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チートしかいない二年D組  作者: 神谷 秀一
31/86

備前 奏の方程式14

『守る者と守られる者』




 正式名称 学園都市ゲートキーパー位階二位クイーン。

 その名が持つ意味は一方的な破壊と殺戮。

 チェスと呼ばれる盤上の試合では最強の意味を持つ名であり、現実においては及ぶものない存在であった。

 駒の持つ役割通り縦横無尽に駆け巡り、一方的な破滅を与える存在である。

『命令、授与。これより排除に向かう』

 それらは戦闘用とは思えぬパールピンクの装甲。持つのは銃口の下に刃を生やす長大なライフル。

 丸みを帯びた女性的なラインはこれから始まる闘争の気配に激しく震えていた。そして、今まで己を押し込めていた棺の開く瞬間を待つ。

 視界は暗黒のみで染まっており、光というものは自身の存在が生まれてから見た事もないが知っていた。だからこそ、この後に続く光を求めた。

 そして、己を束縛する棺の蓋が開かれ、

『排除対象、備前 奏、響 士郎、梓 美咲、吹雪 十夜。以下四名。捕捉次第殲滅』


 士郎の進んだ先を追うのは意外に簡単だった。なぜなら、進めばいいだけなのだ。破壊の跡の残る廊下へ向かって。

 そして、その先には必ず彼女も待っている。備前 奏も待っているのだ。

 だから、美咲と十夜の二人も進んでいた。新しき仲間のために一歩、また一歩と。そして、その先に立ちはだかるのは無数の守護者だったが、その程度で止められる彼女と彼ではなかった。

「邪魔すんじゃないわよ!」

 紅の機械甲冑が天井を蹴って急降下。その際に振るわれた大剣が二体の巨躯を両断し、翻る刃がそれぞれを縦に断ち割った。

「張り切りすぎて燃料切れても知らねぇぞ」

「アンタは援護だけしてなさい!」

「銃器は壊れて使えねぇし」

 全身を朱色に染めた黒衣がナイトから奪った長剣を片手にぼやく。

「もっとも」

 薬物の効果が残ったままであったため、常人以上の動きで進み出た十夜は、細身の長剣をポーンの胸に突き立てる。ただし、美咲のような力技でなく、装甲板の隙間を狙った刺突だった。

「剣ならあるけどな」

「援護よ援護! 前線出てきてどうすんのよ!」

「飛び道具ねぇのにどうしろってんだよ!」

 動きの止まったポーンを美咲が叩き潰し、その後ろから迫ろうとしていた火矢を十夜が打ち落とす。

「アンタ剣術なんて出来たの? あたしだってまともに知らないのに」

「昔に触りだけ。って言うか、むしろテメェが知っておけ」

 残ったのは、今美咲の背中を狙ったポーン一体のみ。距離が離れていたため気付かなかったようだ。とはいえ、距離はあっても廊下の一本道。

「とどめは任せた」

 肩の開閉部が開き、次撃の火矢を放つ瞬間、投擲された十夜の剣が突き立ち暴発。

「アンタは楽よね」

「テメェのお陰だ」

 美咲は苦笑し、切っ先を持ち上げグリップを捻る。

 轟音。

 そして、原形を失った白い装甲が床に倒れ、静寂な時を取り戻す。

「………さっき、機械甲冑用倉庫で燃料電池の交換をしたのはいいが、ブラストブレードの弾丸はいくつ残ってんだ?」

「二発ね。こっちは専用弾だから予備はないわ。倉庫から武器もパクってくれば良かったかしら?」

「使い慣れねぇ武器を使うよかマシだ」

 珍しく皮肉も無しに肩をすくめ、投擲した剣を拾いに行くと、そのまま先に進み始める。

「………ねぇ、いつからなの?」

「あん?」

 横に並ぶ美咲の問いに十夜は首を傾げる。

「その、暴走する病とかいうの使ったの」

 この質問には顔を歪めて嫌そうにしたが、やがて眉間のしわを解いて嘆息する。

「この能力を借りた時と一年の後半からだ」

「借りた?」

 その質問には答えない。変わりに苦笑を交えて口を開く。

「こんな能力、戦闘学科にでも入らない限り使う機会なんてねぇよ。幸いか災いかは知らねぇけどよ」

「災いに決まってるでしょ。まったく、自分のことには無頓着なんだから」

 こちらも応じて苦笑したときのことだった。


 ミシッ


 聞こえてはならない音が聞こえた。

「やべぇ、走れクソ女!」

「な、なんで・・・」

 十夜が足元を見ている事に気付く、それに倣った瞬間言葉を失う。

「行くぞ!」

 ただでさえ先行していた士郎によって破壊し尽くされていた通路は、美咲や十夜達の所業によって、限界を迎えていたのだ。

 その結果成すのは、ひび割れていく床であり、

「あっ・・・」「っ!」

 踏み出した床が機械甲冑の重みに耐え切れずひび割れた。同時に生まれる浮遊感に動揺こそするものの、真横にいた十夜の腕を掴んで放り投げた。まだ、亀裂の生まれていない通路側に向かって。

