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チートしかいない二年D組  作者: 神谷 秀一
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口開く魔への扉11

『必殺と最強、無敵の違い』



『そんなあいつを語ったテメェは生かしちゃおかねぇ。俺の惚れてる女に化けたテメェを許すわけにはいかねぇんだよ!』

 闇に包まれた一室に置かれた一つのモニター。それに備え付けられていたスピーカーから少年の声がこだまする。

「っ!」

 そして、そのモニターの前には、四人の少年少女の姿があった。無論、言うまでもなく香澄に美咲、アレフとルガーといった、捕らえられた四人である。

「ちょっ、美咲、今の聞いた?!」

 戦闘用装備の一切を奪われた四人は、気付いた時には、このモニターしかない暗闇の部屋に押し込まれていた。そして、残った三人の姿を一定感覚で映すそれは、あまりにも絶妙なタイミングでその映像と音声を捉えたのだ。

「おめでとー、これで揃って二人が両想いって事だね」

「な、なに言うのよ香澄!」

 ロープなどで手足を縛るような拘束もないため、香澄の両肩を掴んだ美咲は、その小柄な身体を激しく前後に揺する。

「あ、あの馬鹿はともかくとして、何であたしがアイツなんかの事を・・・す、好きなんて妄想できるのよ!」

「あはは、照れなくなっていいんだから」

 揺すられながらも楽しげな調子の香澄の横で、

「おいルガー、今の情報っていくらぐらいで売れそうだ?」

「売る相手によりますね。ただ、証拠の映像を手に入れない限りは相当値切られる可能性が」

 というよりも、そんな情報を売った時点で黒衣の暗殺者が二人の前に現れること確実なのだが、そんなことにも気付いていない様子だ。まあ、それだけ十夜の叫びが衝撃的だったこともあるのだろうが。

「た、ただでさえ、変な噂が流れてて迷惑してるのに、冗談じゃないわ!」

「美咲が赤くなってる、まるでリンゴみたい。かわいーよ」

「こんな暗いのに何で分かるのよ!」

「認めるんですか?」

 ルガーの冷静な声にそれこそリンゴのように顔を染め、

「うるさい!」

 アレフを殴り倒す事によって八つ当たり。殴られた本人は悲鳴も上げれずに床に倒れる。

「怒って顔が赤くなってるだけよ! あいつ、あたしが使うなって言ってるのに暴走する病とかいうの使うから・・・」

「待ってください」

 ここでルガーがメガネのずれを直しながら割り込む。

「なによ?」

 まだ紅潮した頬のままの美咲が訝しげに尋ねる。

「今まで見た三人の映像を見る限り残った三人……長船(おさふね)息吹(いぶき)吹雪(ふぶき)十夜(とおや)白雪(しらゆき)(さき)の三人は揃って異能者のようですが、アレフを含めてあなた達は?」

 その問いに美咲と香澄は首を横に振る。

「だったら機械甲冑なんか乗ってないわ」

「私は白魔法使えるだけ」

 唯一言葉を口にしないアレフを見れば、

「俺は中庸。簡単に言えば無能ってこと」

「・・・そうですか」

 起き上がりいつも通りの軽薄な笑みを浮かべるアレフを意味深な視線で見やりながら黙考する。

「最初は自分達だけでは魔王討伐など不可能と思っていましたが。こうなってくると可能性がでてきましたね」

「どういう意味だ?」

 アレフの問いかけに、ルガーはモニターに映る十夜を指差す。

「例えば彼なら必殺の概念を持ち、白雪は無敵、長船は最強。それぞれが極まった異能者です。彼等が協力し、うまい具合に立ち回れば魔王討伐も夢ではないかもしれません。当然自分等の救出も」

