ハアロ大将軍
雷の様な怒声が隣部屋から聞こえて来た。
泣き叫ぶ王妃の声も聞こえる。
暫くするとハアロ大将軍がしょんぼりと肩を落として戻って来た。
彼ははどさりと椅子に座る。
机の上にリエッサが腹に巻いていた詰め物を乗せた。
「ハアロ大将軍」
「……済まない。本当に済まない事をした。アクレナイト侯よ。リエッサは腹にこれを入れていた。やはり、月のものを止める薬を施薬院から取り寄せて飲んでいたそうだ。呆れたものだ。……全く、馬鹿な事を。30も過ぎて……恥というモノを知らぬ娘だ」
ハアロ大将軍はそう言った。
「済まない、だけでは済まない話です! リエッサ王妃はアクレナイトをコケにしたのと同じだ。現王家よりも古くから続く由緒あるアクレナイト家を。全く腹立たしい事この上無い!!」
ジョージは大声で言った。
ハアロ大将軍は唖然とした。アクレナイトがこんなに激高する所を初めて見たからだ。
「ルイスが亡くなってから、幾ら違うと言ってもリエッサ王妃はシンジノアをルイスと言って聞かなかった。ルイスじゃ無いと言うと錯乱状態になるからあなたを含めイエローフォレストの重臣達で子供が産まれるまでは、シンジノアをルイスと呼ぶと決めたのではないですか。それなのに子供がいないのに、産まれる前に式を挙げると言い張って……、信じられぬ。嘘ばかりだ!
まるで嘘吐きの駄々っ子だ。私は王妃の安静の為にシンジノアに無理を言い聞かせたのです。それについて将軍はどう思われますか?」
ジョージは畳み掛ける様に言う。
「くっ……面目が無い。どうか儂に免じて許して欲しい。馬鹿な娘なのだ。アクレナイト侯よ」
「では、もう婚約は解消で宜しいですね」
「当然だ」
「ハアロ大将軍。この企てはリエッサ王妃お独りで考えたのですか?」
「……その辺りの事はこれから家にリエッサを連れて帰ってじっくりと聞こうと思う。でも、まさかミアがこれに加担しているとも思えないのだが……」
ハアロ大将軍はため息交じりに言う。
「もう一点、ハアロ大将軍よ。ご検討願いたい事がある。現在ジィド辺境伯対応はアクレナイトが担当しています。だがしかし、王都の守りは本来なら陸軍である西軍の管轄。我等は海軍であります」
「うむ……」
ハアロ大将軍は苦虫を噛み潰した様な顔をした。
「道を正さなければなりません。それに、いいですか? ジィド辺境伯は今回の事でアクレナイトに恩を売ったと感じている」
「うむ……」
「アクレナイトは思いもよらずジィド辺境伯に借りが出来てしまった。リエッサ王妃の(常識外れな)行いによって」
「う、……」
「ジィド辺境伯は信者などを引き連れて何故王都へ来るのだと思っていたのだが、さっきの書状を見ると、何やらリエッサ王妃に恨みがある様な……。あの温厚なゼノン信者であるジィド辺境伯をそこまで怒らせるとはリエッサ王妃は一体何を辺境伯に……」
ジョージは言った。
「うむう……分からん。一体何をしてくれたんだ? リエッサは……」
「私はこの事を公にする積りは有りません。こんな事が公になってしまったら王国の面目は丸潰れです。国民からも軽蔑されるでしょう。だが、ハアロ大将軍がどうしてもジィド辺境伯への対応を躊躇なさるのなら」
ハアロ大将軍は慌てて言った。
「それは大丈夫だ。元々我等の仕事なのだから」
思わず本音を言ってしまった。
ジョージは心の中で苦笑するが、あくまでも顔は真剣だ。
「有難う御座います。それではわが軍は早速撤収致したいと思います」
「心得た」
「それで、城の者や国民には何と説明致しますか? まさか王妃が嘘を吐いていたなど」
ジョージは言った。
「暫くわが屋敷に閉じ込めて置く。一か月程な。流産したという事にしようと思う。その間の政務は宰相と重臣達で執り行う」
「それが良かろうかと」
「アクレナイト侯よ。くれぐれも他言無用じゃ」
ハアロ大将軍は憔悴した顔で言った。
しかし、その頃には噂は城中を超高速でかけ巡っていた。