 そして、砕けていく床に視線を向ければ、その先には果てしない漆黒の世界が生まれていた事により、ある意味安堵する。

『あいつだけは助けられたわね』

 微笑しながら美咲は落ちていく。己の運命に未来がない事を知っていながら。


「あのバカ、自分で言ったこと覚えてんのか?!」

 破壊から逃れた通路にへたり込んだまま黒衣の少年が吐き捨てる。

「犠牲の上で救われた命なんているか!」

 今考えている案を実行すれば、全身を蝕む病は今以上に進行するだろう。だが、十夜は一瞬たりとも迷わなかった。だから、床を蹴り、向かってくる破滅の暗黒へ飛び出した。

「第七深度まで開放」


「あーあ、考えてみれば十七年、短い人生だったわね」

 いつまでも続く下降の気配に、何故か恐怖を感じもせずにぼやき続ける。

「しかも、終わりの結果があいつだもの。つくづく腹立つ奴」

 だが、口元に刻まれるのは笑みだ。

「それに、彼氏が出来る前に死ぬなんて思わなかったわ。香澄の言う通り十夜とでも付き合ってみたら良かったかしら。まあ、嫌いじゃなかったし」

 いつだって本音は言えなかった。そして、辿り着いた最後がこんな結末。だが、後悔はない。

「あたし、アンタのこと好きだったかもね」

 そして、ゆっくりと目を閉じ、

「そいつは初耳だ」

「っ!」

 鼓膜を打つ声に目を見開けば皮肉げに笑う金髪ピアスの少年が映った。

「なんでよ!」

「話しは後だ」

 言うなり十夜は美咲の腰を抱いて固定する。

 そして、己の背に生えた二対の(・・・・・・・・・・・)を羽ばたかせた。すると、凄まじいスピードで急降下していた勢いが減じていくのがわかった。それは、十夜が成したことの結果でもある。

