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シンジノア・アクレナイト

シンジノア・アクレナイト(真司)は領地の港に着いた。オルカ国を出て12日間船に揺られた。

思い返せば夢中の数週間だった。

船足の遅さが(決して遅くはないのだが)憎らしい程だった。

もしもカラミス王子がサツキナに何か害を為したらと心配で夜もおちおち眠れなかった。、早くサツキナの元気な顔が見たいと思った。



結局オルカ国には昼過ぎに到着して次の日の朝早くに出て来た。

1日も居られなかった。だが、夜はサツキナ姫と初めてゆっくりと過ごせたのだ。それだけでシンジノアは満足だった。サツキナに指輪を渡してプロポーズも受けて貰った。

 

サツキナは自分の手首に巻いてあったアンジェ・リリカちゃんの髪をするすると解くとそれの半分を彼の腕に巻いてくれた。それはくるくると彼の腕に収まった。

「これは妖精王の娘、アンジェ・リリカちゃんの髪なの。とても丈夫なのよ。この髪一本で私達二人がぶら下がっても切れない位なのよ。ナイフでも切れないわ。超極細のウルティムス鋼と同じなの。何かの役に立つかも知れない」

シンジノアはその黄金のブレスレッドに触れてみる。

「信じられないな」

「船の中ではずっとカラミス王子の足首を縛っていたわ」

サツキナは笑った。


「それとね。もうひとつ」

サツキナはそう言って自分の中指に嵌めて置いた指輪を抜いた。シンプルな金の指輪。よく見ると百合の花が彫られている。花びらに水色の小さな石が水の雫みたいに嵌めこまれている。

「素晴らしい彫金技術だね」

シンジノアは感心した様に指輪を眺める。

「この指輪は母の形見なの。あなたの小指に入るかしら。結婚式の時まであなたに預けて置くわ。母があなたを守ってくれます様に」

指輪の内側には「サリー」と言う文字が彫られていた。

「私の母の名よ」

サツキナは言った。


シンジノアは小指に指輪を嵌めて見た。指輪は細過ぎた

「丈夫なチェーンを買って首に掛けて置く」

彼は言った。

「アンジェ・リリカちゃんの髪と母の指輪があなたを守ります様に。いつでもどこにいても」

サツキナはそう言ってシンジノアの胸に手を置いた。



 シンジノアはポケットに入れた指輪を見る。

 彼女と一緒に過ごした夜の事を思い出すとうっとりとする。幸せ過ぎると思った。

胸がほかほかと温かい。

目を閉じて何度も思い出を脳裏に描く。自然に顔が綻んでしまう。



港にはガジールが出迎えてくれていた。

「俺が帰って来るのがよく分かったな」

シンジノアは言った。

「そんなの分かる訳が無いでしょう? 毎日来ていたんですよ。御父上の命令で」

「ん? そうなのか?……何かあったのか?」

「ジィド辺境伯が謀反を起こすかも知れないという情報が入りました。領地から兵と信者を引き連れて王都へ向かっているらしいです。行く先々で信徒が付き添い、その数がどんどん増えているらしいですよ」

「ええっ?」

シンジノアは驚いた。

「ジィド辺境伯が? 何でまた……」

「さあ。リエッサ王妃に物申しに来るのかも知れない。三男のシャルル殿が一緒らしいですよ。リエッサ王妃はアクレナイト家にジィド辺境伯への対処を命令されました。ここ数日、御父上は王都に行ったきりです。毎日の様に王宮へ行ってはハアロ大将軍と話をしているらしいですよ」



シンジノアは訝し気にガジールを見る。

「何でアクレナイトがジィド辺境伯に対処するのだ? それは陸軍であるハアロ大将軍の仕事だろう?」

「ジィド辺境伯は敬虔なゼノン信者として知られています。嘘っこ信者ですけれどね。そして今回、伯爵様に付き従うのは無辜のゼノン教信者や民衆ですよ」

ガジールの言葉に彼は合点した。


「成程。リエッサ王妃は民衆を敵に回したく無いのだな。ハアロ大将軍にジィド辺境伯を立ち向かわせるとゼノン教信者や大衆の反感を買う。だからアクレナイトを使うと言った所か」

