であった人物
フハハハハ、声をたてて高らかに笑ったとき、すでにオレは人間になっていた。
この視線の高さはきっとさっきの少女たちくらいだろうか。
オレは人間のように二本の足をゆっくり交互に動かし、その場を移動した。
町に出た。
大きな箱がたくさん並んでいる。
そして、その箱から出入りする人間達。
「・・・ククク、さぁ誰からぺちゃんこにしようか・・・」
ミミズをなめたらあかんでー・・・
俺はとりあえずとすぐ横を通りかかった女性に声をかけた。
ピンクやら赤やらの派手な色の服を着ている。
「おい、女!」
女性が振り向く。
お前をペチャンコにしてやる――
そう叫ぼうと口をあけた一瞬、女性が耳を切り裂くような悲鳴をあげた。
ヒステリックだ。女性の叫びは自然と心が恐怖に振るわされる。
「うるさーい!」
俺は女性に叫び返してみた。
そのとき、いきなり後ろから複数の手が飛んできて、俺を捕まえた。
「っ離せ、人間!!」
俺の叫びなど聞こえていないかのように背後の人間はたんたんとしゃべった。
「警察だ。大人しく署にきてもらう。」
太い声だった。きっと男の声なのだろう。
俺はそのまま布をかぶせられ、大きな箱の中に入れられた。
そこはとても広く、フカフカの椅子がたくさんおいてあった。
「これに着替えて・・・」
ボヘーッと箱の中を見回していれば、さっき俺を束縛した男が布を持ってきた。服というやつだろうか。
そして男は言った。
「服を着ないで、外を歩いちゃダメだろ?・・・何で、こんな事したんだ?」
「え?」
・・・・・・そうなの?
人間にはそんな面倒な決まりごとがあったのか。
俺は言った。
ルールを教えてくれた代わりに本当の事を。
「俺、ミミズ。さっき人間になったから常識とか分かんない。」
「ふざけるな。」
「・・・・・・・・・」
「親は?お母さんとかきっと心配してるだろう。」
「親はもういない。とっくに死んだよ。」
「・・・そうか・・・」
警察、という名の男は目をふせた。
何故、そこまで悲しそうな顔をするのだろうか?
疑問だ。
警察は言った。
「・・・とにかく、服を着なさい。話はそれからだ。」
俺は服という布を手でなでてみた。
これが俺が始めて触った服の感触だ。