学びの先には
王国での最高学府は、王立中央学院である。
ここでは王族貴族準貴族子女と、選りすぐりの平民が学んでおり、
六年十二期で王国の将来を背負って立つ人材が育成されている。
が、最高学府と言える学校は実はここだけではない。
例えば芸術学校。詩歌、文学、歌唱、器楽、絵画、彫刻などなど、
王立中央学院でもさわりだけは学べるものをさらに深く学べる。
まあ、理解と資金力がある環境を持つ幸運な者だけが通えるのだが。
または商業学校。これは文字通り、商人の専門知識が学べる場所だ。
こちらは主に平民の、特に大商人の家庭が子女を通わせている。
そして礼法学校。貴族や資産家に雇われる高級使用人の学校がある。
主にここへ通うのは既に雇われている使用人達の子女である。
ここの卒業生は優秀と見なされ、使用人でも一段上の扱いを受ける。
逆に通わなかった者は、なかなか上級使用人へは上がれないのだ。
雇い主も積極的に通わせようとする。自身の家の権威の為にも。
◆
「だからさ、アロンドラには礼法学校に通って欲しいんだよ」
また若様はわたしに進学を勧めてきた。家の箔が付くからと。
この家は準男爵家のお屋敷で、使用人はわたしの家族達ぐらいだ。
お屋敷と言っても、普通の一戸建てよりは大きいかな、という程度。
旦那様の準男爵様も勧めてくださっているけど、正直恐れ多い。
確かに若様とわたしは姉と弟、ほとんど家族のように育ってきた。
でも、雇われの身で学費全て準男爵様負担で通えるなんて。
家の箔などと、そんな余裕があるように思えないのに。
若様はわたし、アロンドラより一つ年下。
今年王立中央学院へご入学されたばかりだ。結構優秀だと聞く。
王立中央学院は貴族や準貴族ならば学費は無料で通うことが出来る。
留年や退学になった場合は、高額な罰則金を払うらしいけれど。
礼法学校は、確か無料では通えない。負担をかけてしまう。
「ここで雇われていられるだけで、わたしは報われていますよ。
勿論父も母も妹もです。ご迷惑をかける訳にも」
何度目になるか、若様の進学への誘いをお断りする。
他の家の使用人達がどの位お給金を頂いているかは知らないが、
ここは居心地が良いのだ。準男爵様も奥様も若様も優しいし。
「だって、アロンドラに通ってもらえないと…」
わたしが通わないと、何か拙い事でもあるのだろうか?
◆
我が家は準男爵家、つまりは準貴族である。
不祥事を起こさぬ限りは家名の世襲が許され、婚姻も割と自由。
政略的意義などほとんどなく、相手が平民でも婚姻は許される。
それを息子に伝えたところ、
「ぼくはアロンドラとけっこんしたい!」
と宣言したのが息子六歳の頃。
その発言はアロンドラとその家族達も聞いていたのだが、
忘れているのか子供の言う事だからと気にしなかったのか。
息子は至って本気で「ふさわしいおとこになる」などと言って、
その日を境に学習も剣術も熱心に取り組むようになった。
アロンドラは素直で仕事もきちんとこなす少女だ。
息子が成人した際は、嫁になってもらっても良いと思う位に。
少々意地が悪いかもしれないが、恩を着せて断りづらくするか?
例えば礼法学校へ通わせてみたりとか。
息子がこの考えを知れば、わたしに対して怒るかもしれないが。
表向きは「家の箔がつくし、優秀ならばお前と結婚もしやすいぞ」
とでも煽っておこうか。実際学びを得るのは悪い事じゃない。
◆
「アロンドラ、それ何の歌?随分綺麗な旋律だけど」
あ、買い物に出た時聞いた歌を口ずさんでいたら若様に聞かれた。
「ええと、この前食材の買い出しに行った時に、
広場で吟遊詩人が歌っていた歌なんです。
なんとなく覚えてしまって」
「ふーん…一回聞いただけで覚えたの?すごいな!」
あ、言われてみれば。
「あはは、わたしにもこういう才能あるのかもですね。
歌唱とか向いているのかもしれません」
そう返したら、若様は真面目な顔で頷いた。
「王立中央学院は貴族教育の一つで芸術関係の講義もあるけど、
僕は今期の選択科目で歌唱と器楽を取ってる。
少なくとも同じ受講生の中にアロンドラより上手い人はいない。
もしかすると礼法学校よりも芸術学校の方が、
アロンドラには向いてるのかもしれないよ」
えええ…。少し興味はあるけど、芸術学校って!
わたしには無理無理無理!
◆
ある準男爵家の次期当主は、宮廷歌手の夫人を持つ。
元はかの家の使用人だったが、芸術学校でその才能は開花した。
特待生時代、その夫人は王国音楽祭で優勝を果たし、
副賞として一代騎士の位を得た。
その祝賀会の場で次期当主は求婚をしたそうだ。
今ではその逸話、演劇にされるほど王国中に知られている。
さすがに王国の大貴族では「平民」との婚姻はありません。
あと、爵位の差が大きすぎる場合も普通は敬遠されます。
各種学校は最低入学年齢は決まっていますが(九歳)、
年齢の上限はなく二十歳以上の新入生もいます。