シンジノアは苦笑いをした。

「民衆の矢面に立つのはアクレナイトと言う事だな。つくづく汚い女だ」

「それでいてあなた様をルイスと呼んで手放さないのだからなあ。呆れたものだ。俺は蹴飛ばしてやりたいくらいですよ」

ガジールは言った。



「御父上もそろそろ王都からご帰還になられる事でしょう。軍を設えなくてはならないから。……ところで隊長。サツキナ姫にはお会い出来ましたか?」

ガジールは言った。

「ああ会えたよ。ようやく会えた。全くえらい回り道をしてしまった。あの赤毛野郎のお陰でな」

「赤毛野郎? カラミス王子ですか?」

「そうだ。あいつはサツキナ姫を自国に拉致しようとしてダミーの船を仕上げたんだ」

「ええっ? まさか、そんな事が?」

ガジールは驚く。


「それはサツキナ姫がうまく回避してくれたがな。……ガジール、俺はサツキナ姫に指輪を渡したよ。必ず迎えに行くから待っていてくれと言ってな。そしてこの腕を見てくれ。この金色の髪のブレスレッドはサツキナ姫に与えられたものなのだ。それにサツキナ姫のお母上の形見の指輪も。婚約の印に」

シンジノアはそう言って握った掌を開いて指輪を見せた。

「俺とサツキナ姫との絆だよ」

照れながらそう言った。



シンジノアのその言葉を聞いてガジールは口をへの字にした。

今にも涙が零れそうである。

「それは良かったですね……。本当に良かった。シンジノア様。あなた様はシンジノア様だ。ルイス様ではない。それなのに誰もがルイス様と呼ぶ。今では御父上さえも。リエッサ王妃の為に。リエッサ王妃に迎合するために」

「仕方が無い。腹にはアクレナイトの跡継ぎがいるのだから。それに結婚式までだ。結婚式には兄が来る」



 ガジールは真剣な目で言った。

「俺はずっとあなた様の味方ですからね。何が起きてもあなた様の味方ですよ。……ところで兄上にも、本物のルイス様にもお逢い出来ましたか?」

「ああ。会ったよ。元気だった。しかし信じられないな。瀕死の状態から3か月であそこまで回復するとは。やっぱり馬並みの体力の持ち主だ」

「やはりまだイエローフォレスト王国には戻らないと……?」

「兄には計画がある」

「どんな計画ですか?」

「それはちょっと言えない」

「リエッサ王妃と結婚するのが嫌になったのでは?」

「そんなのは知らん。だが、必ず式には自分が出ると言っていたから出るだろう。兄は決して約束を破ったりはしない」

「顔に大きな傷があるのでしょう? リエッサは嫌がるかも知れませんね」

「そんなのも知らん。兎に角帰って来るから。俺がルイスでいるのもその日までだ。その後の事は兄上と御父上でやって行くだろう。兄が帰って来たなら俺はイエローフォレストから去る積りだよ」

「この国で兄上を助けないのですか?」

ガジールは返した。



「サツキナ姫と一緒に暮らすのに? サツキナ姫はイエローフォレストなんかに来やしない。俺はオルカ国へ行くよ。サツキナ姫と一緒に。オルカ国から兄上を助けるよ」

シンジノアはそう返した。


「俺とサツキナ姫との事はまだ黙っていてくれ。兄の計画に支障を来すと困るから。サツキナ姫にもそう言って置いた。兄とリエッサ王妃との結婚式まで兄がシンジノア・シャークだという事にして置いてくれとな」

「当然です。誰にも言いません。早くその日が来るといいですよ」

ガジールはそう返した。



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