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河内正則・栄光への道  作者: リンダ


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30/33

初戦突破

5回表 岬ゴールデンクラブの攻撃


スコアは 2-0。

川原監督はここで、予定どおりマウンドを動かした。


「智雄、行け」


池永智雄が立ち上がる。

ブルペンでゆっくり投げていたときとは、雰囲気が違った。


有村のミットに向かって投げ込んでいたのは、あくまで“見せ球”だった。

打者を前にした瞬間、智雄の球は別物になる。


マウンドへ向かう背中を見て、正則が短く言う。


「いつも通りでええ」


智雄は振り返らず、右手を軽く上げた。


岬ゴールデンクラブのベンチは、正則の丁寧な投球から、いきなり智雄の登板に少しざわついた。


しかも――


智雄は初球から、別の世界を見せる。


先頭打者


初球。

ふわり、と浮かぶような超スローボール。


打者の体が、思わず前に出る。

見送ったつもりが、ストライクゾーンに入る。


「ストライク!」


二球目。

今度は一転して、重たい速球。


打者は差し込まれる。

スイングが遅れる。


三球目。

また、ゆっくり。


打者のタイミングは完全に壊れた。


打球は詰まってセカンドゴロ。

宮本さくらが捕って、一塁へ。


ワンアウト。


二人目


岬ベンチが叫ぶ。


「待て!待て!」


だが、待てばいいというものでもない。

智雄の投球は、“待つ”ことで余計に迷う。


初球、速球。ストライク。

二球目、超スロー。ファウル。

三球目、内角寄りの重い球。


バットが押し返されるように折れそうな音を立てて、ショートゴロ。


梶原がさばく。


ツーアウト。


三人目


ここで智雄は、プレートの端を使った。

右打者の内へ、ベース半分から一個分寄せるように見せてくるストレート。

変化球は禁止でも、角度で変化球のように錯覚させる。


初球、見逃しストライク。

二球目、超スロー。

三球目、また速球。


打者は完全に泳いだ。


バットの先に当たった打球は、浅いセンターフライ。

梶原が前へ出て、落ち着いて捕球。


スリーアウト。


智雄は、わずか 8球 でこの回を終わらせた。


岬ゴールデンクラブの打者たちは、ベンチへ戻りながら首を振る。

あの強烈な緩急に、フォームそのものを崩されていた。


5回裏 タイタンズの攻撃


タイタンズは、こういう回を逃さない。

守りでリズムを取り、そのまま攻撃へ入る。


この回の先頭は――


8番 朝倉美羽


美羽は、派手なことをしない。

ただ、粘る。


左サイドの球をよく見て、インコースを切る。

外を見送る。

ストライクはまた切る。


最後は外角が外れた。


フォアボール。


ノーアウト一塁。


ベンチの川原監督が、ここで動く。


「智雄、そのまま9番入れ」


正則に代わって、智雄が9番に入る。


智雄はバットを持って打席へ向かう。

だが、この打席の仕事は“打つ”だけじゃなかった。


9番 池永智雄


初球。見送る。

二球目。ファウル。


そして――


三球目。


一塁走者・美羽がスタート。


投手のモーションを盗んだ。

完璧なタイミング。


盗塁成功。


ノーアウト二塁。


智雄は、何事もなかったように打席へ戻る。

相手バッテリーの意識は、もう打席より走者だ。


四球目、ボール。

そして 五球目。


また美羽がスタート。


今度は三塁。


捕手の送球は悪くない。

だが、美羽の足が上回った。


三盗成功。


ノーアウト三塁。


球場がどよめく。

ノーヒットのまま、三塁まで来ている。


ここで智雄は、最低限を狙った。


次の球を高く打ち上げる。


打球はセンターへ。


十分な深さ。


犠牲フライ。


三塁走者・美羽がタッチアップでホームイン。


3-0。


ワンアウト。

しかも、ヒットは一本も出ていない。


1番 梶原和樹


梶原は初球を見送り、二球目をカット。

そして 三球目。


鋭く振り抜いた打球は、サードへの強いゴロ。


だが三塁手の正面。

一塁へ送ってアウト。


ツーアウト。


2番 宮本さくら


さくらは初球を見送り、二球目をファウル。

三球目、ボール。

四球目、またファウル。


そして 五球目。


打ちにいった打球は、ショートゴロ。


一塁送球、アウト。


チェンジ。


5回終了


タイタンズはこの回、


美羽のフォアボール


智雄の打席で二盗、三盗


智雄のセンターへの犠牲フライ


で、ノーヒットで1点を奪った。


スコアは 3-0。


投手戦の中で、この一点は大きい。

しかも、打たずに取った一点。


川原監督がベンチで小さく言う。


「こういう一点が、最後に効く」


まさにその通りだった。




スコアは 3-0。

タイタンズのベンチは、静かだった。

でもその静けさは、余裕じゃない。

相手を締めにいく時の、張った空気だった。


マウンドには、引き続き池永智雄。

前の回、強烈な緩急で相手のタイミングを崩した。

だから岬ゴールデンクラブの打者たちは、もう“速い球だけ”を見ていない。


(いつ、あのスローボールが来る)

(いつ、タイミングを外される)


