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河内正則・栄光への道  作者: リンダ


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24/33

準決勝

試合後のグラウンド。

荷物をまとめている正則の袖を、亜由美がくいっと引っ張る。


「なあ、ちょっと寄っていって」


「どこに?」


「うち」


即答だった。



亜由美の家


玄関の引き戸を開けると、

中から明るい声。


「正則くん、お疲れさま!」


亜由美の母、加藤美咲が笑顔で出迎える。

奥から父の加藤健太郎も顔を出す。


「ナイスゲームやったな。

ニュースアプリで途中経過見とったで」


正則は少し照れながら、


「ありがとうございます」


と頭を下げる。


美咲がテーブルに並べる。

•冷えたオレンジジュース

•カットフルーツ

•手作りのクッキー


「いっぱい動いたやろ?食べて帰り」


亜由美がすでにグラスを二つ用意している。


「ほら、正則。座り」



オレンジジュース片手に野球談義


正則が一口飲む。


「……うま」


「今日、あのアウトハイよう打ったな」


健太郎が言う。


「投球練習で軌道見てました」


正則は淡々と答える。


亜由美が横から口を挟む。


「もうな、あいつ、

ピッチング練習の球の回転まで見とるで」


「うるさい」


でも、まんざらでもない顔。



バッファローズの話


亜由美がスマホを取り出す。


「そうや、今日デーゲームやろ?」


「バッファローズな」


速報を開く。


【バッファローズ 6 ― 2 イーグルス】


スタメン捕手:有村雄一

•4打数2安打

•2打点

•リード安定


正則が少し身を乗り出す。


「有村の親父さん、今日も打っとる」


健太郎がうなずく。


「ええキャッチャーは、

打たれたときの顔が違う」


亜由美が言う。


「今日の智雄みたいやな」


正則は少し黙る。


「……あいつ、今日踏ん張った」


「せやな」


亜由美は正則を見る。


「正則、ああいうとき、

めっちゃ冷たいこと言うやろ?」


「冷たないわ」


「いや、冷たい。でも優しい」


正則は言い返さない。



夕方の空気


クッキーをかじりながら、

自然と話は続く。

•配球の読み

•球数管理

•打者心理

•メンタル


亜由美はセカンドから見た景色を話す。


「今日な、2回のとき

相手ピッチャー、完全に目泳いどった」


「うん」


「打たれる前から負けとる顔やった」


正則は静かに言う。


「俺も、ああなったら終わりや」


亜由美はすぐ返す。


「ならん。

あんたはならん」


その言い方が、妙に確信的だった。



帰り際


「正則くん、またいつでも寄ってな」


美咲が言う。


「ありがとうございます」


玄関を出て、自転車を押す。


亜由美が小声で言う。


「なあ」


「ん?」


「今日、ほんまにかっこよかったで」


正則は前を向いたまま、


「……セカンドおったからや」


亜由美は一瞬止まる。


「それ、ずるいわ」


でも、嬉しそうだった。


夕暮れの道を、

並んでペダルを踏み出す。


試合の数字も、

歓声も、

悔しさも。


全部ひっくるめて、


今はこの時間が、

一番静かで、

一番あたたかかった。







了解、準決勝いこう。

ここは「空気が変わる試合」やね。正則が先発で、智雄が4番に入る。配置換えが効いて、チームのリズムが一段上がるやつ。



大阪市長杯・準決勝


大阪タイタンズ vs 天王寺エンジェルス


タイタンズ後攻/先発:河内正則


試合前、グラウンドにはいつものキャッチボールの音が響く。

でも、今日のタイタンズは“静かに熱い”。


正則はマウンド付近ではなく、外野寄りのラインで控え捕手と肩を作っていた。

力は入れていない。フォームを崩さない。

指先の感覚だけを確かめるように、真っ直ぐを投げる。


一方、有村は星野慎一とキャッチボール。

有村の球は鋭く、星野の捕球は柔らかい。

二人とも、言葉は少ない。


(今日は守りで勝つ)

そんな意思が、キャッチボールのテンポに滲んでいた。


そして整列。

マスクは、もちろん有村がかぶる。



タイタンズ先発メンバー(準決勝/打順)


※「正則と智雄のポジション入れ替え」+「正則9番、智雄4番」以外は大きく変えない形

1.梶原和樹(遊)

2.宮本さくら(中)

3.加藤亜由美(二)

4.池永智雄(右)★打順変更

5.岸本奈緒(一)

