ルイス
タンとドアを閉めるとまたルシールの歌が聞こえる。
ミアは不安な思いを胸に抱いてルシールの家を後にした。首を振りながら庭を歩く。立ち止まると「馬鹿馬鹿しい」と言って急ぎ足で屋敷へ向かった。
その数日後の事であった。
夜である。
リエッサはベッドで休んでいた。スープは肉が入る様になった。けれど歯の無いリエッサはそれを上手く噛めなくていつまでも口の中でくちゃくちゃとこね回している。
ベッドはまた柔らかい布団に戻った。
ミアは信じまいとしながらも、不安を感じているみたいだ。
だが、このままだと自分は遠くない未来老女のままで死ぬ。そしてあの憎い老婆が自分の振りをしたまま国を牛耳り、シンジノアと結婚する。自分の体を使って。
二人の閨を想像し、リエッサは居た堪れない程の焦燥を感じる。嫉妬の炎が年老いた我が身を焦がすようだった。
「何とかしなくては。そうしないとこのまま朽ち果てて死んでしまう」
リエッサは何度も寝返りを打つ。
今の所、頼りはミアだけである。
ハアロ大将軍がいたなら……リエッサは何度もそう思った。
ぎぃ……と静かにドアが開いて誰かが入って来た。
リエッサはびくりとした。
王宮にいるルシールが刺客を送って自分を殺そうとしているのか?
それは十分に有り得る事だと思っていた。
だからリエッサは眠る時にも短剣を手放さなかった。
リエッサは目を閉じて眠った振りをする。
人が入って来る気配がする。それはベッドに近寄って自分の顔を覗き込んでいる。
自分の心臓が早鐘の様に鳴るのを感じた。
「今だ!!」
リエッサは短剣を引き抜くとその影に向かって切り付けた。短剣は宙を裂いた。
影は笑った。
「物騒な老婆だ。ルシール婆」
その声を聞いたリエッサは驚いた。
部屋に差し込む月明りの下。
立派な体躯の男が立っていた。
男は頭から頭巾を被っていた。目だけが頭巾から出ていた。その目を見ただけで分かった。
鋭くも理知的な眼差し。
「ルイス・アクレナイト……」
リエッサは呟いた。
「ほう、俺の名前を知っているのか?」
ルイスはサイドテーブルの上の明かりに火を灯した。
椅子を引き寄せるとリエッサの間近に座る。
「死んだはずでは……」
ルイスはリエッサの右手を乱暴に取る。手袋を外してその指を確かめた。確かに中2本が欠けている。それをしみじみと見ると言った。
「ああ。この手だ。確かにこの手だ。あの時、俺が見たのは」
そして立ち上がるとすらりと剣を抜いた。
「この薄汚い魔女が俺に呪いを掛けたのだ。言え。誰に頼まれた。お前は一体何者なのだ?」
リエッサは驚きの余り口をあわあわさせて泡を吹くだけで何も言葉にならなかった。




