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レノン湖 5
「火事だ!」
「火事だ!」
村は大騒ぎになった。
「水を掛けろ。水だ。水!」
その騒ぎをルシールは森の中から見ていた。
マントの下にショールを巻いた。
それでも寒くてぶるぶると震えながら、出がけにテーブルから持って来たパンを齧る。
子供の頃を思い出した。
こうやってひもじくて寒い夜を幾つも過ごした。
朝日が昇ってきた。
農家はすっかり焼け落ちていた。幾つかの家に延焼したらしい。
白い煙が立ち上っていた。
ルシールは卵の入った籠を持ち、湖の畔で船を待った。
昨日の船頭がやって来た。
船に乗り込む。
「昨夜、農家が火事で燃えたたしいですね」
船頭は言った。
「そうみたいね」
「真夜中の火事だったそうです」
「すごい火だったわよ」
「ところで卵は買えたのですね」
「ええ。朝一番で行って来たの」
フードの奥の口が笑った。
明るい日差しの中を馬車は王都へ向かう。
ルシールは窓から外を眺めている。
「ミア様の別荘は如何でしたか?」
男の声がした。
「紅葉が綺麗だったわ」
ルシールは答えた。




