表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の続きを今宵あなたと~無口な常勝将軍は想い人にドレスを贈りたい~  作者: 碓氷シモン
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/18

第15話

 ヴィクトワールから令嬢(()()())に贈るドレスを作ってほしいという注文を受けた時、エレナを悩ませたのはドレスの色とデザインだった。何しろ会ったことも話したこともない令嬢の人生の節目となり得るドレスを作らないといけないのだから。


 散々悩んだ末、エレナは自分と同じ金色の髪に薄いブルーの瞳で、体つきもよく似ていると言うヴィクトワールの言葉を頼りに、二種類のドレスをデザインした。一つは目にも鮮やかなマゼンタピンクと黒、もう一つはターコイズブルーと白を組み合わせたもの。で、両方のデザイン画を見せてヴィクトワールに選んでもらおうと思ったのに、肝心のヴィクトワールの態度がぐずぐずと煮え切らなくて、エレナが切れたのは先述の通り。だからヴィクトワールは、エレナがどんなドレスを着るのか、ついこの前まで知らなかった。


 最終的にエレナが選んだのは、張りのあるマゼンタピンクのタフタ生地に、黒のベルベットとレースでアクセントをつけたドレスだった。デコルテには幅広のフリルを二重に飾り、ウエスト周りには、タフタ生地に何本もの黒いベルベットのリボンを等間隔で縫い付けて縞模様にした幅広のベルトがついている。背中に同じ黒のベルベットでくるんだ小さなボタンを縦に並べ、腰のところには薔薇の花束を模して作ったコサージュを飾った。この薔薇の花はマゼンタのタフタに黒のチュールを重ねて形作り、花芯の部分には透き通ったクリスタルのビーズを入れてあるので、遠目にもその煌めきがよくわかる。


 ボディスにかなり多めの装飾を入れたので、そのぶんスカートはシンプルなデザインにした。この二年あまり、ボールガウンのスカートはフープで膨らませるのが流行っていたが、エレナはあまり大きなフープは入れず、トレーンも踊ることを考えて控え目にした。これは当初、(くだん)のご令嬢(くどいようだが、架空の!)が身体が弱くて、という話をヴィクトワールから聞いていたので負担にならないように、と気遣ったところもあったのだが、回り回って舞踏会に慣れていないエレナが着るのにちょうど良いボリュームに収まって助かった、というオチがついたのはご愛敬。スカートはほとんど装飾がなくストンと床まで落ちるシルエットで、エレナは下に合わせるペチコートの裾にぐるっと黒いレースをつけて、歩いたりダンスをしたりしてスカートが揺れるたびにチラッと見えるようにした。もちろんそのレースは、エレナが馬車に轢かれる危険ももろともせず身を挺して守った、あのレースだ。フフフ、ヴィクトワールよ、悩殺されるがいい。


 ヴィクトワールと想いが通じ合ってから、エレナは甘い日々を楽しむ間もなく超特急でドレスを仕上げた。幸いヴィクトワールの言葉通り、エレナのサイズに合わせて仮縫いまで済ませていたので、ウエストも肩も、さほどサイズ調整を入れなくても良かったのはありがたかった。といってもやっぱり三日ばかり、ほぼ徹夜しなければ間に合わなかったけれど。


 社交界のご意見番を気取る海千山千のご婦人がたからは、これから婚約を控えている若い令嬢が、マゼンタと黒なんていう人目を惹く色のドレスを着るなんてはしたない、と眉をひそめられるかもしれなかったが、あえてエレナがそう決めたのには訳があった。ヴィクトワールは軍人だから、王宮での夜会や舞踏会には、将軍職としての軍規で定められた礼装で出席しなければならない。礼装は二種類あって、最も格式の高い第一礼装は白、次の第二礼装は黒だった。だが仮縫いの時点でエレナはヴィクトワールと仲違いして、どちらを着るのか聞きそびれてしまっていたので、マゼンタかターコイズかを選ぶのはある種の賭けだった。白の第一礼装にマゼンタだと華やかを通り越して下品になってしまいそうだし、黒の第二礼装にターコイズだとちょっとちぐはぐな印象になってしまうかもしれない。なかなかに難しい判断を迫られた。


 果たして結果は、ヴィクトワールは黒の第二礼装を着ると言った。理由を尋ねられたヴィクトワールは、真っ赤になって首の後ろを掻きながら、ぼそぼそとこう呟いた。


「白の第一礼装は……結婚式で着る……」


 それを聞いたエレナは、思わずニヤリとほくそ笑んで心の中で親指を立てた。読みが当たった、やっぱり五年の付き合いの長さは伊達じゃない。


 といういきさつがあって、今エレナは、真新しいマゼンタのドレスを身に(まと)ってヴィクトワールの前に立っている。もちろん舞踏会に出席するにはドレスさえあればいいという訳にはいかない。だが有難いことに、カルデローニ伯爵夫人が当日、伯爵家で支度をするよう取り計らって下さった。そこでエレナは伯爵家で一番器用でセンスの良いメイドに髪を結ってもらうことができた。それから宝石は意外なことにヴィクトワールが用意してくれていた。彼が大事そうに開けた黒い革張りのケースの中には、小粒のダイヤモンドを繋げて形作られた繊細なネックレスとイヤリング、ブレスレットのセット(パリュール)が収められていた。目を丸くして驚くエレナに、ヴィクトワールは母親の形見だと教えてくれた。


 ネックレスはヴィクトワールがつけてくれた。おぼつかない手つきで金具をはめる時、彼の指がエレナの首筋に触れた。その瞬間エレナはヴィクトワールの熱を素肌に感じて、思わず背中がビクッと跳ねた。それから二人は伯爵家の玄関に横づけされたヴィクトワールの馬車に乗って王宮に向かったのだが、その間ずっとヴィクトワールは隣に座ったエレナの手を握り締めて離さず、何度もその手を口元に持っていって、そっとキスをした。今まで知らなかったヴィクトワールの繊細で情熱的な一面に触れて、王宮に到着するまでエレナの胸はドキドキと鳴りっぱなしだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