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チートしかいない二年D組  作者: 神谷 秀一
33/86

備前 奏の方程式16

次回で備前 奏の方程式は終わります

 意識を失っていたのは、ほんの数秒だった。顎先に強烈な痛みが感じられるが動けないほどではない。だから目を開き、銃口を突きつけられている事を認識した瞬間、それを蹴り上げていた。遅れて銃声。間一髪のところだった。

「くっ!」

 低く息を漏らしながらも跳ね起き、握ったままだった長剣を突き出す。その瞬間、目の前にいたはずのクイーンの姿は消え去っていた。そして、自分が倒された理由を理解する。

「瞬間移動で避けたのか」

 そして、消えたからには出現するのが道理。それも、接近戦のみしか出来ない士郎に対して適切な距離は近ではなく遠。そして、方向は右構え最大の死角である右斜め後方。

「当たらなかったのは瞬間移動時のタイムラグのせいか」

 振り返りざま、確信を持って長剣を投擲。

 空気を切り裂き飛翔するそれは、放たれた銃弾と交差しパールピンクの首筋に突き立つ。そして、士郎を貫くはずの銃弾は、同じく重力を操作する銃剣によって受け止められた。

「一か八かだけど成功。それじゃあ、反撃させてもらうよ」

 距離は確かに離れている。しかし、今度は走る必要はない。銃剣を右手に持ち替え切っ先を人形代の大きさに見える守護者に向ける。

「遠距離は魔法士にとって最大限の力が発揮できる間合いだよ? 僕は機械戦闘魔法士だけど、純粋な魔法が使えないわけじゃない。単純に使いたくないんだよ。強力過ぎるからね」

 言いながら飛来する銃弾を叩き落し、脳内に仮想魔法陣を描き始める。

「僕はとても矛盾してると思うんだ。強力な魔法が嫌だから機械魔法士学部に逃げて、それでも怖くなって戦闘学科に移った」

 直接紙に書き写せば荒れ狂う力のあまり、魔法陣の消去が出来なくなる可能性があるから意識内で展開し、キーワードとなるトリガーボイスを発すれば仮想魔法陣は意識外へと展開されあり得ない力を解き放つ。そして、行使者の意思によって仮想魔法陣を消去させるのだ。

「奏ちゃんが捕まったからって、神斬なんかを持ち出して本気になるって言った割には不覚取って・・・そして、魔法士に戻ろうとしてるんだから矛盾の極みだと思わない?」

 士郎が何を行おうとしているのか理解できない守護者は哀れだった。

「僕は僕のスタンスを決める。僕は剣になる。奏ちゃんを守るため、皆を守るための剣になる。だから、君をここで破壊する」

 脳内で仮想展開していた魔法陣に最後の記述を行い後は叫ぶだけ。

「貫け流星我が意を汲んで!」

 それは空間の亀裂だった。

 魔法陣と呼ぶには幾何学的な紋様が眼前で紅い輝きとして走っていき、最後に円を組んで完成した。

 刹那、周囲の暗闇を一斉に照らし出すような光の本流が、それこそ光の速さでパールピンクの機体を飲み込んだ。

 そのまま突き抜ける閃光。それは床板をかすめるだけで炎上。何もかもを灰塵に還す膨大な熱量は、物質や空気を瞬時に膨張させて、連鎖的な爆発を引き起こし、全てを蒸発させどこまでも突き進むかに見えた。

だが、それは突如、ただの光の粒子となって拡散した。

「・・・ふぅ」

 脳内の魔法陣を解除し魔法の記述を全て無に返すと、空間に走っていた亀裂が埋まり、輝きの放出を止める。しかし、逆にいうなら、魔法陣を消し去らない限り、この閃光の放出はいつまでも続くのである。

 紋章魔法と呼ばれるそれは、己の力によって発動するだけではなく、空間の歪みによって生まれる別次元の力と作用を媒体とするためエネルギーに際限がない。だから、この魔法の起こす効果は質量保存の法則も相対性理論すらも突破する禁忌指定の特殊魔法だ。

