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ルシール 4

ルイスが出て行くとルシールはどさりと椅子に倒れ込んだ。

まだ心臓がどきどきしている。汗を拭った。



リエッサを助言と言う形で支配して来た。ずっと。小さい頃から。


リエッサはコツさえ掴めば操るのにそれ程難しい娘では無かった。陸軍を指揮するハアロ大将軍を父に持ちサロンで若い芸術家を支援するミア夫人を母にもつ。兎に角どちらも多忙だった。

アクレナイトにスパイ容疑を掛けて息子を婿に取るという案を出したのもルシールだった。リエッサは喜んでそれに乗った。


王家よりも古くから続くというアクレナイト家。イエローフォレスト王国貴族の筆頭者。

気品と威厳に満ちていた。領地は富んでいた。

その嫡子。ルイス・アクレナイト。

弱冠23歳。7つも下の美しい青年。

逞しくて知的で。

リエッサは大喜びだった。


ルイス・アクレナイトが将軍家にやって来た所を何度か見た事があった。遠くから見掛けただけだったが。

 誤算はルイスが思った以上に有能な男だったという事だった。彼はあっという間にリエッサをコントロールし始めた。自分の意に沿う様に彼女に助言をし出したのだ。

 リエッサはルイスの意見を取り入れる様になった。これは不味いと思った。これでは折角育てて来た駒が自分の手から離れてしまうと思った。


 リエッサがシンジノア・アクレナイトと出会ったのはルシールにとって正に僥倖とも言うべき事だった。

 聞けば、アクレナイトの港で偶然ハンカチーフを拾って手渡してくれたのだと言った。だが、その時の彼の笑顔に心を射抜かれたと言っていた。

「ルイスも良いけれど、私の好みはシンジノアなの。ああ、何でアクレナイト侯は弟を私に紹介してくれなかったのかしら」

「弟は若すぎると思ったのじゃろうよ」

「だって、一つしか違わないのに」


「リエッサよ。お前は夫を取り替えたいのか?」

ルシールは尋ねた。

リエッサはあっさりと答えた。

「ええ。そうしたいわ。何とかしてルイスとの婚約を解消してシンジノアと結婚する手立ては無いかしら?」


ルシールは言った。

「ルイスが死んでしまえば、その代わりに弟を婿にする事もできる」

「あら、ルイスは死なないわよ。だって、すごく強いのよ。この国一番の勇者と言われているのだから」

「この国一番の勇者とお前は結婚したいと思わないのか?」

「だって仕方がないわ。シンジノアの方が好きなのだから。ルイスも凛々しくて素敵だけれど立派過ぎるのよ。ルイスって真面目過ぎるの。

それに話し合いになると私には太刀打ちできないのよ。悔しいけれど。頭では勝てないわ。


その点、シンジノアの方が可愛くて甘い感じがするの。ねえ。おばあ様。こんなに男の人を好きになったのは初めてなの。彼が誰か他の女と結婚すると思うと嫉妬で胸が煮えくり返るわ。そんな女は殺してやるって思うの。絶対に彼を私のモノにしたいの。こんな気持ちは初めてなのよ」

リエッサは頬を赤らめ目を潤ませて言った。

まるで十代のうら若き娘の様に。


「……ルイスが死んだとしても?」

「それも致し方ないわね」

リエッサがあっさりとそう言ってルシールは苦笑いをした。

リエッサには人として大切なモノがすっぽりと抜け落ちている。自分の欲求さえ満たされればいいのだ。他はどうなろうと。相手の痛みなど考えもしない。

だが、これで将来の脅威は取り除かれる。


「ではシンジノア殿がリエッサの婿になる事を神に祈ろう」

ルシールはそう言った。

「神に祈るのにはルイス殿の髪の毛が必要じゃ。それを持って参れ」

リエッサは頷いた。




あんな化け物と一緒に暮らせる女がいるとは思えない。恐ろしくて。

貴族の令嬢達は気絶するかも知れない。という事は結婚相手は平民か、または金で買われた貧乏貴族の娘か……。

それだって無いかもしれない。気の毒な事だが。

生きて帰って来たのが悪かったのだ。大人しく死んでいれば良かったものを。

しかし、あの男は海に落ちて生死の境をさ迷ったせいで、私と入れ替わった事をすっかり忘れてしまっている様だ。それは安心した。


 ただ、とても頭の切れる男だから気を付けなくてはならない。

二度と顔を合わせないと言っていたが……ルシールは不安になる。

領地に引き籠るという事なのか?


あの男は危険だ。私こそ二度と会いたくない。


 やはりこれはジィド伯の事が済んだらすぐに取り掛からなければならない。アクレナイトをブラックフォレスト王国へ出兵させて戦に紛れてルイスを誰かに殺させる。今度こそ、確実に。

誰か……誰がいいだろうか? 

リエッサは考え込んだ。



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