清く正しくえげつなく1
『告白の時』
場所は戦闘学科の人気のない学生食堂。時間は昼時にも関わらずその数はまばらで誰しもが離れて各自の食事を取っている。
まあ、それだけだったらいつもの光景なのだが。その学生食堂内の一番奥で端の席、日当たりも悪ければ受け取り口からも遠いそこは大抵の生徒が利用しない最悪の立地条件の上で成り立っていた。それだけに秘密の上で成り立つ会話や裏取引のために利用されるためにも重宝されている事実。
……その席に、一組の少年少女の姿があった。
「えーとだな・・・」
最初に口を開いたのはくすんだ金髪を中途半端な長さに伸ばしたに皮肉げな造作の少年。耳元には五つのリングピアスが揺れている。そして、口元には火のついていない紙巻煙草。これだけでも異常なのだが、彼がまとう衣服は更に異常。
学科指定のワイシャツだけはそのままだが、季節を無視したロングコートに、左右の足に絡みつくようなベルト器具がついたサイズの大きい黒のパンツ。手には黒のグローブが装着され、全ての指に合計十個のネイティブリングが通されていた。
「い、言いなさいよ」
対するはハスキーボイスの少女。女性にしては高身長の175センチ。少年と同じか、若干高いくらいだ。痩せ型ではあるもののメリハリのある身体つきの為、か弱さは感じられない。
そして、腰まで伸ばした亜麻色の髪が太陽の輝きを受けて透けるように輝き、絵画の天女を彷彿させる。
「大事な話なんだが、どこから切り出したらいいのか」
挑発的に吊り上った挑発的な薄茶色の双眸にすっと通った鼻梁。野性的な表情の似合う魅力的な容姿であった。
「は、早く言いなさいよ馬鹿」
「そう簡単に言えるわけねぇだろうが!」
少年は怒鳴りながらもジッポライターを取り出し咥えたままの紙巻煙草に火を灯す。
「十夜、そういうものを共同施設内で吸うなって・・・」
「精神安定剤代わりだ。見逃せクソ女」
言うなり十夜と呼ばれた金髪黒づくめの少年は紫煙を吐いて言いよどむ。
「その・・・頼みというか、なんと言うか」
そういう十夜の目の前には缶ビールが一缶。彼はそれのプルタブを開いて一息に飲み干す。
「い、言いなさいよ」
少女は同様も顕わに問い返す。
「そのだな・・・・・・」
アルミ缶を握り潰し、飛び散る飛沫にすら気付かず二人の少年少女は見詰め合う。
「俺は………テメェの………」
「名前で呼びなさいよ」
少女の言葉に十夜は、大きく息を呑んで言葉に詰まる。
「俺……吹雪 十夜はテメェ………梓 美咲の事が………………」
絞り出すような声。
しかし、少女の方は食い入るような視線のまま見詰め続けている。
「梓の事が・・・」
「美咲でいいわよ」
その言葉に十夜は大きく息に詰まり、何かを堪えるような仕草を見せるが一瞬だった。
「み、美咲の事が・・・」
声が震えている。しかし、止める術を十夜は勿論美咲も知らない。だから、言葉はそのまま続けられた。
「梓 美咲の事が………好きだ」
「っ!」
即座に黒衣と長身の美少女の顔が真っ赤に染まった。
「そ、それでなによ?」
真っ赤に染まったまま少女が促すと、十夜はいつもの皮肉面など忘れて、しどろもどろのまま口を開く。
「だ、だからだな、つつつつつつつ・・・付き合って欲しい………って言ったらどうする?」
言葉には不安を。心には期待を織り交ぜて少年は尋ねる。そして、少女は、
「どどどどどどどどどうしてもって言うなら付き合ってあげたっていいわよ?」
あまりにも初々しい様子のまま美咲はそのまま俯いてしまう。
対して十夜は、同様に俯いたまま頭をかいて俯く。
「じゃ、じゃあ、今日から俺達は付き合い始めるって事でいいか?」
言われて美咲は小さく頷いた。彼女の正面に座っていなければわからないような小さな頷きだったが、それでも彼女は頷いた。
「な、なら。今日から俺とテメェは、こここここここ恋人同士って事でいいか?」
「い、いいわよ」
言う気のなかった言葉。そして、言われることのなかったはずの言葉。しかし、共に果たされ今に至る。
「そ、それじゃあ、飯でも食いに行こうぜ。こんな掃き溜めじゃなくまともなところで」
美咲は戸惑いながらも小さく頷く。
「俺の奢りだ。最近美味い店見つけたんだよ」
そして、美咲は頷く。
「割り勘でいいからもう一店行きましょうよ。あたしもいい店見つけたのよね」
少しでも一緒にいるために。そして、様々な意味で少なくなってしまった時間のために。