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チートしかいない二年D組  作者: 神谷 秀一
4/86

相対

『蝙蝠の推理』



十夜(とおや)、あんた手伝いなさい」

「あっ?」

 場所は戦闘学科校舎内の学生食堂。

 味はともかく量と栄養だけは必要以上ということで有名なそこは、昼から大きく外れた時間の為に生徒の姿は少ない。その一角に一組の少年少女が向かいあっていた。

 少年の方はくすんだ金髪を中途半端な長さに伸ばしたに皮肉げな造作。耳元には五つのリングピアスが揺れている。そして、口元には火のついていない紙巻煙草。これだけでも異常なのだが、彼がまとう衣服は更に異常。

 学科指定のワイシャツだけはそのままだが、季節を無視したロングコートに、左右の足に絡みつくようなベルト器具がついたサイズの大きい黒のパンツ。手には黒のグローブが装着され、全ての指に合計十個のネイティブリングが通されていた。

「言葉すら理解できないわけ? 前から思ってたけどそこまで頭悪いとは感心するわ」

「テメェ、人に物頼む態度じゃねぇぞ」

 少年は半眼になって咥えたままの煙草に火をともし、紫煙をたなびかせながらテーブルに置かれた缶ビールをあおる。

 刹那、電光石火の勢いを乗せた拳が金髪の少年を打ち倒す。不意をついた一撃だったため防御も受身もままならず、そのまま床に叩きつけられる。

「な、なにしやがる!」

 ひっくり返った際に缶ビールの洗礼を頭から浴びた少年の名は吹雪(ふぶき) 十夜(とおや)。戦闘学科  機械戦闘学部に所属し『歩く法律違反(アンチロウウォーカー)』の名で有名な生徒であり二年D組に所属する、来月十七になる少年である。

「そんなもの吸うなって何度も何度も口を酸っぱくして言ってるのにやめないわけ?」

「だからって鉄拳はねぇだろうが死んだらどうする?!」

「一度くらい死んどきなさい。弱いくせに無駄にしぶといんだから」

 床から見上げる長身は、女性にしては高身長の175センチ。十夜と同じか、若干高いくらいだ。痩せ型ではあるもののメリハリのある身体つきの為、か弱さは感じられない。

 そして、腰まで伸ばした亜麻色の髪が照明の輝きを受けて透けるように輝き、絵画の天女を彷彿(ほうふつ)させる。

「・・・何よ、人の顔じろじろ見て」

 とはいえ、挑発的に吊り上った薄茶色の双眸にすっと通った鼻梁は、野性的な表情の方が似合う魅力的な容姿であった。

「………なんでもねぇよ」

 気まずげに言って目を逸らすと、イスを元の位置に直して座りなおす。

「まあいいわ。とにかく最初の話しよ」

 殴っておきながら横柄な態度で頷く彼女の名は(あずさ) 美咲(みさき)。戦闘学科 機動騎士学部に所属する数少ない女生徒であり、屈指の機械甲冑使いだ。そして、黒衣の少年と同じくして二年D組に籍を置く自分主義の、十七になったばかりの少女。

