表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コード・オブ・ザ・ワールド ~廃プログラマー、異世界で神のシステムを書き換える~  作者: ネオ・チー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/35

第4話「ゴブリン・オーバーフロー」

 廃村の調査から三日後。


 村に戻ってから、俺はずっと仕様解析ノートを眺めていた。


「バグレポート #001: データ消失エラー(クウォレン村)。優先度: CRITICAL」


 書いたはいいが、対処法が何もない。ReadOnlyのデバッガーには、バグを観察することしかできない。歯がゆさを抱えたまま三日が過ぎた。


 四日目の朝に、森の番人ギルデンが血相を変えて帰ってきた。


「ゴブリンが——群れてる。十匹以上の群れなんて、この森じゃ見たことねぇ」


 嫌な予感がした。


---


 翌日、報告が来た。二十匹。


 その次の日、四十匹以上の目撃情報が重なった。


 俺は静かに仕様解析ノートを開いた。


 三日前、廃村の帰り道に、近くの森でゴブリンのパラメータを走査したことがあった。その時に見た数値を記録しておいた。


```

Goblin_Scout_0x88A1

spawn_rate: 10000 (expected: 100)

spawn_interval: 0.3sec (expected: 30sec)

population_cap: DISABLED

```


 三日前の時点で、すでにこの値だった。


「バグだ」


 俺は即座に断定した。


 スポーンレートが通常の百倍。スポーン間隔が百分の一。個体数上限が無効化されている。三つのパラメータが異常値を示しているということは、どれか一つのフラグが誤って書き換えられたわけじゃない——意図的に、あるいはシステム的な異常で、複数の値が同時に崩壊している。


「無限ループでゴブリンを生成し続けてる……まずいな、これ」


 増殖速度を計算した。今日が三日で四十匹なら、一週間後には三百を超える。二週間後には指数関数的に——


 考えるのをやめた。計算するより動いた方がいい。


---


 村人たちはパニックになり始めていた。


 王都に援軍の要請を出したが、「状況を確認のうえ、適切な対応を検討する」という返事しか来ない。辺境の村のゴブリン騒ぎに、王国が即座に動くわけがない。


 俺が動くしかない。


 エンジニアとして考えた。バグを根本から直すのが最優先だが、今できることは「被害を最小化するワークアラウンド」だ。根本原因を直せない間は、その影響を迂回する策を取る。


 村の広場で、ゴッドと村人数人を集めた。


「ゴブリンの行動AI——動き方のパターンを分析しました。視野範囲が狭い。聴覚感度が高い。個体ごとに縄張りを持っていて、その範囲内に侵入した対象を攻撃する傾向がある」


「お前、何でそんなことがわかるんだ?」


 猟師のギルデンが疑わしそうに問う。


「仕様書を読んだ、というイメージで」


 しばらく沈黙があった。


「……わけわからんが、信じてみるか」


 ギルデンが折れた。


 俺はゴブリンの縄張りと巡回ルートを紙に書きながら、説明した。「フロントラインの個体を徹底的に叩いて、残りを散らす。群れが崩れれば個別に対応できる。村の入口に罠を並べれば、数の差をある程度埋められる」


 元冒険者のバッシュ——引退して十年、腰が少し曲がっているが剣を手放していない老人——が腕を組んで聞いていた。


「罠の素材はある。俺が仕掛け方を教える」


「助かります、バッシュさん」


「ただし」とバッシュは続けた。「これは時間稼ぎだろう。根本を直さん限り、いたちごっこになるぞ」


 鋭い人だ。俺は頷いた。


「そうです。ワークアラウンドだけでは追いつかない。でも今夜は、これで持ちこたえるしかない」


---


 その夜の作戦は、機能した。


 罠を仕掛けた森の入口で、群れの先頭集団が足止めされた。バッシュの剣さばきとギルデンの弓が、俺の指示を元にゴブリンを各個撃破していく。


「次は右! 三体が連携しようとしている——間に誰か割り込んで分断して!」


「今! 真ん中の個体がヘイトをそらした! 背後が空いている!」


 リアルタイムでゴブリンのAIが読めるのは、やはり強い。どこに移動するか、次の攻撃がいつ来るか、どの個体が群れ行動の中枢を担っているか——全部、コードとして見えている。


 日付が変わる頃には、その夜押し寄せた群れを散らせた。


 村人たちが疲れ切った顔で倒れ込んでいる。俺も膝に手をついた。


「よくやった」とバッシュが静かに言った。


---


 翌朝。


 また来ていた。


 新しい群れが、森の縁に姿を現していた。昨夜より多い。昨夜より近い。


「……増殖速度が昨日より上がっている」


 デバッガーズ・アイで走査した数値が、予想よりひどかった。


```

total_active_goblins: 1,847

spawn_rate_today: +743 体/日

population_growth: exponential (係数: 1.6)

```


 指数関数的な増加。係数が一・六。倍々ゲームよりは遅いが、このペースが続けば——三日後には数千体になる。


「ワークアラウンドじゃ追いつかない」


 俺は仕様解析ノートに書き込んだ。


「バグレポート #002: ゴブリン無限スポーン

現象: スポーンレート100倍 / 間隔1/100 / 上限DISABLED

増殖傾向: 指数関数 (係数1.6)

対処状況: ワークアラウンド(罠・撃退)実施中 → 効果不十分

根本解決: スポーンポイントのコア変数を書き換える必要あり

問題: 現状のLv.1ではREAD_ONLYのため書き換え不可」


 ペンを止めた。


 ゴッドが部屋に入ってきた。湯気の立つ飯を持ってきてくれた。無言で机に置いた。


「食え」


「……ありがとうございます」


 俺が食べている間、ゴッドは窓の外を見ていた。


「いつまで持ちこたえられる、と思う」


 老人の問いは静かだった。答えを求めているというより、自分自身に確認しているような声だった。


「このままでは……三日が限界だと思います」


 正直に言った。ゴッドは無言で頷いた。


「わかった」それだけ言って出ていった。


---


 その夜、俺は一人で考えた。


 根本を直しに行くしかない。


 スポーンポイントを探して、コアに触れる。今まで「READ_ONLY」だったこの目で、コードを書き換える。できるかどうかは——正直わからない。Lv.1の制限がそのままなら、触れても読むだけだ。


 でも。


 経験値の取得を、俺は確認している。マルの毒を解除したとき、視界に通知が出た。スキルに習熟度が蓄積されているはずだ。


 レベルアップの条件は何か。「デバッグを成功させること」だとしたら——今がその機会だ。


 廃村のエラーは、まだ手が出せない規模だった。でもゴブリンのスポーンポイントなら——場所は絞れている。コアのコードも想定できる。


「直しに行くしかない。スポーンポイントを探して、コアに触れる」


 声に出した。誰もいない部屋に、自分の声だけが響いた。


 これまで「書き換え不可」だったこの目で。できるかどうかも分からないまま、覚悟を決めるしかなかった。


 翌朝、夜明け前に俺は動き出した。

次回、第05話「初めてのホットフィックス」——スポーンポイントの核心で、蓮は削除するか修正するかを問われる

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