カラミス王子 1
「どこだ? どっちへ行った!?」
「向こうだ。あの建物の中に逃げ込んだ!」
「ええい! なんて逃げ足の速い。カラミス王子。戻ってください。カラミス王子!」
ミスラの港をだだだっと走るレッドアイランドの兵士達。彼等から夢中で逃げるカラミス王子。
オルカ国から帰って来て、まだサツキナの事を諦め切れずサスの港へ行く船を物色していた所を待ち構えていたレッドアイランドの兵に見付かったのだ。
「カラミス王子。えー。カラミス・ブロンテ殿。無駄な抵抗はやめて投降しなさい。ホラン王もミランダ王女も必ず連れ戻す様にと仰っております。我等は命懸けであなた様を捕獲しますよ。あなた様を捕えないと帰れませんからね」
カラミス捕獲作戦のチーム長はメガホンを持ってカラミスの逃げ込んだ建物の前で言った。
「えー。カラミス王子。あなたは包囲されている。あなたは包囲されている。あなたには逃げ場は有りません。大人しく投降しなさい」
周囲には何事かとわらわらと人が集まって来ている。カラミスの逃げ込んだ建物を囲って何重にも人垣が出来ている。
カラミスは出て来る気配が無い。
「チーム長。如何いたし」
従者の声を遮って「私に任せなさい」と、若い女性がメガホンをチーム長から奪った。
「ジル王女!」
仁王立ちのその女性にチーム長は叫ぶ。
「いつおいでに?」
「さっきです」
赤い髪と青い瞳を持つサラマンダー国の王女はそう言った。
「カラミス王子! 出て来なさい! おいたは許しませんからね! いい加減、諦めなさい。あなたの身勝手でどれだけミランダ王女もホラン王もご心配されたか! 私だってすごく心配したのですよ!」
「……」
「早く出て来ないと、あなたのイタ過ぎる黒歴史をここで暴露致します事よ。このミスラの民衆に聞かせますけれど、それでも宜しいですか?」
ジル王女の言葉に周囲はしーんとなる。
「カラミス王子ってレッドアイランドの王子か?」
「新興国レッドアイランドだ」
「何を暴露されるのだろうな?」
「なにかやらかしたんだな」
周囲にワクワク感が高まって行く。
「黒歴史、その一、それはカラミス王子、14歳の夏だった」
ジル王女は言った。(メガホンで)
「何だ? 何だ? 何をやらかしたんだ?」
「14の夏? 何やら甘じょっぱい匂いが」
群衆の期待は高まって行く。
建物から一人の青年が走り出て来た。
「止めろー!止めてくれぇ!」
青い顔でそう叫んで走り出て来たのはカラミス王子である。
「よし。ターゲットは出て来た。即、捕獲せよ」
ジル王女は言った。