表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

I to sb.

Reply

作者: kanoon

踏切が落ちる。電車が通る。

君と俺は遮られる。



[踏切で遮られた恋]



別れを告げた。

いや、一方的に手紙を残しただけ。

「別れよう。元気でな」

これだけ見たら、君が怒って追いかけるのも分かるよ。俺だってされたら追いかけ、問いただすしね。

だけど分かって欲しい。これは君のためなんだって。

将来有望な君と、ただのミュージシャンな俺。君に縋ってしまうのは必至で。

だから君を解放してあげることにしたんだ。これまで築き上げてきた『冷たい俺』はそのためなんだ。

君は一生知らないままだけどね。


でも本当は今でも好きだ。

振り返って君の元まで駆け寄って、「やっぱり別れるなんて無理」だと叫びたい。

君の声が聞き足りないんだ、本来ならもっと一緒に居てもいいはずなんだ。

同じ部屋で二人、同じ景色を見て、体温を共有して。笑いあって喧嘩して仲直りして。

普通のカップルだったはずなんだ。


けれど『冷たい俺』は最後まで冷たく君の腕を払う。君の流した涙を掬うなんてとんでもない。

「面倒くさいな……」

そういう表情で君を見下ろす。

今までわざと君の前で別の女とキスしたこともあったっけ。君の泣きそうな(でも君は泣かなかった)顔を見て、罪悪感でいっぱいになった。

早く俺に愛想を尽かして、別れを切り出して。最低な男として、思い出を風化させて。そう思いながら『冷たい俺』を演じてたのに。

君は一向に別れる素振りを見せないんだ。健気にも。

半年も俺は君を傷つけることになってしまった。俺はこれ以上耐えられなかったんだ。

油断をすれば君を抱きしめて、「愛してる」と言ってしまいそうになるから。

君は、俺が抱く夜の(俺の唯一の本音の)「愛してる」に期待して、きっとこれから先も我慢するんだろう。

君が壊れてしまう前に、俺が。



大丈夫、もう君の未来に陰りはない。

俺が君の父親に「別れてくれ」と迫られる必要もない。

全てはめでたしで終わるんだ。

だけど涙が溢れてくる。君が追いかけてきているから振り返りはしないけど。

この道ももう通らない道。この目にしっかり焼き付けておく。

俺は君と居た記憶を大切にして生きていくから。君との以上の恋なんて出来ないと思うけどね。

だから君は、俺との思い出を振り返ることなく先に進んでくれ。そして君に相応しい人と笑いあうんだ。



「待って!」

何度も叫ばなくても聞こえているよ。でも俺はその声を無視する。愛しい声が俺の名前を呼んでも。

「どうして」

小さく呟いた声だってちゃんと届いてる。ざわついた世界の音に似つかわしくない、綺麗な音だから。

あと少しで踏切。この距離だから、君が追いつく前に閉まるだろう。

それでいいんだ。

「まっ…


俺は振り返った。だけど銀とオレンジの柄の車体しか視界に入らなかった。

君の姿と馴染んだ景色は見えなかった。



踏切が落ちる。電車が通る。

君と俺は遮られる。

そして俺は先に進む。


(電車が行って踏切が上がった時にはもう、君には俺の姿が見えていない)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] 最後電車に轢かれたのかと思って一瞬ドキッとしました。 切ないですが、僕は男としてこういう男は大嫌いです。 「恋空」のヒロもそうなんですが、どうして傷つけようとするのか。 ちゃんと話し合えばい…
2011/08/30 21:21 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