 端麗な容姿と歯に衣着せないはっきりとした性格は男女問わずに人気がある。

「何の頼み事だよ」

 向かい合わせに座る、その少女を一瞥しながら火のつかない煙草を咥えたままに先を続けるように促す。

「実は、同じ戦闘学科の友達が通り魔に襲われたのよ」

「それなら知ってる、近接戦闘学部の女子が襲われたってジュダルとニスネクの二人が騒いでたしな」

 でも、と続ける。

「近接戦闘学部の奴が通り魔に襲われて全治三週間なんて在り得ない話しだと思わねぇか?」

「しかも、成績上位者よ?」

 近接戦闘学部というのは、基本的に常人を超える能力と技を収める者達だけが編入を許可され、その成績上位者と言えば、人の形をした戦闘兵器とまで言われている。

 ……が不意をつかれ重傷を負った。

「………在り得ないな」

「在り得ないことが起こったのよ。他にも被害が出てるみたいでそれを調べて欲しいの」

「簡単に言ってくれるじゃねぇか」

 ジッポライターの頭を指で弾いて十夜は苦笑する。

「あたし、調べ物って苦手だから。あんたならニスネクとか通して色々と情報が入ってくるんじゃないかと思ったのよ。まあ、無理にとは言わないけど………」

 最初の態度とは一変して、なんとなくしおらしいものが混じり、十夜は別の意味の苦笑を加えた。

「いいぜ」

即答に「え?」とたずね返したところで黒尽くめの少年は席を立つ。

「ちょっ……十夜?」

「てめぇが俺に頼み事なんて滅多にねぇからな。暇ついでに調べてやるよ」

 言うなり、いつも通りの皮肉面に戻し、十夜は歩き去っていく。その特徴的な姿も、学食の人ごみにまぎれて消えていった。

「・・・・・っ」

 一人残された長身の美少女は頬杖をついたまま一言。

「………ったく、ご飯くらい一緒にしてくれたっていいのに」

 その声色は嬉しげながらも、どこか残念がっているようにも聞こえた。


「アレフかニスネク知らねぇか?」

 十夜が向かったのは二年D組の教室。

 入るなり目に映るのは生徒の数が少なすぎるいつもの風景。無論、十夜も出席率最低の一人である。

「アレフは知らないけれどニスネクは会計の横領がばれて、しばらく姿をくらますと言っていたよ」

 十夜の質問に答えたのは手近に立って黒板を清掃していた学級委員のルガーだった。

「テメェも情報学部なら、ここんとこ起こってる通り魔事件とやらのこと知らねぇか?」

「・・・・・。」

 人当たりの良い顔立ちが一瞬厳しさを帯び、逆に尋ね返す。

「どこで聞いたんだい?」

「知り合いのダチが襲われたんだとよ」

 全ては明かさない。とはいえ、情報学部最優秀候補の一人の前ではどこまで隠し通せるかはわからないが。

「………一応、この件は情報学部がロックしているのだけど」

「もったいぶるな」

 苛立たしげな声にルガーは苦く笑う。

「癖でね。とはいえ、被害は今のところ七件。被害者は全て女性で彼女等の体格と容姿は共通点あり」

 ここまで話して、一度言葉を切る。

「全て嘘だろうけど」

 左の人差し指でめがねの位置を直しながら息をつく。

「意味わかんねぇぞ」

「情報操作ということ」

 情報学部の生徒自らが隠蔽の事実を口にする。

「実はこの件、巧妙に隠されているけれど、一部の生徒達だけが担当しているようなんだ。当然、書類のサインも偽造か幽霊生徒のもの」

「臭いのは?」

「底辺は山ほど、上に行くほど曖昧になっているので調べるのに時間がかかる状況」

 黒板消しをふちに置いて両手を挙げる。

「調べたいのは山々だけれど、自分はイシスの手伝いしてやらなければならなくてね」

「わかった。代わりに底辺のリスト俺の部屋に送っておいてくれ、謝礼は金以外なら何でも」

 金の一言に苦笑して、ルガーは小さく頷く。

「それじゃ頼む」

 言って黒づくめはクラスメイトに背を向ける。向かうのは自室。現在の状況では調べるにも限界があると悟ったからだ。そして、歯車の一つが動き始める。


 頼んでからリストが届いたのは数分。相変わらずの手際に感謝しながら茶封筒に収められたコピー用紙を引き抜き目を通す。

「・・・期待通り過ぎてはずればかりか」

 宿舎の廊下を歩きながら溜息一つ。

 ルガーから届けられたリストに記される名前は、どれもが一山いくらの生徒ばかりだ。ただ、気になるのはそんな生徒ばかりで集まって通り魔事件を隠す理由だ。

 被害者の女子生徒には暴行の跡もないというし奪われた物もない。ただ、狙われ襲われただけ。

「納得いかねぇ」

 近接戦闘学部の実力者を一敗地に伏せさせながらも、次の被害者は普通学科の女子生徒。虚偽の共通点以外の共通点がない。

「女が狙い? 違うな。そう思わせているだけで実は違うはず」

 リストを懐にしまい、何気なく見上げる空はオレンジがかり、日の終わりを告げようとしている。そして、それはつまり、これから始まろうとしている狩りの時間を意味してもいた。

「くそ、単式戦闘能力が低いせいで取り押さえることもできねぇしな」

 この言葉は、十夜自身の戦闘能力が低いことを意味している。

 機械戦闘学部に所属しているのは戦闘学科しか行き場もなく、その身体能力が低いため武器に頼るしかなかったからだ。そして、D組に所属しているのは、普段の行いがまともでなかったから。

