「熱くたぎる魂が悪を倒せと言っている」

 赤のシルエットが一人で胸を張っていた。

「・・・ヒーロー?」

 魔法学科連合の指揮官であった少年が、その彼等を呆然とした表情のまま、自分の正気を疑った。

「五人組の……ヒーロー?」

 彼等は揃って同じ形状のフルフェイスメッとをかぶり、その色に準じた衣装をまとっている。そして、それが意味するのはなんなのか?

 というか、この光景を見ていた誰もが理解していながら理解するのを拒否していた。色んな意味で。だが、彼等のそんな儚い意志など構った様子も無く、背後でそびえる自動人形も、リーダーカラーの小柄なシルエットも、それぞれ進み出て向かいあった。

 そして、どこからとも無く、一度は聞いたことのあるような「連中」の登場シーンに使うような安っぽいBGMが流れ始める。


 チャッチャチャチャチャーーーン♪


 よく見ると、紅いシルエットが何気なくラジカセを持っているのが見える。どうやら自前らしい。

「天知る地知る俺が知る! この世の悪があるところに俺がいる!」

 やはり、どこかで聞いたようなセリフだ。

「許されざる悪を打ち砕く、学園都市の平和の使者……五人の戦士ここに見参!」

 そして、ラジカセを宙に放り捨て「とう!」と跳んでポーズを決める。

 んでもって、


「学園戦隊 都市レンジャー!」


 ずごーん! と背後が音を立てて爆発。七色の紙ふぶきが遅れて舞った。

「うわっ、キチガイだ」

 どこからとも無く聞こえた声だったが、西村を除く四人は全員が揃って怒りに拳を震わせていた。

「こんなことなら素顔の方が何ぼかマシだ」

 学園ブラックは一度声の方向に爆裂鉄鋼弾を発砲。悲鳴が上がって野次馬気味の生徒達が散っていく。

「もし正体が露呈したら、関係者には全員死んでもらうわ」

 学園ホワイトが絶対零度の声色で呟く。

「クソ兄貴じゃねぇんだから、なんであたしがこんな少女趣味の色を………」

 学園ピンクが色柄にない粗野なセリフで毒づく。

「さっさと決着をつけて、全てを忘れようよ」

 学園ブルーは何もかもを諦めきったヤケクソの口調でアームターミナルを持ち上げる。

「ふっ、それでは俺達の友情パワーを見せる時が来たようだぜ!」

『やかましい!』

 学園レッドを除いた四人の戦士の心が一つになった瞬間だ。まあ、意味がないのは変わりないが。

「………というわけで、E・N・D。そして、その中にいるベルウッド・ケルビム。僕達は決着をつけに来たよ」

 メットの奥で表情を隠しながら、

「変身モノのヒーローとしてね」


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