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ルイスとルシール

「リエッサ王妃、明日にはジィド伯は王都に到着するそうです。只今ハアロ大将軍からの遣いが参りました」

ルイスが帰った後、暫くしてフロレス武官がやって来てそう告げた。




ルシールは「ああ、そう」と言っただけでワインを口に含む。

ぼんやりと何かを考えているらしい。

「リエッサ王妃、あの、如何致しますか? ジィド伯のみを城に招き入れて話を聞かれますか?」

フロレス武官は尋ねる。

「そんなの聞かないわよ。民衆を引き連れて王都入りなど謀反でしかない。さっさと殺してしまいなさい」

「しかし、それでは民衆の反感を買う事に……」

ルシールは苛々として言った。

「今私は考え事で忙しいの!! そんな事はハアロ大将軍と相談して来なさい!」

そう叱り飛ばすとワインをグラスに注ぐ。

「は、はい。申し訳が有りません」

フロレス武官は慌てて退出した。

廊下に出て来たフロレス武官はドアを見詰める。


あれからルイスの言葉が頭から離れない。

フロレス武官は首を振ると廊下を急ぎ足で立ち去った。


 ◇◇◇


ルシールは先程のルイスとのやり取りを思い出していた。


「私は喜んであなたを妻に迎えます」

ルイスはそう言ってじっと自分を見詰めた。その鋭い眼光が怖かった。

ルシールはぶるぶると震えながら目を伏せた。ルイスの顔を見る事が出来なかった。

こんな化け物の様な男と結婚なんてとんでもないと思った。


「ルイス・アクレナイト。本当に申し訳が無いが……私はあなたと結婚する事は出来ません」

ルシールは目を伏せたまま言った。



ルイスは笑みを浮かべて言った。

「やはり怖いですか。……致し方ありません。ではやはり婚約は解消といる事で宜しいでしょう。では、私はこんな顔でも結婚をしてくれるという女性を探して結婚します。リエッサ王妃。その時は祝福してくれますね」

「も、勿論だ。相手の女性が望むなら私はこ、心から祝福しよう」

ルシールはほっとして言った。

「そうですか……。では父にもそう伝えます。リエッサ王妃。父にその旨を書いた書状を渡そうと思います。早速書いて頂けますか? 父も私の結婚を心配していますからね」

「分かった」


ルシールは急ぎ足で机に向かうと震える手でペンを取った。

「か、紙はどこだった……」

ルシールはがさがさと机の中を探す。焦って上手く手が動かない。

「以前は右の引き出しにありました」

ルイスは腕を組んだまま言った。

ルシールは紙を取り出す。が、紙は二種類あった。

どっちだ……?

どっちも立派な飾り淵が付いている。

ちらりとルイスを見る。

彼は動かない。

恐る恐る片方を手に取ると、彼は首を横に振った。

もう片方を手に取って彼を見る。彼は頷く。



ルイス・アクレナイトとの結婚を望む女性なら彼は誰とでも結婚が出来るという文章を書いて最後にリエッサのサインを書いた。

ルシールは書いたそれをルイスに手渡す。

ルイスはそれをじっと見る。ルシールはどきどきしていた。

自分がリエッサに成り代わる事をずっと考えていたからリエッサの手筆は練習して置いた。

見破られる筈は無いと思うが……。

「サインの書き方を変えましたか?」

ルイスの言葉にびくりとする。

「あ、ああ、そう、いや……」

ルシールは引き攣れた笑顔で答える。


ルイスはそれを畳むと懐に仕舞った。

ルシールは心の中で安堵のため息を吐いた。これでこの男とも縁が切れると思った。


「それと、申し訳が無いのですが、婚約指輪を返してくださいますか? あれは祖母の形見で大事な物ですので」

「ああ、分かった。す、すぐに」

ルシールは指からブラッドルビーの指輪を引き抜いた。

そしてルイスの掌に置いた。

ルイスはじっとそれを見る。

「リエッサ王妃。本当に大丈夫ですか?」

訝し気に言った。



「何が?」

「私があなたに渡したのはエメラルドの指輪だ。大粒の深い緑の。……まさか、忘れてしまったのですか?」

ルイスは驚いた様にそう言ってリエッサを見詰めた。

ルシールは「あっ」と声を上げた。

仕舞ったと思った。

慌てて宝石箱からエメラルドを取り出す。

「そうです。これです。我が家の家宝だったのですが、母が是非あなたにと言って」

「す、済まなかった。こ、混乱してしまって、この所、具合が悪くてちょっと」

ルシールは大汗をかいて言う。


そんな王妃を見てルイスは彼女の頬に手を伸ばした。

ルシールはびくりとする。

指が首に落ちて行く。

突然がっと首を掴まれた。

「これ以降、あなたとアクレナイトの間に婚姻関係は存在しない。二度とシンシノアに手を出すな。手を出したらこの首が胴から離れるぞ」

ルシールの目を覗き込みながら言った。

その目は怒りに燃え上がっていた。

ルシールは恐怖で一杯になる。

「こ、殺される」

頭が真っ白になる。



ルイスは笑って手を離した。

「おや。これは失礼致しました。王妃。さて、私は去ります。もう二度とあなたの前に姿を現す事は無いでしょう」

そう言うと「ははは」と笑って部屋を出て行った。

ルシールは首に手をやり、がたがたと震えながらその後ろ姿を見送った。


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