 つまり、D組といえどろくでなしは存在する。ようは、優秀な生徒が揃っているのは、たまたま問題児達が優秀だったに過ぎない。

 そして、十夜はたまたま優秀でない生徒だった。

「………くそ、息吹と宮下は合宿でいねぇし」

 呟いている間にも時間は過ぎて、闇の帳も深くなっていく。しかし、それでも宿舎の門を潜り人気の少ない道へと進みだす。

 途中何人かとすれ違ったが、怪しいと思える生徒はいない。例えいたとしても、迂闊に姿を見せるような者は本当の危険人物足りえない。

 そんなことを考えながら歩を進めていく。そして、行き着いたのは演習所近くの旧戦闘学科宿舎前。周囲には明かりもなく閑散とした風景が広がっている。一見するだけでまともなものは足を踏み入れない怪しさが漂っていた。

 だからこそ、十夜はここを目指した。

 合法非合法問わずして、ここでは危険がはびこっている。

 知られたくない逢瀬から犯罪行為までと、その幅は広い。かく言う十夜も不法改造の武器の投棄に利用したことがあった。

「・・・・・。」

 見上げる月は丸く、季節外れに吐く息は白い。頃合いだと思えた。人を狩るには最適の場所と状況。

「おそらく狙うなら今だ」

 破られた正門の前に立つなり煙草を取り出し火を点す。それから大きく息を吸い込み、肺に紫煙を満たす。


『るぅぉおおぉぉぉーー!』


 紫煙の陶酔感に酔うことなく吐き出し、一挙動で右手に拳銃、左手に柄を短く切ったショットガンを握る。どちらもコートの裏側に隠していたものだ。

「容赦はしねぇしできるわけがねぇ」

 正体不明の咆哮に内心後悔しながらも、鼓舞するようにフィルターを噛み千切って吐き捨てる。

 そして思考。

『叫びに方向性が感じられなかった。つまり』

 見上げ、宿舎の屋上に異形の影を見る。

「上!」

 後ろに飛びのくと同時に二つの銃口を斜め上に向け発砲。刹那、火花と月の明かりを受けてきらめく銀光。

『銃弾を防ぎやがった!』

 そして、異形が飛んだ。四階の屋上という人ならば肉隗に変わる高さを。そして、巨体の異形は地面と激突し、一直線にこちらを目指した。

「なっ!」

 繰り出される銀の輝きを、半ば勘だけで受け止める。強化チタン製の銃身が火花を散らし、眼前の姿を浮かび上がらせた。

「機械甲冑!」


 一見すれば、それは鉄の巨人だった。一番近いのが、絵本の中に出てくるような全身鎧だろう。だが、操縦者の全身を包むのは工芸品的な美しさではなく、ボルトや板金といった実用的で無骨な美しさだった。

 それは身を守るための防具ではなく、戦うための武器である。操縦者の身体をぴったりと被う精密な機器とセンサーが、操縦者の動きを何倍にも増幅し再現するため、一定以上の水準をみたせば体格や性別関係なくして扱う事のできる凶悪な兵器と化す。

 朱色の滑らかな流線型を描くボディーは、身体をそのまま大きくしたかのように見えるが、それは、この機動甲冑自体がワンオフの完全なオーダーメイドだからであろう。

 巨体が握るのは白金の刀身を持つ、身の丈ほどの大剣だ、特徴的なのは、刀身の中央に黒い支柱のような物が通してある点。人ならば持つ事も敵わないような大剣も、人の数倍数十倍の出力を誇る機械甲冑ならば難なく振るう事も造作ない。

 機械甲冑の注目すべき点は、今までの歩兵にありえないような機動性にある。最大速度や攻撃力では他の兵器に劣りこそするものの人工筋肉の生み出す加速力はたった一秒で100キロ以上のスピードを体感させてくれる。しかも、強靭でいて柔軟な人工筋肉は進行方向の百八十度反対側への転回おも可能としている。だからこそ、次代の主力兵器としても注目されてもおり、量産体制が整い次第、歩兵の概念が一変するとも言われていた。


