任務概要
衝撃的な事実から回復して十数分経った今私は壁に睨まれている。
「リート」
「な、なんでございましょうか兄弟子様」
「俺は万一に備えて決めておけと言ったはずだが?」
正確に言えば兄弟子のジルドに説教されている。
(なんでこんなことに…)
私は涙目になりつつ先ほどの話し合いを思い出す。
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十数分前。私がパレス中に響くほどの大声を出した後。
震える手でペンダントを凝視する私にセルトは申し訳なさそうにしつつも真っ直ぐに私に向き合い兄弟子から精霊長の顔に戻す。
「スピリル王国騎士団団長ユウ・リート・ウォターロルス。お前に『友情隊』隊長を命ずる。任を放棄することは許されない。今後の騎士団の仕事に関しては前騎士団長及び副団長と話し合い、調節するように」
少し…いやかなり外れてほしかったけどやっぱり私が隊長なんだ…。今日成人を迎えたばかりなのに重役をさらに任されるなんて思わないじゃん……。
「それに伴いお前には人間界へ渡り、残りの隊員を捜索しつつ常闇軍を倒してほしい」
……へ?人間界?
いきなりの移住命令に呆ける私にセルトは一つ手をくるりと回したかと思うと一枚の手紙を手に握っている。無詠唱召喚なんて簡単にできないのに慣れた手つきでそれをする男は紙を広げる。その紙は何処かの場所の地図らしく、汚れ具合から百年どころか数十年も経っていない比較的新しいものだと分かる。でもなぜ地図を…?
「常闇軍は存在を確認された当時から今まで友情隊が結成されるたびに『田神』という土地に集中的に現れることが分かっている。記録によると先代の友情隊が残した隊員専用の寮と訓練施設がこの地図の印がつけられているところにあるらしい」
セルトの人差し指が地図の東部中間に目立つように書かれている赤丸の上に置かれ、説明する。私はつい地図に書かれている他の単語を見つつも全体の地形やらなんやらを頭に叩き込む。
「リート。どうせ写しか簡略化されたものを渡されるはずだから暗記しなくてもいい」
「あ」
思わず出た私の職業病にジルドは眉間にしわを寄せ、セルトは苦笑しつつも説明を再開する。
「ともかく、お前には明日からその地へ行き人間として生活しつつ常闇軍討伐をしてもらう。座標などはこちらで調節するからお前は荷造りと簡単な潜入時の設定をこの用紙に書け。とりあえず今後のことはまた後日だな」
そう言って二枚の用紙を召喚し私に渡してくる。一つは今セルトが説明した概要を難しく書いたもの。もう一つは線が引かれているだけでおそらくメモ用紙として活用しろということだろうと察する。そんな私を置いて二人が今度は私の予定と人間界について話し合っていた。
「精霊長。騎士団長が表に出なければならない公務などは暫くはありません。現時点では秋の建国祭がリートが必要となる公の行事でしょう。それまでにある程度の隊員を見つけ出し仕事を回せるように整えれば重畳。そこまでいかずともまずは人材確保を第一優先としましょう」
「そうだな。だが、今の人間界は少し魔法を使えばすぐに分かってしまうのが難点だな。かと言って肉弾戦もやりづらい。そこら辺のことも近いうちに考えなくてはな」
「では私は火急速やかにリートに任されている仕事を済ませ、師匠に連絡を取り付けます」
「頼む」
わぁ私がまごまごしている間に話がトントン拍子に進んでいく。まぁそこら辺は大人に任せていつの間にか私の目の前の机に置いてあった複数の資料を手に取って軽く流し読む。
「……え」
「どうした?」
既に話し合いを終え書類を種類ごとにまとめていたらしいセルトが私の声を聞き取り隣に座る。チラッとジルドの様子を見ると片手でメモを取りつつ伝言鳥を召喚していた。
「セルト、人間名って何…?」
私の質問にセルトは固まる。なんか背後から冷気を感じるけど知らないったら知らない。
「ユウ、去年あたりにジルドから説明をされなかったか?人間名は」
「リート」
説明しようとしたセルトの言葉を遮るジルド。その声色の低さに恐る恐る背後を振り返ると独眼に怒りを含め私を見据えるジルドがメモ用紙をグシャアと握りつぶしていた。
「ひっ」
「リート。去年の暮れに師匠が主催した騎士団合同遠征があっただろう」
あ、そういえば師匠が突然『弛んでいる!貴様らは弛みすぎている!!明日から儂が直々に相手取ってやる!!!』と宣言して一週間の遠征で秘境の谷へ連れ出されたっけ。あの時は私とジルド以外全員へばってたなぁ…。
「その時に騎士の何名かを人間界へ移住させて常闇軍や怪異を討伐させる時があると師匠が演説しているのを覚えているか?」
「あ、そういえば…」
ジルドに言われてその時のことを思い出す。
初日の夜。師匠がいつになく真剣な面持ちで私たちに人間界について説明していた。大半の騎士たちは夢物語だろうと鼻で笑っていると熟年の騎士たちから木刀で叩かれていたのを横目で見ていたと思う。正直、騎士団長である私が人間界に行くことはないだろうと忘れていたとは言えないなこれ。
思い出し冷や汗を流す私の様子で全てを察したジルドの独眼の眼差しがさらに強まり私を射殺さんとばかりに突き刺してくる。
「その後に師匠と俺は『騎士団長が偵察のために渡界する場合がある。だからいつかのために人間としての名前や家族構成をきちんと決めておけ』と言ったはずだが…。忘れていたな」
「大変、申し訳ございませんでした!!!」
本日二度目の謝罪をするしかなかった。
メモコーナー
・精霊界の成人年齢は15歳で統一されている。学校は子供が通う『学校』or『アカデミー』。大人が通う『学園』or『カレッジ』。前者は六年。後者は四年。どちらも強制ではないが通うには多額の金が必要になるので貴族が多い。
・スピリル王国での大きな行事は秋の建国祭と表彰式。冬の旧新年の儀式と武闘大会。春のスピリルクッキングフェスタと彼岸の儀式。夏のスポーツフェスタとスピリルフェスティバルがある。
・年度は海外に合わせて九月から。上記の行事の中でユウが騎士団長として参加しなきゃいけないのが秋と冬。
夏休みに入ったので書きまくるぞー!!!
バイト「たくさん入ってるやで」
うち「」
部活「俺もあるやで」
うち「」
文化祭&実習課題「忘れんでもろて」
うち「oh…」
はやく序章書き終われるよう頑張ります(ヽ''ω`)