エピローグ 改稿
幽霊と再会したものの、僕はそそくさと帰った。
だって、ようやく会えた彼女との時間を邪魔したくなかったから。
生温い熱帯夜の空気を押しのけながら歩いた。歩きながら、涙が止まらなかった。
悲しいわけでも、悔しいわけでもない。といって嬉しいだけではない。幽霊が生きていたことへの猛烈なーー安堵だった。
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それから何日か過ぎた。
時間は正常に進み、残り少ない夏は過ぎていくのだろう。
あれから、幽霊が残した物語はA4のクリアファイルにしまったまま僕の部屋の机から出していない。
時間が巻き戻ってやり直され、幽霊が幽霊でなくなった今、全て消えてしまっているかもしれない。それを目の当たりにするのが怖かった。
伊藤と仲直りをした僕は、すっかり真面目な受験生に戻っている。
勉学に集中して、しばらくは小説を書かないと決めた。
そんなことより、もっと物語を読んでみたくなっていた。浴びるように、溺れるように。たくさんの物語にダイブしたくなった。だって、もう幽霊は現れない。あいつの持ってくる物語を読みたくても読むことはできない。
だから僕は山程本を読んで、それからもう一度物語を書く。
そして幽霊ーー恵太に会った時、胸を張って小説家を目指していると言えるようになっていたい。
(僕は読むんだ)
今のままでは書けない。このままではいられない。変わらないといけない。
僕にはやることがたくさんある。
つまり、決めたってことだ。
僕の物語の改稿を、僕はこれから始める。




