ジィド辺境伯
ジィド伯一行に着き従う民衆はそれ程減りもせずに100人程である。
ジィド伯は何度と無く振り返っては、延々と続く人々の流れを見てため息を吐いた。道脇ではハアロ大将軍の兵士が幾重にもなって立ち並んでいる。ジィド伯は恐々としてそれを眺めた。
兵士の後ろからは王都や近くの村に住む沢山の民衆が様子を窺っている。
「ジィド伯!」
民衆の中から声がした。
「ジィド伯! 待っておりました! 我々に祝福を!」
「ジィド伯! リエッサ王妃に我等の窮状を!」
「リエッサ王妃に正義の鉄槌を!!」
「スズメバチに死を!」
そう言った男に数人の兵が襲い掛かる。彼等は殴られて連れ去られてしまった。
ジィド伯は立ち止まってそれを眺めた。
シャルルは後ろの民衆に向かって手を上げた。
「止まれ」
後に控えるゼノン教神官が号令した。旗が振られる。一行は立ち止まった。
「皆の者に伝えよ。今日はそこに見えるサン・リエロの神殿で休む。水と食事を貰おう。
明日はいよいよ王都の門だ」
ジェド伯はシャルルに言った。
「サン・リエロの神殿で休む」
シャルルは後ろに控える神官に伝えた。
「サン・リエロの神殿で休むぞ」
神官は大きな声を出した。
ジィド伯は馬を教会に向けた。しかし、兵が道を譲らなかった。
「そこを退け!」
ジィド伯は大喝した。
「我等はサン・リエロで休憩を取る」
だが、兵はぴくりとも動かない。
睨み合いが続く。
「そこを退けと言っておる!」
シャルルも怒鳴った。
「ええい。聞こえぬのか。ハアロを呼べ!! ハアロ大将軍を呼べ!」
ジィド伯の大喝に民衆が騒ぎ出した。
「どけって言っているだろう!」
「ジィド伯は休むだけだ!」
「この野郎!どきやがれ」
ジィド伯の一行からも罵声や怒号が飛び交う。と、しびれを切らした数人の男達が列から飛び出して兵に襲い掛かった。
それを機にうわあという雄たけびと共に神官や兵が陸軍に襲い掛かる。兵はわらわらと集まって来てそれを押さえる。
辺りは乱闘と化していた。
ジィド伯とシャルルの周囲を兵と信者はぐるりと囲んで守る。
現場は流血で真っ赤に染まる。
「ダダン!!」
突然、太鼓の音が鳴り響いた。
人々は何事かと手を止めた。兵は戦いをやめて元の位置に戻る。
「止めろ!止めろ!何をやっている!」
ハアロ大将軍の雷の様な怒号が響いた。後ろには太鼓を抱えた鼓兵が付き添う。
「ジィド伯。民衆を止めるのだ!」
「貴様の兵こそ止めろ!我等はサン・リエロで休憩を取るだけだ!」
「ええい。通せ!通してやれ」
ハアロ大将軍は怒鳴った。途端に兵の垣根が開いた。
ジィド伯の一行は怪我をした者や倒れた者に肩を貸しながら教会へ向かった。
それに対して兵は一瞥もくれなかった。
「不気味な奴らだ」
神官達は呟いた。
ヨハンとジェームズ・ボンド(商店)は群衆に紛れてそれを見ていた。
「さて、ジィド伯はどうするお積りか……融通の利かない陸軍を相手に」
ジィド伯は視線を兵に移す。ずっと並んでいる陸軍。
アクレナイトの姿を探したがそれは見付からなかった。