「今の俺に生身で触るなよ。その瞬間に死ぬから………」

 十夜の声を遮って、美咲の怒声が解き放たれる。

「あんたバカ?! なんでそんな真似するのよ! 使えば使うほど寿命が短くなるの知ってんでしょ? なのになんでよ、なんであたしを助けるためにそんなことするのよ!」

 叫ぶ原因は十夜の背中から覗く、闇で塗り固めたような蝙蝠の翼だ。それだけに、暴走する病をどこまで進行させたか容易にわかり得た。

「仕方ねぇだろうが、あのままだったらテメェは死ぬし、そうすると息吹や宮下、備前に響が悲しむ。それに・・・」

 口をつぐむのは一瞬、

「………テ、テメェが死ぬのは俺も嫌だ」

「・・・・・っ」

 美咲は今の自分が機械甲冑を着ている事に感謝した。なぜなら、心臓の鼓動が異様に高まり、顔が真っ赤に染まっている事を自覚していたからだ。

「だ、たからって、あんたが死んだって同じことよ。奏や香澄達は悲しむし、あたしだって・・・その、嫌よ」

「だったら二人で助かろうじゃねぇか」

 何故か顔を隠すようにそっぽ向く十夜に、美咲は抱きつくように両腕を回す。

「おい」

「か、感謝しなさいよ。汚れを知らない乙女が落ちないように掴まってあげるんだから」

「機械甲冑着て色気のかけらもねぇけどな」

 そして、この二人も終わりに向かって降りていく。その先に、苦難しか待っていない事を知りながら。


「ふむ、こんな地下に様々な器機を配置しているのは不可思議だね」

「いちいちこんなとこまで来る人なんかいないしね」

 一定間隔で並べられた巨大なモニターとそれに付随するコンピューター。それらは世話なく様々な文字を浮かべては消えていく。

「どうやら、戦闘学科内において起こっている出来事を常に記録しているようだ。まったく、無駄というかマメというか」

「どういうこと?」

 尋ねる士郎に天使が答える。

「マンティコアが言っていたように、異能者を探しているのだろう。もしくは、異能者の残した痕跡を」

「それだけのために、こんな大きな施設を?」

 見回せば似たような機器がどこまでも続く広大な世界に点在しているのがわかる。

「それだけの価値があるということだろう。目的はわからないが様々な異能者を必要としているのは事実」

 言うなり興味を失ったように背を向ける。

「しかし、降りて来る時、これら施設の明かりは着地するまで気付かなかった。つまり、ここも概念空間ということだ」

「それがどういう・・・」

「君も叫んでいたはずだ。あんな巨大な施設をこの支柱すらない空間が支えきれるはずもない。そして、それは事実だ」

 右手を持ち上げ指を鳴らす。それと同時に背後のモニターがハードもろとも火を噴いた。

「この空間は私を拘束していた概念空間と似たようなものだ。本来の世界にあまりにも近いが、決して重なり合わない矛盾の世界。ということはこの概念が崩れた時は我々は仲良く土葬される」