 もっとも、と言葉を挟んで一息つき、

「梓を愛する吹雪が諦めるとも思えませんし」

「何が愛するよ!」

「まあまあ、再会してから気持ちを確かめようよ」

「そういうことじゃない!」

 再びギャアギャア騒ぎ始める二人の少女を横目にルガーは微笑する。

「なあなあルガー」

「なんです?」

 アレフの声に表情を戻すと、目の前の軽薄な笑顔が皮肉を混じえたそれに変わる。

「お前に本当の目的って何?」

「………あなたは本当に怖い人ですね。どこまでが嘘なんですか?」

 虚を突かれたように目を瞬かせるのは一瞬、すぐに普段通りの冷静な表情を取り戻す。

「全部が嘘さ。で、お前の目的は?」

「魔王討伐が終われば嫌でも分かりますよ。そして、あまりにも馬鹿らしい答えに呆れる事請け合いです」

 微笑とは違う薄い笑みを口元に称え、対するアレフは軽薄な笑みを取り戻す。

「せいぜい楽しみにしてるぜ?」

「期待しないで下さい」

 そして、見守ることしか出来ない四人、モニター内で起こった、新たなる出来事に目を奪われる事になる。


「………十夜」

 偽者の機械甲冑との戦闘が終了し、散乱していた装備を拾っていた十夜の背に声がかかる。

「遅いぞ相棒」

 短く言われ短く答える十夜。

「こっちも色々あってね。それより……使ったね」

 青のロングコートをまとった少年、息吹が十夜の前に進み出て、血に塗れた胸部を指差す。

「使わなかったら死ぬだろうが」

 見れば大きく切り裂かれた胸の傷が互いに盛り上がり、膨張し、絡み合い、混ざり合う。そして、傷は最初からなかったように、傷のない肌が質感を取り戻す。

「美咲が心配するよ?」

「クソ女は関係ねぇだろ」

 そう言う十夜に息吹は意味深に微笑んで見せた。そして、言う。

「そんなあいつを語ったテメェは生かしちゃおかねぇ。俺の惚れてる女に化けたテメェを許すわけにはいかねぇんだよ! ……とか言ってたよね?」

 銃声。

 瞬間的に首を傾けていた息吹の頬の横を銃弾が駆け抜ける。

「十夜、狙うなら防弾コート着てる胴体の方を狙ってよ」

 突っ込むポイントが明らかに間違っているのだが、この場には常識的な人間が存在しないため、十夜が息吹に詰め寄るのを止められない。

「何で知ってんだよ!」

「風精霊に偵察してもらったら、さっきのセリフを拾ったんだよね。とはいえ、おめでとう。きっと両想いだよ」

「やかましい! いいか、誰にも言うんじゃねぇぞ、特にクソ女には黙っとけ!」

 美咲どころか、この次元回廊に来ているほとんどの人物に知られているのだが、哀れな事にそれを教えてくれる者などいない。

「照れなくたっていいのに。ああ、それとこれ」

 息吹は肩に担いでいた袋の中から、たたまれていた黒のロングコートを取り出し手渡す。

「後で美咲に叩きつけられてね。そういう事になってるらしいから」

「意味がわかんねぇよ」

 不平を口にしながらもそれを受け取り袖を通す。

「・・・・・っ」

 コートに染み付いていた血と硝煙とは別の甘い匂いに、十夜は一瞬言葉を失い、

「って、俺は変態かよ」

 ガクリと肩を落としてうな垂れる。

「まあ、概ね正しい見解だよね」

「ほっとけ!」

 短く怒鳴り、その後で改めて皮肉な笑みを浮かべる。

「しっかし、ようやくらしくなってきたじゃねぇか」

 激しい運動のせいで、全部折れていた煙草を投げ捨て、変わりにコートの中にしまっていた真新しいそれを一本取り出し唇に挟む。

「囚われの姫君を助けに行かなきゃならないからね」

「テメェの愛しい宮下が首を長くして待ってるぜ?」

「まあ、僕は香澄が好きだし当然のことだね」

 この頃、この映像を見ていた少女の一人が顔を真っ赤に染めているのだが、それに気付く二人ではない。

「そういや、ここにルガーとアレフ、それに白雪の三人が来てるぞ」

「どういうこと?」

「ようは監視だ」

