十四『行ってはいけない喫茶店』1
『行ってはいけない喫茶店』
丘の上に喫茶カフェという店がある。その存在を知ったのは、
「あの店に若い男が行くと死ぬ」
と、いう妙な噂話を耳にしたからだ。
でも。僕が気になっているのは並行して伝わってきた、もう1つの方の噂だった。それは、
「あの店に行くと時間を巻き戻せる」
という噂話。
夏期講習が終わって、もう夕方だった。最寄りの駅に降りると、いつもと反対の北口の出口から出る。その店は北口から歩いていける距離にあった。北口の駅前は大学病院までバスが出ていて人はそこそこけれど、コンビニがあるくらいであまり栄えていない。どこか陰鬱な空気が漂うのは、噂話にビビっているせいかもしれない。
(時間が巻き戻る、か)
夏休みの産物かもしれない。暇人の戯言かもしれない。
信じているわけじゃなかった。それなのに、フラフラと店のある丘を登っていた。
確かに、丘の上にカフェはあった。オレンジの屋根の、少しメルヘンチックな外装だった扉には「close」の札がかけられている。
僕はホッとしてしまった。
(帰ろう)
空が暮れかけてきている。夏も終わりに近づいているのか、相変わらずの暑さなのに確実に日は短くなっていた。
帰ろうとして、ふと、声がした気がして振り返る。
でも、一本の木があるだけだった。
(誰かいるの?)
青葉のしげる木へと近づくと、その先は崖になっている。
誰もいない樹の下で、僕は崖の向こうを眺めた。今日は花火の日だ。会場から少し離れているものの、この街からも見ることができる。
(ここからも見えるかな)
この場所は花火見物の穴場かもしれない。そんなことを考えながら、少しぼんやりしていたとき。
僕の体は突然押し出された。
突き飛ばされた僕は、声を上げるまもなくズルズルと崖の下へと落ちていった。




