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ルシール 6

ルシールが塔から出て来ると近衛兵がまだそこにいた。

「鍵を掛けて返して置いてくれ」

鍵を渡しそう言うと、急ぎ足で立ち去った。


近衛兵は塔を見上げる。

窓際に人影が映る。

彼は辺りを見渡す。誰もいない。

扉を開けた。そして中に入り込んだ。



暫くすると彼は塔から出て来た。扉に鍵を掛けた。

窓を見上げる。

人形は彼を見ていた。


と、向こうから数人の近衛兵がやって来る。

「おい、クリス。何を見ているのだ」

「いや、何でも無い」

彼は急いで塔を離れた。



◇◇◇


「ハアロ大将軍の屋敷に行って来る」

リエッサは塔から戻るなり女官長にそう言った。

「先触れは如何致しますか?」

女官長は尋ねた。

「よい。直接向かう」

ルシールはそう言うと馬車に乗り込んだ。



ジョレス国王が亡くなった時、サンドラ王女を塔に幽閉した方がいいとリエッサに進言した。しかし、リエッサは言った。

「サンドラ王女は目が不自由だから滅多に部屋の外に出て来ないわ。それにいつもおどおどしていてすごく大人しいのよ。私より3つも年上なのに自分の事も何も出来ないの。

だから放置しておいても平気よ。それにきっと結婚も出来ないわ。目が見えない上に無能だし、平凡でどこにでもいる顔なの。王女のオーラが全く無いのよ。平民みたい」

「だが、油断は禁物だ。幽閉してリエッサの権力が盤石になったら始末した方がいい。それにサンドラ王女のお祖父様はイエローフォレスト東軍の大将レンドル侯であろう。レンドルはハアロ大将軍とそりが合わぬ。サンドラ王女を盾に取り反乱でも起こされたら厄介じゃ」

ルシールがそう言うとリエッサは面倒くさそうに返した。

「分かったわ。そうするわ」

だからそうした筈なのに。

そうした筈だ。


だが、サンドラ王女はあの塔で暮らしてはいなかった。何故ならベッドも家具も何も無かったから。石の床がむき出しの埃だらけの部屋にポツンと人形が置かれていただけだ。

という事はリエッサはサンドラ王女を幽閉しなかったのだ。



私の言う事を聞かなかったのだ。あの愚かな小娘は。

あのおバカ娘のお陰で厄介な仕事がまた一つ増えた。

リエッサが憎らしくて仕方なかった。

ルシールは悔しさでぎりぎりと歯を噛んだ。


ハアロ邸に着くとルシールは家令に尋ねた。

「お母様は?」

「ミア様はサロンの方に」

家令は言った。

「いつお帰りになるの?」

「今宵はサロンの方で懇親会が御座いますので、かなり遅くなられるかと」

家令は答えた。

ルシールは舌打ちをする。


「ルシールおばあ様はお元気? ルシールおばあ様をお見舞いに来たの」

ルシールはそう言うと家に向かった。

「あ、リエッサ様。お待ちください」

家令は慌てて後を追う。

「ルシール様はお家にはいらっしゃいません。具合が悪くなったので療養所の方へ送られました」

「何ですって?」

ルシールは驚いてそう言った。

だが、それは嘘かも知れない。

そのまま走り寄ってルシールの家のドアを開けようとした。

ドアには鍵が掛かっていた。

鍵なんか掛けた事は無かったのに!


ルシールは半分切れながらドアを蹴飛ばす。

家令は目を丸くした。

「今すぐ鍵を持って来なさい」

ルシールは家令に言い付けた。家令は慌てて屋敷に戻る。

鍵を手渡され、ルシールはドアを開けた。部屋に飛び込む勢いだ。


部屋の中には無人のベッドだけがあった。

ルシールはベッドの枕を思いきり床に叩き付けた。

後から付いて来た家令は絶句した。


その日、夜遅く帰って来たミアは家令から一部始終を聞いた。

「余程お怒りになられたのかルシール様の家のドアを蹴飛ばしておられました」

ミアは驚いた。

一体何があったのだろうと思った。

「奥様。それだけでは有りません。ルシール様の部屋にもお入りになってルシール様がいないと分かると枕を床に叩きつけていました。私はびっくり致しました。あんなリエッサ様は初めてです」

家令は言った。



ミアは眉を顰めた。

「リエッサはこの所おかしいのよ。精神不安定で。あれは医者にでも見て貰った方が良いわね。それとも悪魔でも憑いているのかしら? 神殿に行って悪魔払いでもして貰うといいかも知れない」

ミアが言うと家令は驚いて返した。

「まさか。御冗談を」


「ルシール様は一体何処へ入院されたのかとしつこく聞かれましたが、私共はそれを知らされておりませんので……お答え様が無いと返事致しましたが……」

「それでいいのよ。ルシールはリエッサに悪知恵を付けていたの。あの子を唆していたのよ。まるで悪魔の様な女だわ。だから絶対にあの二人を合わせては駄目なの。夫もそう言っていたわ」

「はい。よく分かっております。しかし、ルシール様はもう先は長くは無いですな」

家令はそう言った。ミアはその言葉に大きなため息を吐いた。



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