公式戦:大阪タイタンズ vsロケッツ
公式戦:大阪タイタンズ vs泉南シャークス
※正則は復帰段階が進み「3回まで」の制限つき先発
試合前、ブルペンで正則は淡々と投げていた。
球威は十分。コントロールは怪我前以上に“細い”。
有村恒一郎がミットを構えたまま言う。
「三回まで。約束や」
正則は頷く。
「分かってる」
亜由美がセカンドから声をかける。
「正則、いつも通りでいいよ。守るけん」
正則は笑って、短く返す。
「頼む」
その会話に余計な力がない。
それが、戻ってきた証拠だった。
1回表(タイタンズ守備)
正則:見せるのは球速じゃなく“支配”
先頭打者。
正則は初球、低めにスッと入れる。
ストライク。
二球目、わずかにタイミングを外して同じコース。
打者が詰まる。
セカンドゴロ。
亜由美が難なく捌く。ワンアウト。
二人目。
正則は“目”で揺さぶる。
セットの間、打者を見すぎず、見なさすぎず。
打者が勝手に「来る」を作ってしまう。
外角低め。
見逃しストライク。
内角低め。
ファウル。
最後は外の角いっぱい。
空振り三振。
ツーアウト。
三人目。
正則は球数を使わない。
ゴロを打たせる球を投げる。
ショートゴロ。三者凡退。
ベンチに戻った有村が言う。
「よし、完璧に“勝つ投球”や」
正則は水を一口飲んで、頷くだけ。
2回表
正則:打者が“何もできない”回
この回も、正則は淡々と抑える。
速さで押さない。
コースで逃げない。
タイミングで外して、最後に刺す。
ライトに飛んだ打球を、宮本さくらが軽快に処理してワンアウト。
ファーストへの送球が逸れても、西村奈緒が形を崩さず捕ってツーアウト。
最後はまた三振。
二回終了:被安打0、四死球0、走者0。
観客席から、ざわざわした声が上がる。
「ほんまに怪我してたん?」
「復帰したばっかやろ…?」
正則は表情を変えない。
でも心の中では、静かに確信していた。
(怖さは残ってる。
でも、俺はもう“怖さに負けない投げ方”を知ってる)
3回表
正則:パーフェクトのまま、マウンドを降りる
この回、ロケッツ(または相手チーム)が初めて強く振ってくる。
狙い球を絞っている。
でも正則は、そこを外していく。
内野ゴロ。
外野フライ。
最後は、低めいっぱいのストライクで見逃し三振。
スリーアウト。
3回パーフェクト。打者9人、完璧。
正則はマウンドを降りるとき、有村に言う。
「約束通り」
有村が笑う。
「約束以上や」
亜由美がセカンドから戻ってきて、正則の肩を一回だけ軽く叩いた。
「おかえり、エース」
その一言で、正則の胸が熱くなる。
4回表:二番手・池永智雄
正則の後を受けて智雄が上がる。
彼の頭の中には、さっきの3回パーフェクトが焼き付いている。
(なんであいつが抑える)
(俺の方が球速いのに)
(俺がエース番号やのに)
でも、その感情が一番危ない。
初球。ストライク。速い。
二球目。ボール。高い。
三球目。ファウル。
四球目。ボール。
五球目。ボール。
四球。
いきなり走者を出す。
次の打者。
三振を取りにいって力む。
球が甘い。
打たれる。
ヒット。
ノーアウト一、二塁。
有村がマウンドへ行く。
「智雄。抑えたいが先に出てる。
やることは一緒。低め。テンポ」
智雄はムッとして言う。
「分かってる。俺の球、速いから」
有村の目が冷える。
「速いのは武器や。
でも武器は“振り回すもん”ちゃう。使うもんや」
智雄は頷いたふりをして戻る。
戻るが、心は落ち着いていない。
球数が増える。
ファウルを打たれる。
粘られる。
四球が増える。
守備の間に合わないゴロが増える。
気づけば、一回に30球近い。
監督がベンチで腕を組む。
ヘッドコーチが言う。
「球数…やばいです」
川原監督が短く言う。
「……準備」
5回表:智雄、2回もたず
この回も立ち上がりで四球。
続けて長打。失点。
智雄は顔が熱くなる。
視界が狭くなる。
(なんで俺だけ)
(なんで俺だけ打たれる)
ついに有村のサインにも迷いが出る。
首は振らない。
でも、投げる球が“嫌々”になる。
甘く入る。
打たれる。
追加点。
ここで川原監督が出てくる。
「交代や」
智雄の目が大きく開く。
「え、まだ…!」
監督は言い切る。
「二回もたん投手に、試合は任せられん」
智雄はマウンドを降りながら、ベンチに向かって吐き出すように言った。
「なんで試合に出てへんかったあいつが抑えられて、
俺は打たれるんだよ……!」
その声は、悔しさそのものだった。
けれど——
その悔しさの向きが、まだ間違っていた。
ベンチ:正則は言い返さない
正則は、その言葉を聞いても何も言わなかった。
言い返したら、智雄はますます“敵”を作る。
ただ、有村だけが静かに言った。
「智雄。
正則は“試合に出てなかった”んじゃない。
出られない間、ずっと準備してた。
投げられなくても、野球してた」
智雄は唇を噛んだ。
亜由美は智雄を見ない。
正則を見ない。
ただ、次の守備位置に戻る。
——それがチームの答えだった。




