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チートしかいない二年D組  作者: 神谷 秀一
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備前 奏の方程式12

『参りましたね』

「貴様の参っている理由を当ててやろう」

奏は座ったまま月もどきを見上げる。

「私が吹雪の能力を取り込めず、守護者の大量投入によって吹雪再捕獲の目論見が外れたことと、士郎と梓の二人が貴様の予想以上の脅威であったということだ」

『概ねその通りです。あの三人、隔壁を閉じても問答無用で破壊して進むものですから止めようがないんですよ』

 苦笑の響きに奏が微笑する。

「我らがクラスを舐めていたな。この件が解決したら、残り三十六名が揃って敵に回る事を覚悟しておけ」

『それは、本当に洒落になりませんね。僕としては守護者をものともしない生徒達との敵対は心の底から避けたいですよ』

「私を捕らえたりしなければ良かったのだ」

『禁忌を犯さなければ良かったんですよ』

 その言葉に対し奏は胸を張って言い切る。

「不可能だ。禁忌如きで私は止まらない。止めたくば全ての真実を語れ」

『それこそ不可能ですよ。そんな事をしたら、この学園都市の存在する意味がなくなってしまう』

「そんな虚構の意味など捨ててしまえ。人間の持つ可能性が無限という事実の前には瑣末事だ」

 信念を感じさせる双眸が、天に浮かぶ球体を射抜く。

「貴様の目的がなんなのかは知らないが、私は現状を突破し、いつか壁を越えて見せる」

『僕の最終的な目的はあなたと同じようなものですよ。協力し合うことはできないんですか?』

「ならばその目的を明かすことだ。そして、私を納得させることが出来たのならば、建前上は協力してやろう」

『僕の目的はまだ話せません。ですから、この状態は継続ですね』

「せいぜい覚悟しておくことだ。すぐに彼等は来るだろう。非常識をそれ以上の非常識で突き破る者達がな」


「………進んでも進んでも、いるのは奏ちゃんじゃなくて守護者ばかりだもんね。いい加減うんざりしてくるよ」

 似たような通路に似たような室内。しかも、共通しているのは、新しい扉をくぐるたびに、大量の守護者が待ち構えているということだ。

「よく考えたら、ここじゃなくてBブロックにいるかもしれないもんなぁ」

 現在も前に立ちはだかる扉の向こうにも守護者がいるであろう事を想像すると、そのまま背を向け帰りたくなってくる。

「でも、この向こうにいるかもしれないんだ。だから、引き返すのは全てを確かめてからだ」

 言い終えるなり、柄を固く握り一閃。

 抜き放たれた刃がスライドドアを切裂き、押さえようのない破壊の概念が周囲もろとも灰塵へ還した。

「………威力があり過ぎるのも問題だね」

 過剰な攻撃力は己以外の全てを排除する事になる。つまり、自身以外の誰かが隣にいる限り、刀は抜くことが許されない。

「これは自分自身を追い込んで、誰も近付くことの出来ない孤独を作り出す剣なんだ。だから、いつかは捨てなきゃ駄目だね。僕が本気になれた時、奏ちゃんを取り戻した時に」

 抜いた刃を収めることなく、士郎は粉塵の中に飛び込み、視界を遮るそれを切裂く。同時にクリアーになった視界に予想外の者が飛び込んできた。

「吹雪?!」

「うぅおぉぉーーーー!」

 教室サイズの室内の中央で、ボロボロになった黒衣をまとう金髪の少年が、素手で守護者の腕を引き千切っていた。

「くっ、響か!」

 十夜は士郎の姿に気付くなり忌々しげに眉をしかめる。と、同時に鉤爪状に構えられた左腕が、ポーンの胸を貫いてから添えた右手が左右に引き裂く。

「一体、どういう・・・」

「左右に二体いんぞ、油断するな!」

 言われずとも気配を察知していた士郎は左の死角から襲い掛かってきていたナイトの剣が繰り出されるよりも先に、刺突を叩き込んで上半身を粉砕し、右斜め前方から襲い掛かってきた火矢は鞘を使って打ち落とした。