その迷いが、もう武器になっていた。


この試合のマスクは藤原航。

それでも、智雄との呼吸は合っている。

航がミットを内角低めに構える。

智雄が、うなずく。


7番打者


初球――

一転して、重い速球。


打者はスローボールを待っていたのか、バットが出ない。

見逃しストライク。


二球目。

今度は外角低めへ、さらに強く。


打者はまだ動けない。

見逃しストライク。


一気に追い込む。


三球目。

智雄はためらわず、もう一度速球で押した。


内角寄り。ベース半分から一個分、内へ入るような錯覚。

打者はバットを出しかけて、止まる。


「ストライク!」


三球三振。


岬ベンチがざわつく。

スローボールを警戒したところへ、重い速球を三つ並べられた。

それだけで、打者は何もできなかった。


8番打者


この打者には、逆に“時間”をずらす。


初球、超スローボール。

ふわりと浮くように入って、ストライク。


打者の肩がわずかに揺れる。


二球目、今度は速球。

バットが遅れる。ファウル。


三球目、またスロー。

打者は前に出るが、辛うじて見送る。ボール。


四球目、外角低めの重い速球。

打者の体勢が崩れ、バットの軌道が遅れる。


ツーストライク、ワンボール。


五球目。

再び、超スローボール。


さっきより、ほんの少しだけ高い。

打者は思わず手を出す。


だが、タイミングは完全に前。


バットが空を切る。


五球で三振。


9番打者


ここで智雄は、さらに丁寧になった。

もう力で押し切るだけじゃない。


初球。外角低め。

ストライク。


二球目。

今度は内角高めを見せる。

打者が反応するが、ファウルにもならない。


そして三球目。

外角寄り、少しだけ高いところへ。

“打てる”と思わせる高さ。


打者は振る。


しかし、芯は外されていた。


打球はふわっと上がる。

ライト方向。


村瀬涼太が一歩、二歩と前へ出て、落ち着いて捕球。


スリーアウト。


チェンジ。


6回表、智雄は


7番を 三球三振


8番を 五球三振


9番を 三球ライトフライ


わずか 11球で終わらせた

ベンチへ戻る智雄に、航が言う。


「今の、完全に読まれてへんかった」


智雄は軽く息を吐く。


「読ませたくない球、見せてるからな」


川原監督は頷く。


「よし。あと一回、星野で締める」


タイタンズは、着実に勝ちへ近づいていた。




スコアは 3-0。

流れは完全にタイタンズにある。

だが、こういう試合ほど、最後まで気を抜いたほうが負ける。


左サイドの投手も、もう崩れそうで崩れない。

タイタンズも追加点を急がない。

“次の守りにつなぐ打席”を重ねていく。


4番 三宅奈緒


初球、外角。ファウル。

二球目、低め。ボール。

三球目、外へ逃げる球。泳がされる。


打球はセカンドゴロ。


ワンアウト。


5番 藤原 航


航は粘る。

ファウルで食らいつく。

でも、最後は外角低めいっぱい。


見逃し三振。


ツーアウト。


6番 金町圭介


金町は強く振りにいった。

だが、左サイドの球は最後に少し逃げる。


打球は浅いレフトフライ。


スリーアウト。


タイタンズもこの回は、三人で攻撃終了。


ベンチに戻ると、川原監督が静かに言った。


「よし。締めや」


7回表 岬ゴールデンクラブの攻撃


マウンドに上がるのは、星野慎一。


最終回。

点差は3。

投手戦の最後を締めるには、これ以上ない男だった。


星野は智雄のような強烈な緩急ではない。

だが今日は、いつもよりさらに球速を上げてきた。

決めにきている顔だった。


今日のマスクは引き続き藤原航。

航がミットを高めに構える。


「慎一、初球から行け」


星野は笑った。


「了解」


先頭打者


初球。

