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きみが為  作者: 木下秋
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6

 歩道を右に逸れると、向こうに公園が見える。日暮れ時だというのにかつてそこにいたはずの子ども達の姿は見えなくって、真ん中にポツンと淋しく、ボロになった遊具がある。


 それが目に入った時から、彼は彼女と目が合っていた。遊具の上に座る彼女。強い風が吹いて、長い、濃いブラウンヘアーが揺れた。


 公園の敷地内に入ると、一月は「よぉ」と声をかけた。遊華はムスッ、としたまま黙っている。


 彼は遊具の後ろを回って、その上に昇ると、彼女の隣に座った。



「なに?」



 彼女が不機嫌に言う。



「いや、たまたま通りかかったんだよ」



 彼がそう言うと、彼女は一月を何度か小突いた。



「よびっ、だしたんっ、だろうがっ、よっ」



「そうだっけ?」



 彼は笑いながらそう誤魔化した。


 先週の月曜の一件があってから、六日間連続で雨が続いて、久々の晴れ間だった。雨上がりの空は洗い流されたように澄んで、大らかな気分にさせる。



「昨日、握手会行ってきたんだ」



 そう言うと、彼女はパッ、と彼の顔を見た。



 「ユカリンの」。そう付け加えると、彼女は「フーン」と返す。



 「懲りない」。「まぁ聞けよ」。



「なんか、急激にさめちゃってさぁ」



 自分でも驚くほどの、爽やかな声だった。



「……」



 遊華は上目遣いに一月をジロォ、と見ていた。



「だからなにさ。乗り換えようっての」



 「カルイオンナジャナインダヨ……ワタシャァ」。低い声で、お経を読むかのようにブツブツと言う。



「別にそうゆうんじゃないけど……」



 一月はちょっとたじろいで、



「ごめん」



 思い切ったように言った。



 「この前は。だから、仲直りしようと思って……」



 一月はそう言うと、右手を遊華の方へと差し出した。



「あくしゅ」



 ――プッ



「なにそれ!」



 彼女は笑った。



「昔はそうしてたろ! 仲直りする時は“あくしゅ”しろって!」



 顔が赤くなるのを自覚して、一月はたまらなくなる。


 遊華はその様子をちょっとの間、眺めていた。


 彼女は、彼がすきだった。



 遊華は右手を差し出して、彼と握手をした。


 クッ、クッ、と、二回揺さぶられる。



「はい、これで仲直りな」



「ヤラシィ」



「なにがだよ!」



「わたしの手ぇにぎりたかっただけでしょ」



「んなわけ……!」



「どっちが良かった?」



 「ン?」。彼が疑問を表すと、彼女は目を逸らした。



「ユカリンとわたしの手。どっちが良い?」



 ――。



 ――プッ。



 一月が笑うと、遊華も耐えきれずに笑った。



 静かな公園に、二人の子どもみたいな笑い声が、響いていた。

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