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3 悲劇的な出来事

※胸糞注意です。ちょっとR描写入りますが、軽めです。

(熱い……)


 ふらりとエドガーは男爵家の屋敷の中に足を踏み入れた。先程までジュディスとガゼボでワインを飲んでいたが、ジュディスの誘いに焦ったこともあり、自身を落ち着かせるためとはいえ、些か飲みすぎてしまい、珍しく酔いが回ってしまっていた。


 酔いが回るといよいよエドガーの理性も抑えが効かない程になってきていた。自分を心配し、寄り添うジュディスの指の感触にすらムラっと欲望が頭をもたげる。

 エドガーはジュディスに先に屋敷に戻るよう声を掛け、自分は陽が沈み少しだけ冷えた外の風に当たって酔いを覚ましてから屋敷に入るとジュディスに告げた。

 ジュディスは了承すると、そっとエドガーの唇に優しいキスを落とした。


 今迄もキスは何度もしていたが、今日は取り分けジュディスから受けるキスの甘さにエドガーの全身がゾクリと粟立った。


 エドガーの熱を持った視線に気付いたジュディスは妖艶な微笑みを浮かべると、意味深にツツ、とエドガーの逞しい胸元を指でなぞり屋敷へと消えていった。


 エドガーはその微笑みと自分の胸をなぞるジュディスの意図を汲み取った。

 最早今のエドガーに理性はほぼ残っていなかった。


 ハァハァと息が上がる。


「ジュディス……」


 エドガーはゆっくりと通い慣れた男爵家のエントランスの階段を昇り、愛しい婚約者の元へとその足を進めた。



 * * *

 


 バタン、とドアが閉まる音でオフィーリアはようやく重い瞼を開けた。

 既に陽が落ちているのか、部屋の中は真っ暗だった。


「私、どれ程寝ていたのかしら……」


 まだ身体からアルコールが抜けきれておらず、ぼんやりとした頭でオフィーリアはベッドに寝たまま呟いた。


「――愛してる」

「え? 」


 オフィーリアの耳に突如として誰かの愛の囁き声が聞こえたと同時に、大きなベッドがギシリと軋んだ。

 そして、そのまま寝ているオフィーリアを何者かが上から強く抱き締めた。


「っ!? 」


 突然の出来事にオフィーリアは驚きと恐怖で声を出すことも出来ず、身体を固まらせた。

 酔いが回っているオフィーリアの身体は、全くと言って良い程力が出せず、知らない誰かの腕から逃れることが出来なかった。


 相手の熱い吐息がオフィーリアの剥き出しの細い首筋にかかると直ぐ様その首をペロリと舐め上げ、吸われる。


「ひっ……! 」


 なけなしの力でオフィーリアがバタバタと抵抗するが、相手はかなりがっしりとした体格をしているようでびくともしなかった。


 ようやく暗がりに目が慣れだした頃、オフィーリアは自分を組敷いている相手の顔を見つめると、その正体に驚愕し、信じられない思いで大きく目を見開いた。


「エ、エドガー様!? 」


 暗がりの寝室で今まさにオフィーリアを襲っているのは姉の婚約者のエドガーその人であった。


「――ああ、なんて滑らかな肌をしているんだ。どんなにこの肌を私は求めたことか……」


 うっとりとエドガーが独り言のように呟いた。

 大分酔っているのか彼の吐く息から強いアルコールの匂いがプンプンと漂っていた。


 エドガーは理性を失ったかのように抵抗するオフィーリアの両腕を大きな手で片手で頭の上で押えると、もう片方の手でオフィーリアの身体を上から下までまさぐり始めた。


「エ、エドガー様! ち、違います。私はお姉様じゃありません……っ! 」


 身体をまさぐられながらもオフィーリアは必死でエドガーに人違いだと訴えた。


「ああ、ジュディス。愛してる……」


 しかしオフィーリアの訴えも虚しくエドガーは我を忘れたように愛しい婚約者の名前を呟くばかりであった。


「嫌っ! 止めて! 」


 震える身体で尚もオフィーリアは抵抗を続けるも、エドガーの行為は止まらない。


 (何故? どうしてこんなことに……っ!? )


 エドガーに無理矢理身体を暴かれながら、オフィーリアは絶望的な気持ちで意識を手放した――



 ◇ ◇ ◇



「どうして……」


 朝になり、エドガーは呆然とした様子でベッドで裸で眠るオフィーリアを見つめていた。

 頭がズキズキと痛むのは二日酔いのせいかそれとも別の痛みなのか。

 エドガーは頭を抱えながら昨夜の記憶を必死で思い出そうとした。


 昨夜、酔っぱらって理性が飛びかけた所まで覚えている。結局ジュディスの誘惑に負けて勢いでジュディスの部屋に来てしまった。

 そしてそのまま眠るジュディスを欲望のままに抱いたのだが――


 しかし、自分の隣で目を閉じ、寝ているのは妹のオフィーリアだ。

 エドガーは布団をめくり、自分の身体を確かめた。

 二人ともしっかりと裸であった。

 それにエドガー自身、今迄溜まっていたものがごっそりと抜け落ちかのように身体は満たされていた。


「そ、そんな……、どうして……」


 エドガーは焦ったように急いでズボンを履くと今いる寝室から飛び出して、部屋を確認した。


 部屋は間違いなくジュディスの部屋だった。


「――どういうことだ? 」


 エドガーは混乱する頭で訳が分からないという風に首を振った。


「――エドガー? 」


 エドガーの背後から聞き慣れた愛しい声が聞こえてきた。その声に、エドガーはギクリと身体を強張らせた。


「昨夜はどうして客室に来なかったの? 私、そこで貴方をずっと待っていたのよ? あんまり遅いから私もついそのまま眠ってしまったけど……」

「……ジュディス……、すまない……」

「え? 」


 エドガーはジュディスを振り返り、心から謝罪した。あんなにも毎日眺めていたいと思うジュディスの顔が今はまともに見ることが出来ない。


「すまない……。すまない……ジュディス……」


 それしか言うことが出来ず、エドガーはその場に崩れ落ちた。



 * * *



 教会のしきたりで婚約関係にある二人は結婚迄身体の関係を持ってはいけない。

 それとは別に、一つの家門の中で交わることが出来るのは一人だけとされており、それ以外の者との交わりは固く禁じられていた。

 結果としてエドガーは妹のオフィーリアと関係を持ってしまった為、ジュディスと結婚することは生涯に於いてなくなってしまったのだった。


 

 

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