ズバン。


いつもの慎一より、明らかに速い。

打者が一瞬止まる。


二球目、外角低め。

ファウル。


三球目、また高めに見せて――

少し沈む。


打者のバットが空を切る。


三振。


ワンアウト。


8番打者


ここも星野は容赦しない。


初球、内角。ストライク。

二球目、外角いっぱい。ストライク。

三球目、わずかに高い速球。


打者は差し込まれた。


打球はショートへ。


ショートの加藤亜由美が落ち着いてさばき、一塁へ。


ツーアウト。


9番打者


あと一人。


岬ベンチは最後まで声を張る。

「一本!一本!」


でも星野の表情は変わらない。


初球、外角低め。ストライク。

二球目、高めに見せてファウル。

追い込む。


最後の三球目。

内角寄りに食い込む速球。


打者は振る。

だが詰まった。


打球はセカンド方向へ高く上がる。


宮本さくらが前に出て、グラブを上げる。


捕球。


ゲームセット。


試合終了


大阪タイタンズ 3-0 岬ゴールデンクラブ


最後のアウトが収まった瞬間、

タイタンズのベンチが一斉に飛び出した。


正則が真っ先に星野の肩を叩く。


「完璧や」


智雄が笑う。


「最後、速かったな」


星野は照れくさそうに言う。


「決める時くらい、ちょっと見栄張ってええやろ」


真央がスコアブックを閉じながら、静かに告げる。


「ノーヒットノーラン。無四球。エラーなし。」


絵里が続ける。


「守備機会、全部処理。四死球ゼロ。

……完勝です」


川原監督は大きくはしゃがない。

でも、目だけが熱い。


「よし。

これが、夏の入口や」


ヒットを一本も許さず。

四球も与えず。

守備のミスもなく。

最後まで、流れを一度も手放さなかった。


完勝。


大阪府代表を目指すタイタンズの長い夏は、

これ以上ない形で始まった。


スコアラーから、主要データが打撃とピッチングで詳細に出される。




真央が最後の確認を終えて、監督のところへ歩いてくる。


「監督、主要データまとまりました」


川原監督が受け取り、選手たちにも見えるように声を上げる。


試合データ(タイタンズ vs 岬ゴールデンクラブ)

■最終スコア


タイタンズ 3-0 岬ゴールデンクラブ


■ピッチングデータ

河内正則(先発)


投球回:4回

打者:12人

被安打:0

四球:0

三振:3

球数:36


内容

・ストライク先行率:約70%

・ボール1個〜半個のコントロール

・高低差と内外の使い分けで完全に主導権


真央のコメント

「打者が狙い球を絞る前にカウントを作っています。

この段階で相手打線のタイミングはほぼ崩れていました」


池永智雄(2番手)


投球回:2回

打者:6人

被安打:0

四球:0

三振:4

球数:19


内容

・60km前後の超スローボール

・140kmの速球

・球速差 約80km

・プレート左右を使った角度のある直球


絵里のコメント

「速球を待つとスローボール、

スローを待つと速球。

完全にバッティングフォームが崩されていました」


星野慎一(抑え)


投球回:1回

打者:3人

被安打:0

四球:0

三振:1

球数:9


内容

・試合最速のストレート

・ストライク先行で三人斬り


■チーム投手成績


投球回:7回

被安打:0

四球:0

失点:0


ノーヒットノーラン

無四球

エラーなし




試合後。

スコアラー席では、森下真央と新田絵里がスコアブックを整理していた。

タブレットに入力されたデータが、すぐにチーム共有の画面に表示される。


真央が声をかける。


「打撃データ、1番から出すよ」


選手たちがベンチ前に集まる。

川原監督も腕を組んで見ている。


■タイタンズ打撃データ

1番 梶原和樹(中)