 が目の前で剣と銃のつばぜり合いを繰り広げている時点で、十夜はいぶかしむように眉根を寄せる。

「なんで両断しねぇ?」

「・・・・・」

 人を超えた力を振るう機械甲冑なら、銃身の防御など無視して両断してもおかしくはない。ましてや力が拮抗することなどありはしない。

「答えてみろよ」

 言葉と同時に飛びのき銃身の半ばを切断されたショットガンを投げ出し無事だった右手の拳銃を持ち上げ発砲。

 違法改造の行われた拳銃は一瞬にして全ての銃弾を吐き尽くし、紅の巨人めがけて飛翔する。刹那、かすむ紅の機械甲冑。その残像を貫く銃弾。

 確かに人を超えていた。だが、機械甲冑の欠点は、操縦者自身が人を超えるわけではないということだ。今のような急激な回避は進行方向へのGに視界はかすみ意識が遠のく。

 内心で嘲り左手に現れた巨体へ、新たに取り出した拳銃の銃口を向ける。そして、

銃声、銃声。

 これでチェック。そう思った時のことだった。

 無造作に構えていた大剣が唸りをあげて振り抜かれる。その行為がもたらすのは二つの火花。

「この距離で銃弾を防ぐだぁ?!」

同時に思い当たる心当たり。

「クソ女、テメェっ!」

 銃口を下ろすなり、見上げる巨人も大剣を下ろす。

「どういうことだ、説明しろ!」

 その言葉に、ちょっと待てと言わんばかりに手の平を突き出す。そして、数瞬してから首を左右に振って、

「音声モード・オン」

 聞き慣れたハスキーボイスが鉄仮面の隙間から漏れる。

「・・・新品の甲冑だったから出したくても声が出せなかったのよ」

 紅の巨人、梓 美咲が右手の大剣を背中のハードポイントに収めて言った。

「いきなり撃たれたから、思わず攻撃しちゃったわ」

「受け止めんのが少しでも遅れてたら死んでたじゃねぇか!」

「良いじゃない、死ななかったんだから」

「そういう問題じゃねぇ!」

 怒鳴りながらも拳銃に弾丸を装填し説明を求める。

「なんでテメェがここにいる? まさか、頼み事ってのはからかいか?」

 十夜の言葉にまさかと首を振って、

「偶然と言えば偶然よ」

「どういう意味だ?」

 言われて美咲は電話を持つような仕草で、

「携帯に匿名のメールが入ったのよ。暗くなった頃にここにくれば何か掴めるかもって」

「それで機械甲冑かよ」

「調整も兼ねてね」

 あっさりとしたセリフに十夜は苛立たしげに頭をかく。そこで思い出したように顔を上げ、

「んなことより、あの咆哮はテメェか?」

「それは・・・」


「きゃあぁぁーーー!」


 二人は弾かれるようにして駆け出した。

「どこ?」

「裏だ!」

 旧宿舎を右手に回りながら両手に拳銃を握り、美咲が十夜の前を先行する。悲鳴は高く近くから聞こえた。最悪の事態を想定しつつ最高の速度で走る。

「誰かいるなら返事なさい!」

 叫びながら二人は宿舎の壁の切れ間から飛び出し、目を疑う。

「タス・・・助けて」

 少女ということはわかった。

 ただし、全身を刃物で切り裂かれ、血に濡れていない場所を捜す方が困難に思えた。

 求めるように片腕を伸ばし、枯れ木のように細い足がふらつきながら歩を進めていた。

だが、人の姿を見たせいだろう、少女らしき者は折れるように崩れ落ち、十夜が咄嗟に体を挟んで受け止める。

「くそっ!」

「何がいるってのよ!」

 表と同じくして裏も閑散としており視界は広い。そこに、少女を襲ったと思われる何者かの姿はなかった。それでも三百六十度見回し誰かの姿を探したところで、十夜の声が飛ぶ。

「今度こそ上だ!」

 見上げれば上空から迫る無数の銀光。美咲は持ち上げた大剣で受け止める。間接部にかかる衝撃は重力の助力も得て強力の一言に尽きた。そして、その証明のように異常を意味するアラームが鳴り、光学センサーの視界が赤く染まる。

