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カラミス王子 2

 ここは砂漠の国、レッドアイランド国の王宮。

 カラミス王子はクサクサしていた。退屈で仕方が無い。

 何とかまたブラックフォレスト王国へ行く手立ては無い物かと思っていた。


 カラミス王子よりも遅れて帰国したザザが一部始終をミランダ王女に報告(告げ口)した。

 カラミス王子はミランダ王女にこっぴどく叱られた。

 同時にサツキナがシンジノア・シャークと目出度く婚約した事も知った。

 分かっていた事だが落ち込んだ。


 そんな折、北部へ視察に出ていたホラン国王と兄のルシアン第二皇子が城に帰って来た。

 今夜はカラミス無事帰還のお祝いである。


「死んだとばかり思っていたカラミスが国へ帰って来た。めでたい事この上ない」

 国王であるホランは祝杯を上げた。


 ホランとその妻イダ。ミランダ王女にサラマンダー国のジル王女。ルシアン。そんな面々がテーブルを囲んで和やかに夕食を取っていた。


 カラミス王子の冒険話を聞いていたホラン国王は言った。

「シンジノア・シャーク?」

「そうです。シンジノア様は兄上を良く御存じだと言っておられました」

 カラミスは返す。

「堂々として体の大きなすごく立派な騎士です。でも、いつも頭巾を被っていらっしゃるのですよ。だから顔半分は見ていませんが」

 ホランは首を傾げる。

「……知らないな。初めて聞く名前だ」

「えっ?」



「シャーク殿は父の葬儀に来てくれた。ご息女は確かミランダと同じ年だと思ったが……

 ジャーク殿の末娘が生まれた時に、父がシャーク侯はもう一人男の子が欲しかったと言っていたと……そんな話をしたのを覚えている。……おかしな話だな。男の子を望んでいて生まれたその子を養子に出すなど」

「何ですって?」

 カラミスはがたんと立ち上がる。茫然とホラン国王を見詰めた。

「兄上、それは本当ですか?」

 ホラン国王は頷いた。

「本当だとも。父上が言っていたのだ。シャーク殿は父上にあなたは男の子が3人もいて羨ましいと言ったと」 


 カラミス王子は突っ立ったまま考えた。

「まさか……では、あの方は一体どなたなのですか? でも、シャーク宰相の家では誰もがシンジノア様って呼んでいて……。彼もシンジノア・シャークと名乗っていたのですが……」

「では、シンジノア・シャークなのだろうな。だが、私はその者を知らない。それは言える」

 ホラン国王がそう言ってカラミス王子は黙り込んだ。



 ◇◇◇


 ある日の夜。

 一人の男が大きな荷物を担いで城から出て来た。男はぐるぐるとターバンを巻いている。

 目だけが出ている。その目が辺りをきょろきょろと伺う。

 ささっと物陰に隠れると腰を屈めて一気にラクダ舎まで走る。


 ラクダ舎から一頭のラクダをそっと連れ出した。

 その時である。一斉に明るい光がその男を照らし出した。

「ま、眩しい」

 そう言って顔を背けた男はカラミス王子だった。


「カラミス王子。どこへ行かれるのだ? こんな真夜中に。散歩か? それにしては荷物が大きい様だが」

 光の向こうからミランダ王女が姿を現した。

「くっ!」

 カラミス王子は歯ぎしりをする。と、だっと走り出した。

「カラミス、無駄な抵抗は止めるんだ! 大人しく部屋に戻りなさい。ええい! カラミス! 聞こえぬのか! 衛兵!カラミス王子を捕えよ!」

 ミランダは叫ぶ。

「はっ!」

 数人の衛兵がカラミス王子に走り寄る。

「姉上、いい加減にしてください!」

 両腕をがしっと衛兵に掴まれたカラミスはじたばたと暴れながら言った。

「カラミスこそいい加減に諦めなさい。脱走はこれで3度目だ。衛兵。カラミスを部屋へ閉じ込めて置け。決して部屋から出してはいけない」

 ミランダ王女はそう言った。



 衛兵に荷物と一緒に部屋の中に放り投げられた。

 カラミスは「王子に対して何という事をするのだ!!無礼者!」と怒鳴る。

 だが衛兵は一言もくれないでドアを閉める。

 何しろこれで3度目だから。衛兵も寝不足でうんざりしているのだ。



 ◇◇◇


「サツキナ姫が危ない!」

 カラミス王子はホラン国王の言葉を聞いて咄嗟にそう思った。そう思ったら、もうそれは頭の中に固定されてしまった。所謂「思い込み」である。



 あの男は誰だ?

 オルカ国全員がグルになってサツキナ姫とブラックフォレスト王国を騙しているのではないのか?

 そもそもシンジノア・シャークなど存在しないのでは無いのか?

