大阪府大会開幕
大阪市長杯の優勝で、タイタンズの名前は一気に広まった。
けれど――次に始まる戦いは、もっと現実的で、もっと残酷だった。
全国大会への切符をかけた大阪府大会。
一度負ければ終わり。
“勢い”だけじゃ勝てない。
“層”と“準備”と“平常心”が、勝敗を決める。
そしてタイタンズは――
市長杯優勝チームとして、シード扱い。
2回戦からの登場だった。
大阪府大会・開幕
トーナメント表が貼り出された日。
グラウンドの空気が変わった。
誰も冗談を言わないわけじゃない。
でも笑い方が、ほんの少しだけ固い。
川原監督が言う。
「2回戦から、ってのは楽ちゃうぞ。
初戦が“いきなり強い相手”になる。
しかも相手は、こっちのデータを持ってる」
真央と絵里が頷く。
市長杯を制したチームは、研究される。
目立つ者ほど、狙われる。
有村がミットを叩く。
「せやから、こっちは“上回る”だけや」
初戦までの一週間(2回戦に向けて)
この一週間、タイタンズは「試合の入り方」を作り直した。
正則:初回の球種配分を変える(相手の待球策対策)
智雄:球数管理を徹底(自滅の芽を潰す)
星野:最終回想定の“9球勝負”を仕上げる
亜由美:二塁ベース周りの連携強化(牽制・タッチプレー)
奈緒:アウトコースの甘さを一撃で仕留める準備
美羽:外野の返球とバックホームの精度を上げる
航:内野全部のカバー(誰が出ても守備が崩れない)
涼太:一点を取りにいくバント、スクイズを反復
そして真央と絵里は、対戦候補の映像とスコアを洗い、
「勝ち筋」を紙一枚にまとめた。
2回戦当日
朝の球場は、まだ涼しい。
でもベンチに入った瞬間、息が変わる。
相手は、1回戦を勝ち上がってきたチーム。
すでに“試合の空気”を吸っている。
アップから声が出ている。
足が軽い。
目がギラついている。
タイタンズはシード。
だからこそ、ここでつまずけば――
「シードで負けた」と言われる。
川原監督が円陣を組ませる。
「いいか。相手は今日が“二試合目の気持ち”や。
こっちは今日が“初戦”。
でもな――初戦の空気なんか、最初のアウト三つで消える」
正則が頷く。
有村が言う。
「最初の三人、切ってこい」
智雄が小さく笑う。
「そしたら、俺らの流れや」
ベンチの“厚さ”が武器になる
控えの四人が並ぶ。
金町圭介。
藤原航。
朝倉美羽。
村瀬涼太。
川原監督が、ぼそっと言う。
「今日は全員使う。
夏は“11人で勝つ”もんやない。
“全員で勝つ”もんや」
その言葉に、ベンチが締まる。
大阪府大会 2回戦(タイタンズ初戦)
vs 岬ゴールデンクラブ
先発:河内正則
朝の球場。
海風が少しだけ混じるグラウンドに、岬ゴールデンクラブのアップの声が響いていた。
相手投手は左のサイドクォーター。
腕が横から出てくる。
球速は突出していないのに、角度とコースの出し入れで芯を外す。
そして何より、緩急がいやらしい。
真央がタブレットを見ながら言う。
「ストライクに見せて、ボール一個外すのが上手い。
フルカウントが増えるタイプです」
隣で絵里がうなずく。
「甘く見える球ほど、最後に沈みます。
“打てそう”って思った瞬間が罠です」
川原監督はベンチで腕を組んだまま言った。
「今日は、新しい先発で行く」
ざわっと空気が動く。
「新戦力4人――スタメン。
初戦やからこそ、層の厚さで勝つ」
タイタンズ 先発メンバー(打順つき)
※この試合は“新戦力起用”前提で再編
梶原和樹(中堅)
宮本さくら(二塁)
加藤亜由美(遊撃)
三宅奈緒(一塁)
藤原 航(捕手)※新戦力・先発マスク
金町圭介(三塁)※新戦力
村瀬涼太(右翼)※新戦力
朝倉美羽(左翼)※新戦力(強肩・判断力)
河内正則(投手)
ベンチスタート:有村恒一郎、池永智雄、星野慎一ほか
先発マスク:藤原航
捕手防具を着けた航が、ミットを叩く。
隣で有村が静かに見ていた。
航はこの夏、ずっと有村の横で捕手の基本を磨いてきた。
ミットの“動かしすぎない”捕球
ワンバウンド処理
二塁送球のステップ
そしてピッチャーの心を落ち着かせる声のかけ方
有村が小さく言う。
「ビビんな。
投手はお前の胸に投げるだけでええ。
あとは俺が教えた通りやれ」
航はうなずく。
「はい」
そしてマウンドへ向かう正則に声をかける。
「正則、最初は外でええ。
入ってきたら内も使う」
正則が短く返した。
「わかった」
阿吽の呼吸。
派手な会話はない。
でも、噛み合っている。
1回表:正則の立ち上がり(“硬さ”を消す)
航は外角低めに構える。
正則はそこへ、迷いなく投げ込む。
ストライク。
二球目は、わずかに速球を見せて詰まらせる。
三球目、緩い球でタイミングを外す。
この三球で、相手打者の目が泳ぐ。
(速いのか?遅いのか?どっちだ?)
正則は感情を出さない。
航もミットを動かさない。
結果、初回はテンポよくスリーアウト。
シードの硬さが、少しずつ溶けていく。
ベンチで川原監督が一言。
「よし。空気、取った」
1回裏:相手左サイド、厄介な“出し入れ”
先頭、梶原。
見た目は甘い外角。
でも最後にボール一個外れる。
カウントが作れない。
梶原がファウルで粘る。
8球目、ようやく四球をもぎ取る。
「よしっ!」
しかし2番さくら。
低めに沈む球にタイミングが合わず、凡打。
亜由美も、詰まらされる。
二死一塁。
「初戦らしい」展開。
ここで4番奈緒が構える。
相手投手は、緩い球でかわしたい。
でもカウントを悪くしたくない。
――だからこそ、ちょっとだけ甘くなる。
真央がベンチで囁く。
「外、甘い」
奈緒はうなずかない。
ただ、目が変わる。
(来る)