「試作段階で持ってくるんじゃなかった!」

 次撃がくるよりも先に、大剣に絡みつく銀光を弾いて飛び退る。

「あんたが通り魔ね!」

そして、解像度を落とした視界に映るのは、彼は色の体毛を全身に生やす、金色の双眸をぎらつかせた異形だった。体格だけなら美咲の機械甲冑にも劣らない。


『るぅおぉぉーーーん!』


 咆哮する口腔には牙が生え揃い、両手の指先から伸びる十の刃は血で彩られていた。

「狼男・・・そんなクリーチャー聞いたこともねぇぞ」

「関係ないわよ、どの道叩き潰す!」

 機械甲冑の稼動音が高まっていく。同時に、彼女の足元が爆発したかのように粉塵を巻き上げ四散した。

 人間の限界を無視した突進は、踏み込む地面を抉りながら異形の巨体へ渾身の斬撃を放つ。

 残像すらも残さぬ神速の刃は左の肩口から食い込み、肉や骨の抵抗など無視して股下まで斬り捌いた。


『!!!!!』


 遅れて噴出す深紅の血潮。そして、思い出したようにズレ、左右に分かれていく巨体は鈍い音を立てて地面に倒れた。

「・・・・・・っ」

 大きく息をついて切っ先を地面に落とす。

 そして、戦い終了の余韻に浸りつつ、現在の状況を再確認。

「その娘、大丈夫そう?」

「わからねぇ、だが、出血がひでぇ。早めに医者に連れて行った方が良い」

 言いながら保温用に、自身のコートを少女の肩にかける。

「テメェが連れて行け。俺よりは早い」

「あんたはどうすんのよ?」

「ここを調べる」

 少女の細い体を機械仕掛けの甲冑に渡しながら煙草を咥えて火を灯す。

「後で色々聞かせてもらうわよ?」

「コートの中にリストが入ってる。それを見ろ」

 それでも納得いかなそうだったが、腕の中の少女の事もあり、美咲はそのまま駆け出した。砂煙を上げながら、あっという間にその背は小さくなっていく。そして、その姿と音が完全になくなってから異形の前に歩み寄る。

「こんな化け物見た事も聞いた事もねぇぞ」

 紫煙を吐きつつ、獣のすぐ前で立ち止まる。

「だから、こいつは天然の化け物じゃねぇ」

 それは証明する行為だった。

 言葉を終えるなり、眼下の異形が両断されたままの体で睨み上げる。そして、開かれた口腔が、切り離されたはずの半身から腕が、

 伸びる。

「落ち着いて考えてみれば当然の話しだな」

 ただの獣に知性はない。知性のある獣には理由がある。人を狩るなら狩る理由が、弄ぶ為なら弄ぶ為の理由が。

 この場合は狩るためであっても弄ぶわけでもなく殺すためでもない。この場合、死んだとしても、結果として死んだだけであって意図的な殺人ではない。つまり事故だ。

 殺意はあっても殺害できない。

「そういう風に操作されている(・・・・・・・・・・・・・)」

 口腔は下からのショートアッパーで閉じさせ、迫る五本の刃は拳銃を離した右手によって受け止められた。

 黒手袋に被われた手の平を貫通し、眼球に届くところで刃は動きを止めた。無論、受け止められるような威力ではなかった。つまり、向こう側から止めたのだ。その一撃が必殺になるとわかったから。

「うちのクラスに機械の力で限界を無視する奴がいるが俺は違う」

 口元に咥えたフィルターを噛み千切り、今度は喉を鳴らして飲み込んだ。

 同時に貫かれたままだった手を握りこむ。 肉が裂け、血がしぶくが構わず力を込めた。そして、ガラスが割れるような甲高い音を鳴らして手の中の刃が砕け散る。

「!!!!!」

 そのまま握りこんだ頭のない方の半身を振り乱し、勢いを乗せて眼下の異形に振り下ろした。浅い地響きが人気のない周囲に響き渡る。

「自己紹介がまだだった」

 明らかに人外の力を振るった少年が、とめどない血を流す傷口を口元に当てて笑う。そして、その足元では巨体を小刻みに痙攣させながらも傷と傷をすり合わせて再生しようとする異様で無残な姿があった。

 だが、黒衣を脱ぎ捨てた少年は、その首根っこを掴み上げて立ち上がらせる。

「俺の名は吹雪 十夜『歩く法律違反(アンチロウウォーカー)』だ」

 口元に運んでいた拳を力の限り握り締めた。

「テメェは堕ちろ」

 そして、十夜は


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