打数:3

安打:0

打点:0


内容

・ファーストライナー併殺

・サードゴロ

・守備ではセンターフライ処理


真央コメント

「強い当たりは出てます。

次はコース読みを合わせれば長打になります」


2番 宮本さくら(二)


打数:3

安打:0

打点:0


内容

・レフトライナー

・ショートゴロ

・守備機会2回処理


3番 加藤亜由美(遊)


打数:3

安打:1

得点:1


内容

・ライト前ヒット

・好機で進塁打


絵里コメント

「チャンスの起点になった打席です」


4番 三宅奈緒(一)


打数:3

安打:1

二塁打:1

得点:1


内容

・左中間二塁打

・チャンスメイク成功


真央コメント

「今日の一番の長打です」


5番 藤原航(捕)


打数:1

安打:0

四球:1

打点:1


内容

・セーフティースクイズ成功


川原監督

「この一点が一番大きい」


6番 金町圭介(三)


打数:2

安打:0

打点:1


内容

・センター犠牲フライ


7番 村瀬涼太(右)


打数:2

安打:0


内容

・ショートライナー併殺


8番 朝倉美羽(左)


打数:1

安打:0

四球:1

得点:1

盗塁:2(2塁・3塁)


絵里コメント

「この試合一番走塁でプレッシャーをかけました」


■投手の打撃データ

9番 河内正則


打数:1

安打:1


内容

・センター前ヒット

・チャンスメイク


9番(途中出場)池永智雄


打数:1

安打:0

打点:1


内容

・センター犠牲フライ


■チーム打撃まとめ


打数:20

安打:3

四球:2

盗塁:2

得点:3


得点内訳

スクイズ:1

犠牲フライ:2


真央が最後にまとめる。


「ヒットは3本だけですが

走塁・スクイズ・犠牲フライで3点です」


絵里が続ける。


「守備エラーゼロ

四死球ゼロ

ノーヒットノーラン」


川原監督が笑う。


「派手じゃないけどな」


そして一言。


「これが一番強い野球や」





ヒットの内訳


河内正則

 センター前ヒット(3回裏)


加藤亜由美

 ライト前ヒット(4回裏)


三宅奈緒

 左中間二塁打(4回裏)


つまり


単打:2本

二塁打:1本

合計:3安打


■修正後チーム打撃まとめ


打数:20

安打:3

四球:2

盗塁:2

得点:3


得点内容

・セーフティースクイズ:1

・犠牲フライ:2


■主要打撃

打順選手成績

1梶原3打数0安打

2宮本さくら3打数0安打

3加藤亜由美3打数1安打1得点

4三宅奈緒3打数**1安打(2塁打)**1得点

5藤原航1打数0安打1四球 1打点スクイズ

6金町圭介2打数0安打 1打点(犠牲フライ)

7村瀬2打数0安打

8朝倉美羽1打数0安打1四球 1得点・盗塁2

9河内正則1打数1安打

9途中池永智雄1打数0安打 1打点(犠牲フライ)





試合後、スコアラー席。

森下真央と新田絵里がスコアブックを見ながら、打撃成績を打率まで計算して整理する。


真央がタブレットを監督に渡す。


「打率まで出しました」


川原監督が画面を見ながらうなずく。


■タイタンズ打撃成績(打率付き)

打順選手打数安打打点四球打率

1梶原和樹3000.000

2宮本さくら3000.000

3加藤亜由美3100.333

4三宅奈緒3100.333

5藤原航1011.000

6金町圭介2010.000

7村瀬涼太2000.000

8朝倉美羽1001.000

■投手の打撃

選手打数安打打点打率

河内正則1101.000

池永智雄101.000

■チーム打撃まとめ


打数:20

安打:3

四球:2

盗塁:2


チーム打率

.150


得点内訳


・セーフティースクイズ 1

・犠牲フライ      2


絵里が少し感心したように言う。


「ヒットは3本だけなのに、3点取れてます」


真央がスコアブックを閉じる。


「走塁と作戦で点を取った試合ですね」


川原監督が笑う。


「打率だけ見たら普通やけどな」


そして一言。


「野球はヒットの数で勝つんやない。点の取り方で勝つんや。」

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