ミア、そして。
ミアは焼失した農家の前に茫然と座り込んでいた。
その後ろではララが立ち尽くしている。
焼け跡から4体の人骨が出て来たと村長は言った。
「3体は台所があった場所で見つかりました。これはここの夫婦と娘でしょう。もう一つは離れた場所で。これがあなた様のお母上でござりましょうなあ。大変お気の毒な事でした」
村長はそう言って深く頭を下げた。
「ただ、不思議な事が御座います。火事は深夜に起こりました。どうしてこの三人は台所にいたのでしょう? まるで夕食でも食べている時に火事に遭ったみたいです。そんな時間に夕食を食べるなど、この辺りでは有り得ません。その時間は誰も彼もがベッドで眠っております」
「……」
「村人に聞き取りをした所、行商に行っている村の女が、あなた様の遣いと名乗る女に、あなた様の別荘はどれだと聞かれたと答えました」
ミアは顔を上げた。
「それで?」
「頭からすっぽりとフードを被って、下を向いていたから口元しか見えなかったらしいです。胡散臭いなと思っていたら、売れ残った卵を全部買ってくれたそうです。それで家を教えて……。だが、それは夕刻だったという事でした」
「……」
「年の頃は多分20から30位じゃないかと言っておりましたが……」
「そう」
「紅葉の時期は沢山の客がやって来ますので、まあ舟渡もあちこちの船着き場から出ていますから、ちょっと全部の確認は……」
「確認は結構よ」
そう言うとミアは立ち上がった。
「それで、あなた様のお母上の御骨ですが、お持ち帰りになられますね?」
村長は言った。
ミアは首飾りを取ると村長に手渡した。
「要らないわ。あれは義母だから。大嫌いな女だったの。性悪で最悪なババアよ。まるで魔女ね。無縁仏と一緒にどこかの穴倉にでも放り込んで頂戴。むしろ、湖に投げ込んで貰っても構わないわ。でも、あの農家の一家だけはちゃんと供養してあげてください。
……これは今回家を焼かれた方へのお見舞い。焼かれた家を再建してあげて。私の別荘はもういいわ。あの土地は村に寄付するから好きに使って。
もし、お金が残ったのならそれは村に対する迷惑料よ。適当に配分してください。
暫くしたら私の遣いをこちらに送るわ。ちゃんと家が再建されたかどうかを確認するためにね。宜しく頼むわね」
村長は首飾りを手に唖然としていたが、ミアが歩き出したので慌ててその後を追った。
「分かりました。では仰せの通りに致します」
そう言った村長に頷いたミアは馬に跨った。
「ララ。行きましょう」
ミアはそう言うと馬を走らせた。
ミアはもう二度とここへ来る事は無いだろうと思った。どす黒い復讐の決意だけが体中に満ち満ちていた。
許せない。絶対にあの魔女を滅ぼしてやると誓った。
◇◇◇ ◇◇◇
「おおい。ガジール殿ォ!」
シャルルが崩れかけた橋の向こうで叫んでいる。両手を大きく振り回している。
ばらばらと走って来たアクレナイトの兵達はシャルルに気が付く。
「アクレナイト侯が消えたァ!!」
シャルルの悲鳴にも似た叫び声に兵達は「なんだとオ!!」と叫んだ。
「川に落ちたかも知れない!」
シャルルは泣き叫ぶ。
「蛮族が追って来たのだぁ!」
蛮族の男が一人、崖下の岩の上に落ちていた。
ガジールはぞっとした。
「まさか、この川に……」
川はたっぷりとした水を波立てながら流れている。かなりの急流だ。
「シャルル殿ォ! 向こう岸を川下に向かってくだされェ! 下を見ながらァ、隊長を……隊長を探しながら……」
そう叫びながらガジールは泣いて崩れ落ちた。
大男のフィリップが「馬鹿野郎!! 何を泣いていやがる!! 隊長は決して死にはしない! シャルル殿ォ! 下流の橋で会うぞオ!」
「分かったァ!!」
シャルルは叫んだ。
「行くぞ! ガジール! 絶対に探し出すんだ。大丈夫だ。絶対に生きている」
アクレナイトの兵達は橋に向かって走り出した。