「知りたくもなかった驚愕の事実だね」

 肩を落とし重い溜息をつく。

「士郎、気付いていないようだが、この世界でその剣を振るえば、その瞬間に私達は死ぬ」

「えっ、それって・・・」

「今の君は限りなく無力ということだね。まあ、常人を超える技術があるから死ぬことはないか」

 一人で言って一人で納得する奏に対し、士郎は神斬一式を腰紐でくくって固定する。そして、漏れるのは溜息だ。

「ごめん、足手まといだね」

「気にする必要はない、君は私を助けに来てくれた。戦力低下は、その分私が補えばいい」

 言ってから再び指を鳴らす。すると、別の場所のモニターが火を吹いて砕け散る。

「我々はここにいるぞマンティコア! これ以上の損失は、貴様の望むことではあるまい。今度こそ、ここで決着をつけよう!」

 その叫びに応じるかのように、地面から十メートル程の高さに白い影が浮かび上がる。

『そうですね。それに、ここまで知られてしまっては、僕としましても困りました』

 ただし、いつか見たような月もどきではない。痩身中背、髪は透けるような銀髪。全てが計算された目鼻立ちは、男物の学生服を着ていても妖精のように可憐で美しい。

「正体を現したという事は本気のようだ」

『それもありますが今のうちに言っておきます。ここで抵抗を止め、拘束される事を選ぶなら記憶の処置を施した上で開放しますよ』

「それはすばらしい。しかし、私の好奇心まで奪われるのは御免だ。ならば私はこう言うだろう」

 ここで大きく息を吸い、

「舐めるな虚像、ここで止まるならば最初の一歩は踏み出していない。私を止めたくば私以上の力と私以上の信念を見せろ!」

 叫び、翼を大きく広げる。

『参りましたね。とはいえあなたはとても貴重な素体です。実力行使という事になるのでしょうけど、強力すぎて不安なんですよね』

「なにが?」

 不安げな士郎にマンティコアが微笑みかける。

『これから開放する守護者はクイーン。正直言って性能の高さのあまり、作ってからずっと封印してたんですよ』

「僕、魔器が使えないんだけど」

「気にするな、そのための私ではないか」

 一見だけでは力とは無縁の天使は、意思のこもった双眸で宙の妖精を射抜く。

『殲滅設定を捕獲に変えておきますが期待しないで下さいね。過剰すぎる力ゆえに、また会えるとは限りませんから』

「会えるとも。その時こそ貴様の最後だ」

『ふふふ、楽しみにしていますよ』

 そう言って白い光の妖精は、自身の身体を構成する粒子を拡散させて、溶け込むようにして消えていった。

「ふん、余裕ぶっていられるのは今の内だ」

 鼻を鳴らす奏。しかし、髪と同じく金色に染まった双眸は、これから来るであろう紛れもない脅威への期待に爛々と輝いていた。

「名称はクイーンだが、実際は何体いるのだろうね? わざわざチェスのルールに従う必要はないから二体? それとも三体?」

「もうちょっと危機感持とうよ」

「危機感なら持っているとも。ただし、好奇心の方が勝っているだけのことだ」

「好奇心は猫をも殺すんだよ?」

 そんな二人のやり取りを遮るように、乾いた足音が不意に鳴ってすべり出る。

「ふふ、来たぞ士郎。残念な事に足音は三つのようだね」

「それなら、表情も残念そうにしてよ」

 とここである事を思いつく。

「奏ちゃん、僕の剣をただの剣に変える事って出来る?」

「不可能だ。その剣の持つ概念が強すぎるため、固定化現象が起こっている。製作当初ならともかく、様々な人の思いや君の持つ剣への認識か公式の強化をしているため・・・」

「つまり無理ってことだね」

 理解できない話しを聞いても無益でしかない。危険が迫っているなら尚更だ。

「君は下がっているといい。今の私は凄いよ?」

 言われて下がる士郎ではない。翼を広げたままの奏と並んで足音の鳴るモニター郡へ向き直る。

「邪魔はしないよ。だから、一緒に戦わせて」

 奏は苦笑。

「君は不思議だ。どうして私の言った通りにならないのだろう」

「しっ、来るよ!」

 直後、十メートル前方のモニターが突如爆発四散した。

「損失を望んでいない側の行動としては不可解極まりない。つまり、制御が行き届いていない? 違うな、力試しといったところか」

 そして、舞い上がる炎の中から、今まで見たことのないパールピンクの守護者の姿が浮かび上がる。

「クイーンというだけあって女性的な色だね。むっ、私としたことが差別的表現を・・・」

「なんで、そんな余裕があるのかなぁ」

 それが両手に抱える黒塗りのそれは、銃口の下部に刃を生やす長大なライフル。それは丸みを帯びた女性的な形状に似合わぬ無骨な兵器としてのフォルム。

「ほう、銃剣とはなんとも古めかしい」

「銃の大きさ見ようよ・・・っ!」

 銃口が向けられた。そう思った瞬間、士郎は身を伏せ、奏の両足を払う。

 轟音。

 刹那、音を越えた銃弾が後方に存在した大型モニターに直撃し、一発の銃弾ではありえないような放射状の破壊を展開する。

「なるほど、弾頭自体に重力子操作の流体金属魔法陣を込めているわけか。簡単に言うなら極小のブラックホールを展開したわけだね」

「納得してないで自分で避けてよ!」

「君が助けてくれると確信していたからな」

 クルリと回って着地すると、奏は薄い笑みを浮かべ呟くように漏らす。

「さあ、確かめてみよう。私の持つ意味と、その可能性を」

 そして、広げられた翼が羽ばたいた。

 地を蹴り加速する。ただし、ただの加速ではなく、人の身でありながら床を陥没させるほどの突進力を持ち、その力に耐えることのできる体。そして、羽ばたく翼が動きの一つ一つを補正し更に加速させていく。

「貴様は私と相対できる意志を持っているのかな?」

 銃の間合いが瞬き一つで奏の間合いにすりかわる。そこで、クイーンと呼ばれる存在は一体のみで、残る二体はビショップとルークである事に気付いた。だからといって行う行動が変わるわけではない。

「いくぞ?」

 人体の柔軟さを持ちながら鋼鉄以上の強度を持たされた天使の拳が、神速の勢いを乗せたまま握り締めた拳の力を解き放つ。

 接触。そして、轟音。

 痩躯とはいえ魔法銀で構成されたビショップの身体が、まるで枯れ木のように上下に別れて弾け飛んだ。

「どうした? 離れて撃つだけが能か?」

 翼をはためかせ着地。その隙を狙ってルークが機銃を仕込んだ両腕を奏へと向け、連続する銃声が咆哮した。

「ふむ、守護者というのは常識に縛られる機械仕掛けの人形らしいが本当のようだ」

 その声に、ルークの銃火が突如鳴り止む。

「私は非常識を常識に変えられるのだよ。よって、その程度では障害らしい障害にはなれない」

 晴れていく硝煙の向こうから現れたのは、全身を己の翼を覆い隠した奏の姿であった。その足元にはひしゃげた弾頭が多数転がっている。

「今度はこちらの非常識をお見せしよう」

 閉じていた翼が解き放たれ、まるで刃のように襲い掛かる。対するルークは鳥類の羽程度に回避の必要はないと思ったのか両腕を十字に組んで受け止める事を選んだ。そして、それは間違いだった。

