サンドラ王女 1
「ルイス・アクレナイト様が私を妻に?」
「はい。サンドラ王女。我が兄は是非あなた様とこれからの人生を歩んで行きたいと」
シンジノアは盲目の王女に言った。
「まあ!! 姫様」
侍女のナンシーと乳母のベティ、それに家庭教師のエイダは目を丸くした。
「これはどう言う事でございましょう! 神様は姫様を見捨ててはおりませんでした!!」
「でも、ルイス様はリエッサ様のご婚約者では?」
「詳しい話は兄がこちらへ来て直接お話を致します。リエッサ王妃は兄との婚約を破棄しました。そして兄に対して「誰であっても兄との結婚を望む女性なら結婚を許可する」という許可書を兄に渡しました」
「まあ! 一体何が起きたので御座いましょう!」
ナンシーはそう言った。
「そんな馬鹿な! あのスズメバチがそんな情けを掛ける筈がない!!」
ベティはそう言った。
「リエッサ王妃はまるで別人の様に寛大になったのです」
シンジノアは言った。
「……」
「嘘だと思うなら今度王宮へ行った時に挨拶をしてみてください。きっと笑顔で挨拶を返される事と思います」
「信じられない……」
「現在兄はサンドラ王女様のご祖父であるレンドル侯の所に結婚の許可を頂きに参っている所です。そこで許可が頂ければ、すぐにでもこちらに参ります」
「でも、ノニ子爵が『否』と仰るのでは……。祖父とノニ子爵は仲が悪いと聞いております」
「既にノニ子爵の許可は得ました」
シンジノアは答えた。
「まあ……。アクレナイト様はどんな魔法をお使いになったのでしょうね。姫様」
ナンシーは言った。
サンドラ王女はそれには答えず真っ直ぐにシンジノアを見ていた。
「この方にも青い光のオーラが見えるわ。ルイス様と同じ。この方も光の騎士なのね」
そんな事を考えていた。
シンジノアはサンドラ王女に会うのは初めてだ。
王宮に行ったとしても多分サンドラ王女とは会えなかっただろう。何故ならサンドラ王女は王宮の一画からほとんど出る事は無かったから。
「この綺麗な目が何も見ていないとは信じられないな」
シンジノアは思った。
サンドラ王女の瞳はグレーだった。そこに薄い膜が張っているからより一層淡い色になっていた。
年は33歳という事だが、まるで年齢不詳だと思った。少女の様な雰囲気さえある。
外へ出ないから肌は透き通る様に白い。古臭いドレスを着て平凡な顔立ちをしていた。金色の髪は肩で切り揃えてある。何の髪飾りも無い。薄化粧だから余計に幼く見える。
無表情でまるで人形みたいだと思った。
「シンジノア様。もしもご不快でなければあなた様の手に触らせてください」
サンドラ王女はそう言った。
「いいですよ」
シンジノアは手を差し出した。
サンドラ王女は暫く手を調べていたがにこりと笑った。
「とても大きくて繊細な手をしていらっしゃるわ。あなた様は優しくて心の大きな方ね」
彼女が笑うとそれまでの無表情が一瞬で華やいだ感じに変わった。
シンジノアはその笑顔を不思議な思いで眺めた。
一人では何も出来ない王女。
そう言われていたが、ここでの様子を見ているとそんな風には見えない。まるで目が見えないのが嘘みたいにスムーズに動く。
しかし、紅茶のカップに触れる時、立ち上がる時、指先が辺りを探る様に動く。
顔はこちらを見ているが視線が合っているとは感じない。
「失礼ですがお目が不自由とは思えませんね」
シャルルがそう言った。
「ふふふ。この部屋だけです。この部屋を出てしまったら、私は何も出来ませんわ。部屋のどこに何があるという事を覚えているというだけの事です」
サンドラ王女は言った。
「私、ルイス様が私を妻として受け入れてくださるのなら喜んで嫁ぎますわ。目が不自由な私ですが、全く何も出来ないと言う訳では御座いません。家庭教師のエイダが私の為に本を読み、この国の法律や歴史を教えてくれます。エイダは何でも知っているのですよ。私はエイダから話を聞いてずっと学んで来ました」
エイダと呼ばれた初老の女性は穏やかに言った。
「私はサンドラ王女がお小さい頃からずっとお勉強を見て来ました。サンドラ様は大変賢い方です。ただ、それを表に出さなかっただけの事。愚鈍な振りをして難を逃れていらっしゃいました。命に関わる事ですからね。じっとお静かにされて来たのです」
「姫様は目が見えない代わりにお耳がとても良いのです。私達に聞こえない様な小さな音も聞き取りになられるのですよ。それに手の感覚も優れていらっしゃるのです」
ナンシーは興奮気味に言った。
「それにご自分の事は大体お一人で何でもお出来になります。出来ない振りをしていただけです」
ベティも誇らしげに言った。
二人ともサンドラに突然訪れた出来事が嬉しくて仕方ない様子だった。