「これが僕の本気だよ。わかってもらえたかな?」

 眼前に広がるのは熱量のあまり沸騰する金属製の床。それは一直線に紅く輝く川のようなものを形成し、どこまでも続いていた。それはさながら地獄の風景ともいえる光景。

「手加減はしないし出来ないよ。概念空間なんか使わなければ神斬を使って上げられたのにね」

 力を求めるために取った刃も、今は手加減のための武器でしかない。そして、それが使えない今、士郎の本気は破壊の概念を持つ刃よりも、より強大な破壊として君臨する事になる。

「奏ちゃん、今行くからね」

 人の形をした破壊神が走り出す。自分を恋わす少女のところを目指して。


「あれは・・・」

 やや離れた場所で光の本流が走る。そして、すぐに納得が行き、奏は大きく頷いた。

「どうやら士郎も本気になったようだ。感謝するぞ守護者達よ」

 返事の代わりの銃声は、予期していた奏にかすることもない。時折転移して接近戦を挑んでくるが、それすらも奏に触れる事を許さない。

「空間転移の前兆は、情報の海に広がる微弱な波紋によって認識できる。千分の一秒前に生まれる波紋で転移を予知できるため不可避でない限り私に触れることはない。例外といえば知覚領域外の転移だが、さすがにそれだけ離れれば私を狙えまい」

 そうは言っても、奏の方にも決定的な攻撃力が足りないため、戦闘は延々と続いている。クイーンも背中の羽を警戒しているため無謀な接近はしないし、攻撃を受けそうな時は空間転移しているからだ。

「なかなか楽しませてもらったが、そろそろ決着をつけよう。私の連れ合いが私の事を心配し駆けつけてくるはずだからね」

『・・・・・』

 互いに十分な間合いを取って対峙しながら奏は指先を、クイーンは銃口を互いに向けあう。

「チェスにおいて女王の名を持つ守護者よ、これから貴様の存在する意味を否定しよう。そして、高らかに宣言する」

 言い終えた瞬間に鳴り響く銃声。先程までなら奏がそれを回避し、延々といたちごっこが続くはずだったのだが、今度はそれを避けようとはしなかった。そして、必殺の銃弾は奏の頭部に迫っていき、

「このゲームは私の勝ちだ」

 奏の姿が掻き消えた。舞い落ちる一枚の白い羽を除いて。

『?!』

「私の名は『公式(フォーミュラー)』貴様の空間転移の公式を解読させてもらった」

 その声はクイーンの後ろから。声に反応し振り返るよりも先に、奏の拳がパールピンクの背中を叩き据える。

「ただし、若干のアレンジを加えさせてもらった」

 言うなり地を這ったクイーンから離れた場所に転移する。

「貴様等の役目はあくまで守護だ。持つ破壊力は確かに必殺のものばかり。だが、大規模な破壊を行使できないように設定されている。本来できるはずのことが出来ない。私のアレンジとは、出来ない事を出来ないままにするのではなく、本来の力として開放するだけの違いだ」

 言葉を紡ぐ間にクイーンは緩慢な動作で立ち上がろうとしている。しかし、それを許す奏ではない。

「宣言したとおり、最大の破壊力をお見せしよう」

 情報の海に半分だけ潜ることのメリットは、現世の姿を知覚しながらもあらゆる物体、生物の構成情報、運動エネルギーを解析できる事にある。だが、欠点をあげるなら表面上の情報しかわからないゆえに予想外の出来事とには不覚を取る。例えば空間転移による衝突の場合だ。今では空間の波紋に気付いたため同じ事が起こる事はないが、それでも欠点は欠点だ。

「さらばだ」

 だから、奏は完全に情報の海へと潜り込む。

 その行為が意味するのは現世との完全な切り離しによる思考のみの世界。

 物質の構成情報が、普段では気づかない己の生体情報が鮮明に浮かび上がる。だが、それは視覚を通していない擬似的な世界だ。だから、今の奏は何者よりも無力であり、何者よりも強力であった。今の奏に出来ないことなど何もない。

