001 タスケテクダサイ
息苦しさに目が覚めた。
吐き気がした。
人混みに酔って、目が回ってる時の様な感覚。
今、何時だろう。とりあえず水が飲みたい。
そう思い目を開けた僕の視界に、とんでもない物が飛び込んできた。
老婆。
蓬髪を振り乱した老婆が、白濁の瞳で僕を覗き込んでいた。
熱く生臭い息を吐きかける口には、ほとんど歯がない。そのせいか、唾液がぽたぽたと僕の胸元にしたたり落ちていた。
そのありえない光景に、全身から汗が噴き出した。
本能が、今すぐ逃げろと叫んでいる。
でも、体が動かなかった。何度も試みるが、指一本動かない。
僕はただただ目を見開き、老婆を凝視することしか出来なかった。
そんな僕の様子に老婆はニタリと笑い、右手を大きく振りかざした。
――老婆の右手には、鎌が握られていた。
なんで……どうして……
やっと、やっともう一度、やり直そうと思えたのに。
生まれ変わったつもりで、もう一度頑張ろうと思ったのに。
涙が溢れてきた。しかし目を閉じる事も出来ない。
タスケテ……タスケテクダサイ……
恐怖と絶望の中。
鎌が振り下ろされると同時に、僕の意識はプツリと切れた。