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オードリーの冒険!  作者: マリオン
第2話 フーテン・ガール
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6

「もう──行っちゃうの?」

 少年は、オードリーにすがりつくようにして、上目で問いかける。


 オードリーにぶっとばされた父親は、祖母の通報で駆けつけた警察官に、すでに連行されている。父親が刃物を振りまわしていたこと、また祖母が事前に児童相談所に相談していたこともあって、オードリーが未成年略取に問われることはなかった──が、当然ながら、僕らも事情を聴取されることとなり、今から交番に出向かなければならないのである。


 辛い目にあった少年を、今すぐに聴取するのは酷であろうという祖母の申し出により、彼の聴取は明日になる。だから──僕らはここでお別れとなるのである。


「お前を無事に送り届けたからな。そろそろ、あたしも自分の家に帰らないと」

 言って、オードリーが少年の頭をくしゃりとなでる。その大きな手のひらに包まれて、初めて別れを実感したのであろう、少年が顔を歪める。


「おいおい、泣くことはないだろう」

 大げさだな、とオードリーは笑う。だが、それはきっと、大げさなことではない。僕には──僕にだけは、小さな()()の気持ちが、痛いほどによくわかる。それが、おそらくは彼の初恋だったのであろう、と思う。


 同情と憐憫に目を細めかけて──いや、待て、と思いとどまる。あの少年──いや、あの小僧、もしかしなくともオードリーと一夜をともにしたのではあるまいか──そんな可能性に思い至り、僕は大人げなくも嫉妬で下唇を噛む。


「僕、オードリーのこと忘れないよ!」

 涙を拭いながら、空元気であろうに、少年が笑う。

「ああ、あたしも忘れないよ」

 言って、オードリーは、少年の頭をさらにくしゃくしゃになるまでなでる。


 オードリーは、嘘はつかない。自らに向けられた好意には疎い彼女のことである。少年の淡い恋心には気づいていないのだろうけれども、彼のことをずっと覚えているというその言葉には、嘘はないのであろう、と思う。


「ねえ、聞いてもいい?」

 少年はオードリーの応えを待たずに続ける。

「オードリーの本当の名前は何ていうの?」

 憧れにあふれた少年の眼差しを受けて、オードリーが初めてうろたえる。自らの名前に苦手意識のある彼女にとっては、その名を口に出すのもためらわれるようで。


「名前なんて、どうだっていいだろ」

「──お願い」

 ぷい、と視線をそらすオードリーに、少年は再び上目で懇願する。


 名は体を表す。よい名前だと、僕は思うのだけれども。


 夕陽に照らされて、オードリーの影は、誰よりも遠くまで伸びる。彼女は、あきらめたように大きな溜息をついて、天に向かって、投げやりに叫ぶ。


「茜だよ!」

「フーテン・ガール」完/次話「ドーピングはカンニングに含まれますか?」

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