「任意の座標に空間転移。転移させるのは私ではなく、空間そのものを守護者の座標に転送」

 自身ではなく空間そのものを転移させるにはその破壊力を演算する必要があるため中途半端な状態では計算しきれない。そのため奏は完全に潜ったのだ。

「・・・演算終了『見えない弾丸(インヴィジブルブリット)』射出!」

 そして、目の前にあったはずの何もない空間が、遠く離れたクイーンに重ね合わせるように転移する。

 刹那、現実空間では何もかもを破滅させる烈火の爆焔が舞い上がっていた。めくれ上がる床板を一瞬にして蒸発させ、形を残すものは消し飛ばす紅蓮の炎。それは一定範囲にまで渡って放射状に突き進み、最後は大量の噴煙を生んで上空へと収束して行く。

「公式解除、情報の海から五感を切り離す」

 閉じたままだった瞳を開き、目の前に広がる惨状に向かって口を開く。

「人体ではなく空間そのものを転移させれば、当然のことながら空間同士が重なり合う事になる。その結果、元からそこにあった原子と転移してきた原子同士がぶつかり合い、膨大な熱量が発生する。簡単に説明するなら原子爆弾だ。………ふむ、ということは『見えない弾丸』というよりも『見えない爆弾(インヴィジブルボム)』と呼んだ方がいいのだろうか?」

「どうでもいいから被爆する前に放射能をどうにかしてよ」

 後ろからかかる声に驚きもせず奏は頷く。

「無論、すでに無害化済みだ」

 そして、振り返る。

「士郎も本気になれたようだね」

「奏ちゃんを守りたいから」

 奏の視界に映るのは、散回前より少々薄汚れた士郎の姿だった。だが、怪我らしい怪我もなく無事であることが見て取れた。

「吹雪と梓さんは・・・」

「あの二人なら死ぬことはあるまい。むしろ、相対する守護者の心配をしてやるべきだ」

 一方奏は、流れるような金糸の髪が黒く染まっていき、背中の両翼が解けるようにほどけていく。そして、純白のドレスはダークグレーのカットシャツとスリムパンツに形を変える。いや、戻る。奏が公式を解除したため、そのものが持っていた本来の概念を取り戻したのだ。

「上辺だけでも心配してあげようよ」

「上辺とか言ってる時点で駄目じゃねーか」

 こちらは別れる前以上にボロボロになった黒衣の声だった。その声にも焦燥の色が濃い。

「無用の心配って奴よ」

「使う用法が間違ってる」

 歩み寄ってくる十夜の後ろから刃の欠けた大剣を担ぐ紅色の機械甲冑が姿を現した。

「あんた達は派手だから、すぐに場所がわかって助かったわ」

「つーか、巻き込まれる寸前だった」

 美咲が気楽に言って、十夜は気だるげにうな垂れる。

「・・・で、これからどうするの?」

「ラスボスはどこよラスボス」

 奏は一瞬、考えるような仕草をし天を見上げる。

「言っていいものか悪いものか」

「疲れてんだよ早く言え。瞬殺してやる」

 奏は小さく頷くと、周囲一体を指差した。

「これが答えだ」

「どういうこと?」

 それぞれが怪訝そうな表情を浮かべるのを待って奏は口を開いた。

「チェスで言うキングとは何か?」

「え、えっと王様。取られたら負け」

「キングが出来る行為は?」

 士郎は少し考え、代わりに十夜が答える。

「全ての方向に対して一コマ進めるだけ。聞こえはいいが単体では無力な駒だ」

「そう、どこにでも行けるのにどこにも行けない、それが答えだ。無力という点も同様だ」

 そして、もう一度周囲を指差す。

「この概念空間そのものがキング………つまりマンティコアの正体だ」


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