ルシールとリエッサ 1
リエッサがハアロ大将軍の家に療養と称して戻って来てから二週間が過ぎた。
王宮には流産と言ってあるが元々嘘であるのでリエッサは元気いっぱいである。
リエッサは酷く退屈していた。
妊娠中と言ってあったから暫く乗馬は控えていた。だが軍を率いてブラックフォレスト王国へ向かった位だから乗馬は得意である。毎日の様に厩舎へ向かい馬の様子を見ている。
早く馬に乗ってどこかへ遠乗りしたいと思っていた。
「お母様。栗毛の馬が入ったのですね。是非あれに乗ってレノン湖まで遠乗りしたいわ」
リエッサはミアにそう言った。
「まだ駄目よ。あなたは流産した事になっているのだから」
ミアはそう言ってリエッサを諫めた。
そんなある日の事であった。
リエッサはルシールの部屋を尋ねた。
部屋に入るなりリエッサは言った。
「おお寒い。何なのこの部屋は。暖炉に火が無いわ」
ルシールは布団を体に巻いてリエッサを迎えた。
「私の可愛いリエッサよ。お前を待っていた。何とかミア様とご主人様に言って暖炉に火を入れて貰ってくれないだろうか。こんな風に寒いと老体に堪える」
「分かったわ。おばあ様。父上と母上にそう言って置きます。……おばあ様。お世話になりました。私は明日城に帰ります。もう2週間もここで大人しくしていたのよ。流石に飽きたわ。
ルイスとの子はもう流産してしまって今はすっかり元気になった。そう言う呈で城に戻りますわ」
「リエッサよ。済まぬが私の暖かい布団も戻してくれる様に言ってはくれまいか。この固いベッドと薄い布団では体が軋んで起き上がる事も出来ぬ」
「そうね。じゃあそれも言って置くわ。それよりも父上が勝手にルイスとの婚約を解消したのよ。本当に腹が立つ。もう少しで結婚式だったというのに。そもそもジィド辺境伯は何でそんな事を知っていたのかしら。あのクソ親父の所為でもう私の計画がめちゃくちゃよ。王都へ来たら殺してやるわ」
「可愛いリエッサ。髪が乱れておる。そんな事では愛しいルイス様に嫌われてしまう。そこのブラシを取っておくれ。私が髪を梳いてやろう。お前の美しい髪を私は何度も整えて来た」
ルシールはにっこりと笑って言った。
リエッサはブラシを老婆に手渡すとその前に座った。
老婆はリエッサの髪を丁寧に梳く。
突然リエッサが立ち上がった。
「ルシールおばあ様。臭いわ。すごく臭い。そんな臭い人に髪なんか触って欲しくない」
ルシールは茫然とリエッサを見る。
そしてため息を吐いた。
「リエッサよ。ミア様に言って私を風呂に入れてくれる様に言ってはくれまいか。それから私のスープにもう少し肉を入れてくれないかと……そうしてくれたら、私はルイスを手に入れる策をリエッサに授けよう」
リエッサは腕を組んで老婆を見下ろす。
「いいわよ。言ってみて。本当は二度とおばあ様と会ってはいけないと父上に言われていたのだけれど、もうお会いする事も無いから最後のご挨拶だと思ってこっそりやって来たの。昼間なら父上も母上もいないから。侍女が告げ口をしなければ良いけれど」
「ルイスを人質に取れ。そして結婚を承諾しなければルイスを殺し、アクレナイトに攻め込むというのだ。
決してあの者をシンジノアと認めてはいかんぞ。あの者はルイスじゃ」
リエッサは頷いた。
「それともうひとつ。ブラックフォレスト王国はどうなった?」
「ブラックフォレスト王国? あのままですわ。金は重過ぎて一度に運べませんでした。それに今はあんなザコ王国に関わっている暇は無いのです。ジィド辺境伯がどんどん王都に近付いて来ていますから。変な事をしゃべられたら私の政治生命に関わりますわ」
老婆は少し考える。
「リエッサよ。だったら取りに行くのでは無くて持って来る様に言えばいい。我が国まで運んで来いとな。運んで来て献上しろと言うのだ。そしてそれを否と言うなら、……丁度良い。アクレナイトはジィド辺境伯監視を解かれたと侍女が言っておった。お陰でハアロ大将軍は大忙しだと。だから仕事の無い海軍にブラックフォレスト王国を攻めさせれば良いのだ」
老婆はそう言ってリエッサを見た。




