前夜の約束
夜。私はイオズに誕生日祝いだと貰った寝間着を来てイオズの寝室を訪ねていた。
「お邪魔しま~す」
「いらっしゃ~い!やっぱりその服似合っているわね!」
「ありがとう」
妹可愛い~!と言いながらイオズは私を椅子に案内する。寝る前のお茶会かな…?と思ったが私の髪を梳きだしたので違うと判断する。
「うーん。どうせならイメチェンとかしたいけど…あちらのファッションの流行を知らないし…」
「イオズ…?」
先程からブツブツと私の全身を観察しながら呟くイオズ。もしかしなくても私を着せ替え人形にする気だとわかって遠い目をしてしまう。
「決めた!今年の休みは全部ユウに使うわ!」
「え?!」
「せっかくの人間界だもの!それに何年もあちらにかかりきりになると思うからあちらの住人のフリをずっとすることになる。それなら楽しんじゃうのも仕事の醍醐味よ」
あ、これ。私が何を言っても止まらないし結構私に貢ぐつもりだ。
「服は自分で」
「や~~だ~~~!!!お姉ちゃんさせて~~~!!!」
「あ、ハイ」
なんだろう。今日のイオズなんかおかしい。いつもは子どものように駄々をこねることなんてないのに…。
「明日からだなんて急だと思う?」
私の髪を梳きつつも重い口調で話し出すイオズ。正直に思っていたことを言い当てられて私はドキッと心臓をはねさせる。
「仕方ない部分もあるわ。本来なら次代の隊長を選出したことを発表して国を挙げて送るのをセルト様は行わないと決めた。いや、そもそも隊長を選出したことを知るものは権力者と騎士団くらいしか知らないわ」
だろうな。なんたって私が任命されたのは数時間前なのだ。本当なら号外やらなんやらで伝えるのだろうがセルトはそれを指示していなかったと思う。
「理由はいくつかあるけれど。おそらくユウの事を考えてでしょうね」
「私?」
「騎士団長が長期で国を離れるだなんて貴族連中が貴女を蹴落とす材料にしかならない。だから一定の成果を上げるまでは発表しないつもりよ」
話は終わりとばかりにイオズは「よし、梳き終えたわ!」と言いながら私をベッドに連行する。
「気をつけてね。貴女がこれから戦おうとするのは今まで戦ってきたときとは桁違いに強い者が現れる可能性が高いわ。もし遭遇したら一人で戦おうとしないで、必ず隊員かジル様か私に救援要請して」
私を抱きしめながら懇願するイオズ。……多分『あのこと』がトラウマになってるのかもな…。
「……分かった。約束するから」
「絶対よ」
「うん。おやすみ」
私はイオズに抱きしめられながら眠りについた。
ユウが騎士団長になったのは10歳の春
現時点では15歳なので就任してから約五年である。
実力は少なくとも騎士団の騎士全員に勝てるほどだが師匠には勝てない