「確かに話しは後だね」

 次弾が放たれる前に接近し、やや離れた間合いで神斬を縦に振るった。すると、刃は届いていないはずなのに、不可視の刃がポーンの身体を縦に切裂き粉砕した。

 士郎は一息ついて十夜の方を見やり絶句する。

「テメェも地獄行き希望か」

 振り返り対峙するのは四角ばった巨躯。士郎はそれに見覚えがあった。だから、警告の声を飛ばす。

「吹雪、そいつの両手には機銃が!」

 だが、叫んだ直後、突き出されていた両腕が火を噴く。

「っ!」

 悲鳴すらもかき消す無常の銃声が連続して鳴り響き、噴出した硝煙が士郎の前面を白く濁した。そして、その奥で黒い影が後方に飛んで赤黒い液体を撒き散らすのを確かに見る。

「・・・吹雪?」

 床に、何かが落ちる鈍い音。

『対象一体の破壊確認。もう一体の捕獲に移る』

 無機質に響く機械音声。だが、そんなものは士郎の耳に届いていなかった。


『死んだ? え、なんで? 禁忌を犯したからってそこまでする必要があるの? 僕達は学生で、勉強するのが目的で・・・なんでこんな事に』


 硝煙の向こうで、ルークの名を持つ守護者が銃口を向けるのを理解する。しかし、身体の方が動かない。


『なんでここまでする必要があるの? 僕達は奏ちゃん達を助けたかっただけなのに』

『目標ロック捕獲に移る。困難な場合は射殺する』


『意味わかんないよ、ここまでする必要なんてないのに!』


『降伏の意思なし。これより射殺する』

 煙の向こうで両腕が上がるのが見えた。しかし、身体は動かない。

『排じ・・・』

「ああぁぁうぁぁぁぁーーーーーー!」

 第三者の奇声が上がった。そして、それは、ありえるはずのない少年の叫びだった。

「第六深度まで開放」

黒のシルエットが立ち上がった。同時に、全身の輪郭が歪に歪み、伸びた両腕が守護者の巨躯を貫いた。そして、次の瞬間、限界以上に引き伸ばされた両腕がルークの巨躯を引き裂き千切って粉砕した。

「・・・吹雪?」

「・・・・・。」

 そして、煙は晴れていく。その向こうで黒のシルエットは立ち尽くしていた。

「………見たか?」

「え?」

 発せられるはずのない言葉。だが、晴れていく硝煙の向こうに立つ、生きているはずのない少年に尋ね返した。

「見ていたなら、この場でテメェを殺す。見ていないなら生かす、それだけのことだ」

「無事で良かったよ」

 シルエットが苦笑し、肩がすくめるのが見えた。

「状況を教えろ。問答する気はねぇ」

「梓さんと二人で君達を助けに来た。奏ちゃんの居場所はわかる?」

「ここであってここでない場所にいる。概念空間つって、力技じゃ助け出せねぇ」

「この剣があるなら大丈夫だし、奏ちゃんなら、自力で脱出するかも」

 シルエットが苦笑に肩を震わせる。

「クソ女はどこにいる?」

「Aブロック。エレベーター乗るなら覚悟した方がいいよ。乗るだけで満身創痍になれるから」

「わかった。それと、脱出は各自にしろ。待ってるつもりもないし待たせるつもりもねぇ」

「うん。だけど、無理はしないでね」

「それは備前に言ってやれ」

 十夜は煙に隠れたまま奥のドアを開いて外に出る。

「テメェは運がいい。今の俺を見ていたら、迷わずテメェを殺してる」

「追うなって事でしょ? それに、他人の秘密を暴く趣味もないしね」

「テメェは賢明で助かる」

 少年と少年の交差はそれだけだった。

 助けられた事に対しての礼を言うわけでもなく、それはそれとして分かれていった。そして、それは正しくあり、間違っていた。様々な意味で。


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