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リエッサ王妃 1

 ここは王宮の小部屋である。

 そこに居るのはジョージ・アクレナイト、それとハアロ大将軍である。

「アクレナイト侯よ。ジィド辺境伯の話とは……?」

 ハアロ大将軍が言った。

「暫し、お待ちください。リエッサ王妃も同席してもらった方が宜しいので」

 ジョージはそう言うとむすりと黙った。

「うむ……」

 いつもは朗らかなアクレナイト侯爵がにこりともしないとは……。これは余程の事が起きたに違いあるまい。

 ハアロ大将軍は腕を組んでジョージの顔を見守る。


「雷帝」と異名を取るハアロ大将軍である。沸点が低くてあっという間に雷を落とす。

 ハアロ大将軍の兵士はその逆鱗に触れない様に誰もが気を付けている。

 だが怒りは続かない。怒鳴り散らして暴れるとけろりとしている。熱しやすく冷めやすい性格である。割と単純にできているのだ。



「何事であるか。アクレナイト侯。ジィド辺境伯の事なら父上と其方で話し合えば良いではないか。それよりもルイスはどこへ行ったのだ? 貴殿に急用と呼ばれてから戻って来た様子が無いが」

 リエッサは部屋に入るなりそう言った。

「リエッサ王妃。それよりも大切な話があります。そこにお座りになられよ」

 ジョージは椅子を指示した。

 リエッサは大儀そうに椅子に座る。

 ジョージはその腹を見て言った。

「リエッサ王妃。もうそろそろ腹のお子様は6か月になりますかな?」

「そうだな。結婚式の時には7か月と言う所か」

 リエッサは満足そうに腹を撫でながら言った。

「そうですか。それで定期的に診ている主治医は何と?」

「元気に育っているという話じゃ」

「ほう。……それは良かった。ところでリエッサ王妃。実を言いますと、リエッサ王妃の妊娠は嘘であるという手紙が私の元に届けられましてな。2日前です。なにやら月のものを止める薬をお飲みになってアクレナイトを騙していると忠告をする手紙です。リエッサ王妃にお聞きしたい。妊娠は本当ですか?」


 ジョージはリエッサの顔を真っ直ぐに見て言った。

 リエッサは愕然とした。ハアロ大将軍も唖然としてジョージを見ている。

 次の瞬間ハアロ大将軍が大笑いをした。

「何を言っておる。アクレナイト侯よ。王妃のこの腹を見れば一目瞭然では無いか?」

 リエッサは今にも噛み付きそうな顔でジョージを睨んだ。

「アクレナイト侯よ。其方は私を疑うのか?無礼千万である。さっき、言ったでは無いか。順調に子供は育っていると。私の主治医も申したのだ。馬鹿馬鹿しい。帰るぞ」

 リエッサ王妃が立ち上がった。部屋を出ようとする。

「座りなさい」

 ジョージは感情を抑えた声で言った。

「あなたの主治医の話を私は既に聞いた。あなたの主治医は今、隣部屋に呼んである」

 低い声でそう言った。


 リエッサ王妃はびくりとする。

 振り返ってジョージを見詰める。

 ハアロ大将軍は怪訝な顔をして「主治医の話? 何だ? それは? リエッサ王妃。良いから座りなさい」と言う。


 リエッサ王妃は渋々椅子に座る。そして強いて笑顔を見せて尋ねた。

「アクレナイト侯よ。誰がその様な世迷言を貴殿に伝えて来たのだ? 馬鹿馬鹿しいにも程がある」

「ジィド辺境伯の手紙を遣いの神官がわが屋敷へ届けに来たのです」


「何だと?ジィド辺境伯の遣いが?」

 リエッサ王妃は驚いた。

 ハアロ大将軍も驚いた。

 ジョージは頷いた。そして懐から手紙を出すと「ちゃんとジィド辺境伯のサインも有ります。では、私がここで読み上げましょう」と言った。


 ジィド辺境伯の手紙には以下の事が書いてあった。

 リエッサ王妃の妊娠は嘘である事。

 森番から高価な薬(月のものを止める薬)を買って飲んでいる事。

 薬はハアロ大将軍の家に届けられるという事。

 自分もリエッサ王妃に騙されて酷い目に遭ったという事。

 アクレナイトも騙されているという事。等々。



 読み上げて行くに連れてリエッサ王妃の顔が青くなって行く。

「ルイスはジィド辺境伯の所にこの手紙の真偽を問いに向かわせました。さて、リエッサ王妃よ。今日は我が家の主治医を連れて参りました。その者に診察をさせて頂きましょう。それで宜しいかな」

 リエッサ王妃は立ち上がると机の上をバン!と叩いた。

「王妃である私が家臣である其方にそんな辱めを受ける謂われは無い!」

「ならば受診は構わぬのでは?」

「無礼者!」

「王妃よ。お座りなさい。いいですか? これは契約なのです。アクレナイト家と王家の。契約に不都合な所があると思えば確かめるのは当然です。それにもしもジィド辺境伯の言葉が嘘であるなら、明日にでもジィド辺境伯の首を私が取って参りましょう」

「くっ……」

「主治医をここへ呼んで話をさせますか? 」

「い、いや、それは……」

「よし。呼べ。話をさせろ」

 そう言ったのはハアロ大将軍だった。

「父上!」

 リエッサは真っ青な顔で叫んだ。



 部屋に呼ばれて来た主治医はちらりと王妃を見た。王妃は今にも首を絞めそうな目で主治医を睨む。主治医はハアロ大将軍を見てアクレナイト侯を見た。


「決して嘘を言うな。嘘を言った時点でお前の首は飛ぶ」

 ハアロ大将軍は大喝した。

 その鬼の様な眼光に射すくめられて主治医はへなへなと倒れそうになりながら

「リエッサ王妃は妊娠されておりません」と甲高い声で叫んだ。緊張で声が裏返っている。


「脅かされたのです。私は脅かされたのです。リエッサ王妃に脅かされたのです。リエッサ王妃の妊娠は嘘です」

 そう言って手をこすり合わせる主治医を蹴飛ばすと、ハアロ大将軍はリエッサ王妃の腕を掴んだ。そして「アクレナイト侯。其方の主治医は隣部屋にいるのだな。リエッサ王妃。儂と来い。儂が一緒に確かめる」と言って喚いて嫌がるリエッサを連れて隣部屋に出て行った。

 リエッサの声もハアロ大将軍の声も部屋の外にまる聞こえである。

 ジョージ・アクレナイトは「ふうっ」と息を吐くと椅子に寄り掛かって宙を見詰めた。


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