 なるほどと頷き、脳内に風精霊の擬似映像を展開。

「周囲二百メートル内にはいないようだね」

「言い忘れてたけど、ルガーとアレフの二人は捕まった。骸骨野郎の話しじゃ人柱にするつもりらしい。むしろ、そうしてくれた方が俺としては助かるんだけどよ」

 とはいえと言って続ける。

「クソ女達まで人柱にされたら困るしな」

「告白する前に死なれたら困るって素直にいいなよ」

 口調は軽いが互いに心中は不安が渦巻いていた。

「とにかく魔王の居場所を探そう。そこに香澄たちもいるはずだから」

「そうだな。とりあえずは前進のみ」

 そして、二人は進みだす。あまりにも広大で、どこまでも続く迷路のような世界を。


「闇雲に探しても得られるのは無益な結果のみ……わかってはいたけど思うようには行かないものね」

 一番賢い選択は引くことだ。そして、なにくわぬ顔で普段通りに過ごせばいい。だが、両の足は止まることなく前進のみを選ぶ。

「そうね。私と同じ禁忌が存在する限り、私が引くことは在り得ないもの」

 怜悧な美貌が怜悧に呟く。

「なら、進む先に魔王がいたとしても、私にとってはただの障害。そして、障害は切り捨てる。それがアレフ達を救う事になっても単なる偶然」

 自分ながら行き当たりばったりな上に、結局はこういう形に落ち着いてしまう。

「とはいえ馴れ合う気はないわ」

 静寂に包まれた通路を足音すら立てずに歩き、ホルダーからナイフを抜き放つ。

「罠に乗って上げるわ。監視なんてくだらない真似は止めて、さっさと行く先を示しなさい」

 確信があった。

 あの魔法使いの言葉を聞く限り、わざとこちらの執着心を高めようとしている印象が聞いて取れた。十夜に至っては仲間二人を連れ去られたことさえ伝えさえしなければ、あそこまで激昂しなかったはずだ。なのに、髑髏の魔法使いは言った。そして、ただ攫ったのではなく人柱という無視できない単語を結びつけて。

「最初から最後まで茶番だったということね。だから、早々に終わらせるのが最適」


 ヴンッ


『汝を我が主が所望。共に来たれ』

「私は乗って上げるとは言ったけれど、安易な道を歩くつもりもなければ、思い通りになってやるつもりはないわ」

 目の前に空間に、浮かび上がるようにして現れたのは、黄金の剣を両手に持った巨躯の騎士だった。

『汝の意志関係なし。主の命だけを優先するのみ』

「そう、なら私は私の意志だけを突き通すわ」

 銀の切っ先を胸元の高さまで持ち上げて、左半身の構えで対峙する。

『敵対の意志とみなし、力づくで拘束する』

「出来るものならやってみなさい。………第一深度まで開放」

 言い終えると同時に騎士が動く。その速度は見た目の巨体とは反して機械甲冑以上の速さで動いていた。本来なら意識する前に自身の自由を奪い取られていたのだろうが、魔女の秘眼はその人外の動きすらも映し出し、連動して動いた右腕が騎士の巨腕を弾く。

『!?』

「見た目通りとは限らないわ」

 そして、騎士の懐にもぐりこんで白刃を一閃。だが、その行為は甲高い音を立てて火花を散らすだけで終わり、

『我が鎧を傷つけることは出来ない。本来なら反作用によって汝に衝撃を打ち返すことが出来るのだが危険ゆえに止めた。さて、もう一度言おう。汝では我を倒せぬ。おとなしく・・・』

 刹那、轟音。

『!!!!!』

 金の巨体が胸元で弾けた衝撃に、足元で火花を上げながら後退。

「つまり、私を相手にする限り本気は出せないということね? 安易な道は嫌いだけどチャンスを見逃すほど愚鈍でもないわ」

 右腕を振り抜いた姿勢のまま、咲は淡々と呟く。

「第二深度へ移行」

 言うなりジッパーを上げて、その下の右腕が不気味な鳴動音を立てて変化していく。

「まずは様子見」

 黄金の騎士が後退した分だけ歩を進め、魔女の剣で胸元を狙い、すくい上げるようにして斬撃を放つ。その、何もかも区別なく切り裂く超振動を帯びた破壊の刃が、騎士の左脇腹に迫る。