 何で宰相は望んでいた男子を養子に出したのだ? おかしいだろう?

 サツキナ姫は何か大きな陰謀に巻き込まれてしまったのではないのか?

 騙されて婚約してしまったのではないのか?

 カラミス王子は悶々としながら部屋の中をぐるぐると歩いた。

 所謂「考え過ぎ」である。(ほぼ妄想)



 ふと立ち止まった。

 自分はまだ何も彼女に恩返しをしていないという事に気が付いた。

 それどころか彼女を拉致しようとした自分の事をシャーク宰相に訴える事もしなかった。苦しい言い訳に話を合わせてくれた。

 カラミス王子は両手で顔を覆った。自分が酷く恥ずかしかった。

 初めて彼は自分を客観的に見詰める事が出来たのだ。(今頃)


「私が今いるべき所はここでは無い!!」

 感情が高まり過ぎてそんなセリフを叫んでしまった。

「くそ!! 姉上のせいで部屋から出られないでは無いか!! 何かいい考えは無いか? 何か……」

 そうやって天井を見詰めていた彼に天啓が降りて来た。暫し宙を見て考える。

「よし、それで行こう」

 カラミス王子はにやりと笑った。


 その頃、ベッドですやすやと眠っていたサツキナ姫は突然の悪寒でびくりと目が覚めた。

「?」、「?」。

 辺りをきょろきょろと見ていたが、またぱたりと眠りに就いた。


◇◇◇



 ここはホラン国王の部屋。

天啓を受けたカラミス王子は次の朝一番でホラン国王を尋ねた。


 

「何? ブラックフォレスト王国と友好通商条約を結ぶと?」

ホラン国王は言った。

「はい」

カラミス王子は答えた。


「彼らは私の命を助けてくれただけではなく、その後も手厚く私をもてなしてくださいました。ミランダ姉が私を迎えに来た時にも快くもてなしてくれたと聞いております」

「それはミランダからも聞いている。しかし、ブラックフォレスト王国はイエローフォレスト王国に迫害されているとも聞く。イエローフォレストは強大な国だ」

「だからこそ、です。兄上!」

カラミス王子は力説する。

「私はブラックフォレスト王国に滞在してあの国の歴史を図書館で学んで来ました。あの国には伝統と古い歴史があります。それなのに人々は魔族と蔑まれ、隣国イエローフォレストに不当な弾圧を受けています」

カラミスは断固として言った。



「ふうん……それで?」

ホラン国王はつまらなそうに返す。


「それにブラックフォレスト王国でしか採れないブラックマッシュルーム、その流通を、砂漠のこちら側に対する流通ですが。それをレッドアイランドが一手に担ってレッドデザィアーの諸国への販売を取り仕切ったら、莫大な利益が」

ホラン国王はじっとカラミス王子の話を聞いている。

「レッドデザィアーの国々は直接ブラックフォレスト王国と取引は出来ません。如何せん遠過ぎる。どの国もブラックフォレスト王国との間に商取引の条約は結んでいない。間にはイエローフォレストやブルーナーガの商人が介在し、ブラックマッシュルームが我が国に届く頃には大変高価な物となっております。そこで我らが商取引の条約を結べば……」


ホラン国王は突然噴き出した。

カラミスは怪訝な顔をする。

「兄上?」

「カラミス。考えたなあ」

ホラン国王は言った。

カラミスは「あ、いや、まあ……」と赤くなる。


「良かろう。その下準備の為にお前を国の正式な使いとしてブラックフォレスト王国へ派遣しようではでないか。その内、お前を助けてくれた礼をしに私もブラックフォレスト王国を一度訪れなければならないと思っておったのだ」


カラミス王子の目がぱっと輝いた。

「実を言うとな。ミランダもお前と似た様な事を言っていた。ブラックフォレスト王国と同盟を結ぶべきだと。ミランダは東の大砂漠に駅を置くべきだと言ったよ」

「ミランダ姉が?」

「そうだ。カラミス。だが、お前を迎えに行った国軍の兵士がXYZ商店の店主の言葉を我等に伝えた。カラミス。お前はブルーナーガに向かうはずだったサツキナ姫を拉致して我が国へ連れて来ようとしたのだと」


ホラン国王は真面目な顔でカラミスを見詰めた。

カラミス王子はもっと赤くなって下を向いた。

恥ずかしくて顔が上げられなかった。


「今回は私の使者としてブラックフォレスト王国へ行くのだ。私の顔に泥を塗る様な真似はしない様にしてくれ」

ホラン王は言った。

カラミスは「あの時は私が愚かでした。彼女を得たい一心であの様に愚かな事をしてしまいました。私は自分の事だけしか考えていませんでした。……だが、兄上。私は生まれ変わったのです!! 決して兄上の名を汚す様な真似は致しません!」

カラミスは叫ぶように言ったのだった。





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