6.有村恒一郎(捕)

7.三宅陸斗(左)

8.星野慎一(三)

9.河内正則(投)★打順変更


(※「入れ替わっただけ」という言い方に合わせて、智雄=右翼/正則=投手にしています)



1回表 天王寺エンジェルスの攻撃


プレイボール。

正則がマウンドに立つと、球場の空気がすっと締まる。


有村が構える。低め。

正則はうなずいて、投げた。


先頭打者


初球、外角低め――ストライク。

二球目、同じところ――詰まらせたセカンドゴロ。

亜由美がさばいて一塁へ。


ワンアウト。


2番打者


初球、ストライク。

二球目、ファウル。

三球目、外へ逃がして――空振り。


ツーアウト。


3番打者


初球、低めに置いてストライク。

二球目、打たせてショートゴロ。

梶原が捕って、一塁へ送る。


スリーアウト。


有村がミットを軽く叩く。

正則は表情を変えない。


わずか8球。三者凡退。


ベンチの真央スコアラーが、さらっと言う。

「……立ち上がり、理想」





1回裏 タイタンズの攻撃(準決勝 vs 天王寺エンジェルス)


正則が8球で三者凡退に斬って取った直後、

タイタンズのベンチはざわつかなかった。

ざわつく必要がない。

このチームは、最初から“取りに行く”つもりで出てきている。


先頭、梶原和樹。

相手投手の立ち上がりをじっと見て、甘く入った球を逃さない。


カキン――。


鋭い打球が右中間を割った。

外野が追う。ボールは転がる。


ツーベース。


いきなり二塁に立つ梶原が、手袋を叩く。

「よし」


続く宮本さくらも迷わない。

際どい球は振らない。甘い球だけを叩く。


打球は今度、左中間へ。

また二塁打。


連続ツーベース。


梶原が三塁を回って、余裕のホームイン。

スコアは 1-0。


3番の加藤亜由美は、ひとつ仕事をする。

引っ張りにいかず、流れのままセンター方向へ。


打球はまたも外野の間へ飛んでいく。


三本目のツーベース。


さくらが還って、亜由美は二塁へ。

初回から、もう 2-0。


そして――


4番、池永智雄。


今日の智雄は、四番の顔をしていた。

抑えなければ、ではない。

“返す”ために立っている。


相手バッテリーは慎重になる。

外へ外へ、低め低め。


だがカウントを悪くしたくない。

一球だけ、ストライクを取りに来る。


――高めに、甘く入った。


智雄の目が、そこだけを捉えた。


振り抜いた音が、球場を割る。

打球はレフトへ一直線。

レフトが下がる。下がる。フェンス際――


そのまま消えた。


特大のツーランホームラン。


亜由美が還り、智雄も還る。

スコアは一気に 4-0。


ベンチの有村が、マスクの上から笑った。


「……やるやん」


智雄は何も言わず、ただベースを踏んで戻ってくる。

でも、その背中が少しだけ大きい。



5番も勢いを止めない。

しぶとくセンター前へ運ぶ。


ヒット。


6番はすぐに仕事を切り替える。

バントの構え。確実に転がす。


送りバント。


ワンアウト二塁。


7番は、叩きつけるようなサードゴロ。

三塁手が一塁へ送ってツーアウト――


その間に走者が三塁へ進む。


ツーアウト三塁。


8番は、粘る。

際どい球は見送り、ストライクはファウルで切る。

投手がじわじわ苛立つ。


そして最後は外れる。


フォアボール。


ツーアウト一、三塁。


9番――ピッチャー、河内正則。


さっきの8球。

そして今のこの打線。

“自分も流れの中にいる”ことを、正則は分かっている。


初球、外角。見送る。

二球目、ストライク。

三球目、少し甘い。


正則は強く振りにいかない。

ただ、センター返し。


打球はきれいに二遊間を抜ける。


センター前ヒット。


三塁走者が還り、さらに 1点追加。

スコアは 5-0。


塁上で正則が一瞬だけ拳を握る。


(よし)


そして打順は再び先頭へ。


梶原が打席に入る。

相手投手は、顔色が変わっている。

もう一つアウトを取るのが、こんなに遠い。


梶原は初球を鋭く叩いた。


だが打球はライナー。

ショートが飛びつき――捕った。


ショートライナーでアウト。チェンジ。


攻撃は終わった。

だが、試合の流れはもう、はっきりタイタンズにある。


初回から 5点。


そして、マウンドにはまた正則が戻っていく。





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