『ッ!』

 魔女の剣の能力を知っていたのか、騎士は更に後退し、超振動の刃は装甲板をかすめるようにして過ぎた。

「絵本の騎士様は引かなかったわよ?」

 咲は揶揄するように言って、魔女の剣がかすめた脇腹を見やる。

『人間だったら伝わる振動に脳を揺らされて昏倒してるところだけど、そうもいかないわね』

 滑らかな表面を保っていた装甲板の一部が、引っかき傷のようにささくれ立っている。それは、咲の魔女の剣が成した結果だ。

『傷は小さくとも、これ以上の本気を出さなくても倒せる。後は、今行った事を繰り返せば良い』

 内心の呟きを終え、目の前に立ったままの騎士へ向かって大きく踏み込み、その勢いを乗せた刺突を放つ。

「これで終わりよ」

 騎士は大剣を振って迎撃しようとしていたが、何もかもを切り裂く刃を受け止めることは出来ない。

『解析完了。その人外なる技、我に通じず』

騎士の大剣と歪な刃が交差し、

 轟音。

「なっ?!」

 魔女の剣ではありえないはずの手応えに気付いた時には、咲の細い身体は大きく弾き飛ばされていた。

『受け止めることすら出来ない魔女の剣を弾いた?! 一体、どういう・・・』

 何とか体勢を正しながら、魔女の秘眼で騎士の持つ大剣を映しこみ、そして絶句する。

「私と同じ能力?!」

 人の目では見ることも出来ない超振動。だが、咲の持つ魔女の秘眼は、騎士が両手で握る大剣のそれを捕らえていた。

「あなたが私の持つ禁忌と同じ物を持っているというの?」

『質問には答えられない。汝、我の主に聞くべきこと』

「あなた達はそればかりね」

 言葉こそ冷静なものの、その内心は嵐の海と変わらない。

『こいつが私と同じ存在だとでも言うの?』

 弾かれたことなど忘れたかのように接近し、先程のように魔女の剣を振るい、先程と同じように弾かれて終わる。

『こいつが持つ悪魔の力がなければ、私は私だけでいられたのに。私があの目を向けられる事もなかったのに・・・』

 望んで手に入れた力ではなかった。それだけに、目の前にある同じようなものの存在を許すことが出来ない。だから、咲は歯を食いしばり、折れようとする膝に鞭を入れる。

『私は私と同じ物を全て破壊して、私の身体に眠る悪魔を粉砕してみせる。だから、こいつは……こいつだけは私が破壊する!』

「第六深度まで強制開放!」

 咲の持つ悪魔の力は、本来右腕と右目に置いてのみに作用する。それ以外はあくまで生身の人間と変わらない。

 だが、右腕から供給されるナノマシンを血管に流すことによって酸素・カルシウムと結合し心肺、筋肉、骨格と同化する。その行為によってもたらされるのは全細胞の擬似的なナノマシン化。

 しかし、それだけでは終わらない。魔女の秘眼が持つ本来の能力まで開放。


『重力子感知、限定空間内での操作領域確保』


 世界はあらゆる粒子によって構成されている。例えば電子や光子、原子といったように、あらゆる事象には理由がある。この時咲が行ったのは、未だ発見されていないとされる重力子の操作。

 世界では見つけられていなくとも、魔女の秘眼を通した世界には当たり前のものとして映っている。そして、魔女の秘眼はその未知の粒子の分子運動を制御することが出来る。

 その行為が起こすのは自身の周りという限定空間内での重力制御。つまり、重力に縛られない移動手段と攻撃防御手段を手に入れる。

「あなたみたいな存在がいるから私は誰もに指を指される! あなたがいるから私の身体は普通でないことを思い知らされる!」

 ほとんど倒れるような前傾姿勢の特殊な歩法。こうしないと人間外と化した咲の身体能力では、踏み出した途端に天井と激突する事になる。だからこその技術で音の壁を突き破る。

「だから、堕ちなさい!」

 爆発的な踏み込みから繰り出される刃。この瞬間重力子のプラス制御。魔女の剣の周囲のみ十倍の重力が付加され、弾かれると分かっていた騎士の大剣に一閃。

 轟音。

 ぶつかり合った刃の間で凄まじい衝撃が発生し、同時に生まれた水蒸気爆発が白い蒸気を生んで視界を遮る。

「やった?」

 魔女の剣は振り抜けなかった。ただし、先程のように、一方的に弾かれるようなことはなく手応えらしい手応えがあった。

「重力子制御だけは解除。後は現状維持」

 重い息が口から漏れ、思わずへたり込みそうになってしまう。だが、気力で持ちこたえて歪な刃と銀の切っ先を保持し続ける。

「悪魔の力で人外を倒す。たいした皮肉ね」

 汗の玉が浮かぶ額をナイフを持つ方の袖で拭い、魔女の秘眼で水蒸気の向こうを見る。すると、そこには黄金の鎧を持つ騎士の姿はなく、

「後ろね」

 半ばからへし折れた大剣を振り下ろす騎士の姿が、魔女の秘眼を通して背中越しに見えた(・・・・・・・・)。

「これで拘束するつもりかしら?」

 質量といい、勢いといい、充分に必殺の一撃だ。だが、咲は慌てず魔女の秘眼で周囲の重力子を魔女の剣に収束させて受け止める。

 超振動同士がぶつかり合う轟音と、再び生まれる水蒸気など構いもせずに自身の身体を旋回させ、左手ナイフを横薙ぎに振るう。

 ただし、今度は最初のようなただの斬撃ではない。腕の形こそそのままだが、今咲の全身は擬似的なナノマシン化が施されている。だから、ナイフを握る左手も魔女の剣と同様の刃と化し、黄金の腹部装甲を横に切り裂く。

『!!!!!』

 そして、更に加速し旋回した咲の直蹴りが、騎士の頭部装甲を蹴り抜き、黄金の巨躯がのけぞり大きな音を立てて倒れた。

「・・・・・。」

 咲は、そのまま倒れた黄金の騎士に歩み寄り、感情を感じさせない声で淡々と、

「さあ、案内なさい。それともここで滅ぶ?」

 そして、その声はどこまでも怜悧だった。


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