「私の翼は銃弾を受け止める強度と柔軟性を持ち、羽先の薄さは1ミクロン。つまり、翼の形をした刃だ」

 上体を捻るように旋回し、そのまま翼を振りぬいた。その向こうで細断され、細切れになっていくルークの巨躯が目に映る。だが、

 チャッ

 と、背後から鳴る金属音に、銃口を向けられた事を知る。体勢も不安定で即座に飛び退ることも出来ない。だが、奏に不安はない。

「奏ちゃん!」

 己の名を叫ぶ咆哮と同時に、打撃音が鳴り響き、背後の気配が消失した。だからこそ、ゆっくりとした動作で振り返る。

「奏ちゃんお願いだから、もうちょっと警戒心を持って行動してよ」

「君が私を守ってくれると確信していたからね。だから、安心して行動に移れた」

 そう言って微笑みかけると、士郎は真っ赤になって俯いてしまう。奏は思わず抱きしめたい衝動に襲われたが、さすがの彼女でも今の状況でそこまで出来なかった。

 そして、士郎の強襲を受けたクイーンを探せばすぐに見つけることが出来た。

「君は身体強化の公式を施していないのに、どうしてあんな真似が出来るのだろうね?」

 狙ってか狙っていないのかはわからないが、パールピンクの装甲は、モニターの一つに頭から突き刺さり、奇怪なオブジェと化していた。

「まあ、君達は元々非常識の塊みたいなものだから、尋ねるだけ無駄ということか」

「天使の姿してる奏ちゃんは常識的なのかな?」

 そんなやり取りの向こうで、クイーンの機体がモニター板を引き裂きながら地面に降り立つ。

「手加減したのかね?」

「咄嗟の行動だったから、そこまで気は回せないよ。単純に、向こうが頑丈なだけだと思うけど」

『対象の戦闘能力、想定内以上。捕獲不可能、殲滅対象へ設定変更』

「ほう、これで彼等の本気が見られるね」

「というか、あれで捕獲する気だったんだ」

 数メートルほど離れた向こうでクイーンが銃口を持ち上げるのが見えた。それを防ぐため動こうとして、

「はっはぁ!」

 黒い影が映ったと思った瞬間、クイーンの機体が火花を散らし、とんでもない勢いで吹っ飛んでいった。

「なっ・・・」

 次の瞬間、ボロボロになった黒衣をまとう金髪の少年と紅色の巨人が姿をあらわした。

 そして、士郎達は彼等を知っている。だからこそ、思わず言葉を飲んで見詰めていれば、

「よう、間に合ったみてぇだな」

「あんた、早く最弱に戻りなさい!」

 一瞬、金髪ピアスの少年・・・吹雪 十夜の背中に黒い影のようなものが見えた気がしたのだが、目をこすればそれは消えていたので気のせいだと心の中で頷いた。

「脱出は各自って言ったじゃない」

「気が変わった」

 あっさりと言い切ると、機械甲冑から離れて、地面に落ちていた守護者のライフルを手に取った。

「しかし、ようやく役者が揃ったな」

「あら奏、随分とイメチェンしたわね」

 奏の天使姿も美咲にとってはイメージチェンジ程度の変化でしかないらしい。そして、その紅色の機械甲冑は十夜の襟を掴んで引きずる。

「離しやがれ、自分で歩ける!」

 十夜の声を無視して奏の前まで辿り着くと、美咲は仮面の奥で笑って声をかけた。

「遅れて悪いけど助けに来たわよ」

「感謝する。とはいえ、私の力が及ばないばかりに、君の吹雪を大変な目にあわせてしまった」

「なんでクソ女のなんだよ。俺は物か?」

「吹雪、諦めた方が気は楽だよ」

 そう言って肩を叩く士郎の仕草に奏は微笑し美咲は爆笑。十夜は眉をしかめて士郎は苦笑。

『殲滅対象人数増加、緊急事態と判断し、増援を請う』

 女性的な機械音声が聞こえたかと思えば、


ヴンッ


 三つの新たなるシルエットが周囲に生まれ、それらが持つのは銃剣付きの長大なライフル。

「クイーンの次は王様だ。こいつ等ぶっ壊して先に進もうぜ」

「その前に吹雪、君の持っているライフルの銃剣と腰に下げている長剣を士郎に貸してやって欲しい。今の士郎は専用デバイスが使えない」

 返事はなかったが、腰のハードポイントに下げていた剥き出しの長剣を放ってから、ライフルの稼動部をいじって取り外す。

「見た目はただの剣だが、中身は流体金属魔法陣を展開できる魔器のようだ。君では使えずとも士郎ならば扱えるだろう。魔種は単純なもので重力子制御を伴う物理保護。金属だろうと豆腐のように切り裂けるようだ」

 四体の影に囲まれている事を意識していないかのように奏の言葉は続く。

「神斬一式と違い、概念まで破壊できないから有効な兵器だ。………さて、講釈は終わるが、ノルマは一人一殺。出来るかな?」

 試すような奏の口調。対する三人の言葉は、

「早く倒して奏ちゃんを守りに行くよ」

「あたしに任せなさいって」

「猫の手程度には頑張るさ」

 士郎は意気込むように言い、美咲は大らかに頷き、十夜は皮肉げに笑って煙草を咥える。

「よろしい。では四散!」

 奏が叫ぶと同時に彼等は揃って飛び出した。そして、三方からも同時に銃火が舞い、

 轟音。


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