ヨハン 2
次の日、ヨハンはハアロ大将軍の邸宅の回りをうろうろと歩いていた。
ハアロ大将軍。リエッサ王妃の父。
昨日、薬を運んだ町医者は馬車を降りた所で殴られて拉致られた。
気が付くと自分は椅子に縛り付けられ、回りを覆面の男達が囲んでいた。
男達は物騒な武器を持っていた。ハンマーやバール、ナイフなどである。
町医者は青くなった。
散々脅かされ「ハアロ大将軍の家に住むルシール様に届けている」と白状した。
「ルシールとは誰だ」と聞いた所「ハアロ大将軍の義母様だ」と言った。
「誰が飲んでいるかは分からない」と町医者は言った。
ヨハンは予感が的中したと感じた。まさか、ハアロ大将軍の妻があの薬を数か月も使う筈が無いだろう。という事はやはりリエッサ王妃か。
まさか、家族ぐるみで詐欺?
アクレナイトは騙されているのだ。
「何てこった……」
ヨハンは呟いた。
と、道の向こうからがたがたと花売りのワゴンが近付いて来た。ワゴンを押しているのは中年の女性と若い女性だ。二人は衛兵に何かを話している。門が開いて花束を持った若い女が屋敷の中に入って行った。ヨハンは物陰に隠れてその様子を伺う。
暫くすると女は出て来た。
ヨハンは花売りのワゴンに声を掛けた。
「俺にも花をくれないか」
花売りは愛想よく「勿論です。どれが宜しいですか」と聞いた。
「適当に花束を見繕ってくれ。恋人にやるんだ」
そして女の顔をまじまじと眺めた。女はベールで半分顔を隠している。
「さっき、この屋敷へ入っていっただろう?」
ヨハンは言った。
「ええ。いつもこのお屋敷で奥様がお花を買ってくださるのです」
女は答えた。
「ここはハアロ大将軍の家だろう? リエッサ王妃の実家だ。リエッサ王妃はよくここへ帰って来るのかい?」
ヨハンは尋ねた。
花売りの二人はお互いの顔を見合わせる。
「さあ……私どもには分かりません」
若い女が答えた。
「この屋敷には奥様と誰が住んでいるのだろう?」
「さあ……」
ヨハンは屋敷に視線を移す。
「若い女性はいないのかな?」
「……お会いした事は御座いませんが……」
「いつもはどこで花を売っているんだい?」
ヨハンは笑顔で女に尋ねた。女性ならうっとりとしてしまいそうな優しい笑顔だ。
「王宮の前の広場です」
「じゃあ、俺が誰かに花を届けてくれと頼んだら届けてもらえるのかな?」
「喜んで」
年嵩の女が微笑んで言った。