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オードリーの冒険!  作者: マリオン
第1話 鏡よ、鏡よ!
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「鏡よ、鏡よ、鏡さん。この世で一番美しいのは、誰?」

「少なくとも、お前じゃねえな」

 鏡の横柄な受け答えに、客席からどっと笑い声があがる。


 最前列で、やんやと囃したてるのは、一年二組の級友たち。体育祭の応援でさえ、これほどの熱量がこもっていたかどうか。気負うところのない環境が、きっと気軽な熱狂を生んでいる。

 彼らだけではない。居並ぶ上級生たちも、自分たちは笑いにきたのだ、といった顔つきで、静かに演劇を鑑賞するというような雰囲気は一切ない。文化祭は、事前に知らされていた通り、やはりお祭り騒ぎである。


 演劇と、それ以外の喧騒に包まれる中で、舞台袖に控えた高野美幸の視線が、僕のそれとからみあう。


 犯人が誰なのか──結局、僕は部長に報告しなかった。ただ、もう二度と衣装が破られるようなことはないと、それだけを告げた。部長は頷くだけで、それ以上のことを問い質そうとはしなかった。年月の築きあげた無言の信頼が、ありがたかった。


 女は怖い──いや、演技の達者な女は、と限定することが、せめてもの礼儀になるであろうか。

 オードリーの冤罪を晴らすことはできなかった。今でも時折、彼女に対する陰口を耳にすることがある。でも、それはオードリー自身が望んだことなのだ。自らの悪名など、これ以上増えたところで、どうということはない──僕には想像もつかないけれど、オードリーには高野美幸をかばう理由があったのであろう、と思う。


 弁解もせず、汚名にあまんずる、誇り高きアマゾネス──彼女は、女とは思えぬ大股で間合いを詰めると、長い脚を僕の脇に叩きつける。

「もう一度聞くわよ、このクソ鏡」

 壁に叩きつけた脚が、まくれあがったドレスから艶かしくのぞく。

「この世で一番美しいのは、誰?」

 灰緑色の瞳が、挑むように問いかける。癖のある赤毛からのぞく両眼は舞台の照明を浴びて妖しく輝き、さながら本物の魔女のように僕の心を捕えて離さない。


 この世で一番美しい人。それは、もちろん──。

「鏡よ、鏡よ!」完/次話「フーテン・ガール」

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