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コード・オブ・ザ・ワールド ~廃プログラマー、異世界で神のシステムを書き換える~  作者: ネオ・チー


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40/77

第40話 インサイダー

ロジカ王都に着いたのは、翌日の昼だった。


王都は——表面上、静かだった。


街並みはいつも通りだ。大通りには商人が並び、衛兵が交差点に立ち、市民が行き交っている。論理と秩序の国らしく、整然とした街だ。


だが——変わっている。


空気が違う。衛兵の配置が微妙にずれている。王宮に向かう通りの検問が増えている。市民の歩く速さが、心なしか早い。


「緊張している」シェルが小声で言った。「何か——起きています」


「俺もそう思う」


馬を降りて、俺は念のため周囲の源コードを走査した。


  [Debugger's Eye Lv.2: Environmental Scan]

  Location: Logica Royal Capital, Central District

  Normal Processes: 84%

  Anomalous Signatures: 16% ↑

  Warning: Localized Code Distortion Detected

   └─ Source: Northeast Sector (Royal Palace Vicinity)

   └─ Type: PERMISSION_OVERRIDE / UNKNOWN


十六パーセントの異常。


第1巻の調査時に来たときは、バックドアが仕込まれているとはいえ、表面上のノイズは数パーセント程度だった。今は三倍以上に跳ね上がっている。


「何かが——始まっている」


俺は呟いた。




王宮に入ると、アリアが「兄上に挨拶をしてきます」と言って足を速めた。


俺はガルドとシェルに「周囲の情報を集めておいてくれ」と伝え、アリアの後を追った。


止めるつもりではなかった。ただ——一人で行かせるのは、直感が嫌だと言っていた。


謁見の間の前。アリアがヴァリドを呼ぶよう侍女に頼んでいた。数分後、廊下の奥から——ヴァリドが現れた。


第一王子、ヴァリド・フォン・ロジカ。


銀髪。切れ長の目。整った顔立ち。アリアと面影が似ているが、より鋭い。


前に会ったときより——表情が違う。


あのときは冷静だった。俺たちを「道具」として扱う、計算された冷たさがあった。それが——今は違う。どこか、削れている。目の奥に、落ち着かない光がある。焦燥だ。論理的で冷静だったはずのヴァリドが——焦っている。


「アリア」ヴァリドが言った。「戻ったか」


「はい、兄上」アリアが一歩進んだ。「兄上——顔色が優れません。何があったのですか?」


ヴァリドの目が、俺に向いた。


一瞬、硬直した。


「——何もない」


声は平静を保っていた。だが——微妙に、遅かった。答えが出るまでに、コンマ数秒のラグがある。


「お前こそ、外部の冒険者と連んで何をしているんだ」


アリアに向けた言葉だが、視線は俺から離れなかった。拒絶の色。それだけじゃない。警戒だ。


「調査の報告です、兄上。ネットワーク連合へのDDoS攻撃の発信源を——」


「報告は父上にしろ。俺には関係ない」


ヴァリドは言い切った。


そして——踵を返した。




「兄上」


アリアの声が、低くなった。


ヴァリドの足が止まった。


「——兄上が、変わってしまった」


その言葉に、廊下が静かになった。


「以前の兄上は、論理的な判断を誰より大切にしていた方でした。感情に流されることなく、事実を積み上げて——それが兄上の強さだと、私はずっと尊敬していました」


ヴァリドは振り返らなかった。


「今の兄上は——話を聞こうとしない。事実から目を逸らしている。それが——怖い」


長い沈黙があった。


ヴァリドが——ゆっくりと、廊下の奥へ消えた。


足音が遠ざかっていく。


アリアは、その背中を見ていた。


俺は何も言わなかった。


今は——何も言えなかった。




宿に戻った俺たちを、シェルが待っていた。


「収集した情報を報告します」


シェルは手帳を開いた。


「王宮の内部で、第一王子派の近衛兵が主要な通路を封鎖しています。国王陛下の行動が三日間制限されている——というのが、王宮の給仕から得た証言です」


「三日前から」俺は繰り返した。


「はい。ネットワーク連合へのDDoS攻撃は——五日前に発生しています」


俺は頭の中で数字を並べた。五日前にDDoS攻撃。三日前からクーデター的な動き。


「DDoSは——牽制だ」


俺は言った。「他国からの干渉を遮断するために。通信を落として、王都を孤立させてから——内部を固めた」


「計画的ですね」シェルが言った。


「ああ。だが——ヴァリドの様子は計画的じゃなかった。焦っている。追い詰められている。計画があるなら、もっと落ち着いているはずだ」


「つまり——」


「計画はヴァリドのものじゃない。誰かに——操られている可能性がある」


部屋が静まった。




夜。


俺は一人で王宮の外壁沿いを歩いた。


デバッガーズ・アイを起動したまま、王宮全体の源コードをスキャンする。


大半は——既存のバグによる自然なノイズだ。建物の構造コードに古い記述が残っていたり、魔法的な照明システムの処理が非効率だったりする、普通の「技術的負債」。


だが——一点だけ、違う。


王宮の東棟。ヴァリドが消えた方向。そこから、微かな——異質なコードの気配がする。


自然なノイズとは違う。パターンが違う。まるで——


  [Debugger's Eye Lv.2: Anomaly Detection]

  Signature Type: EXTERNAL_CODE_INJECTION

  Origin: East Wing, Royal Palace

  Detected on: HUMAN_CLASS_ENTITY

  Warning: Target entity may have been subject to CODE_REWRITE

   └─ Confidence: 61%

   └─ Affected parameters: [REDACTED - Access Denied]


アクセス拒否。


見えない。詳細が読めない。だが——「HUMAN_CLASS_ENTITY」に対する「CODE_REWRITE」。


人間のコードが——書き換えられている。


俺は立ち止まった。外壁に背を預け、夜空を見上げた。


ヴァリドの周辺から、異質なコードの気配がする。


まるで——誰かに書き換えられたような。


ビジュアル帝国の宮廷魔法師。データベルグ公国への攻撃。ネットワーク連合のDDoS。そして——ロジカ王国の第一王子。


ヴァイラスは各地で協力者を作っている。人々の欲望を利用して。


ヴァリドの欲望は何だ。


——国を守りたい。王族として、自分の手で。


その願いが——利用された。


「明日」


俺は呟いた。


「明日、全部はっきりさせる」


夜風が吹いた。王宮の塔に灯る魔法灯が、一つだけ——点滅していた。






次回、第41話「クーデター」——王宮の奥で真実が暴かれる。ヴァリドが選んだ道は、誰かに選ばされた道だったのか。そして——アリアが初めて、兄に向かって怒鳴った。

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