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友情隊  作者: 星咲コットン
ユウ渡界編
3/14

隊長任命

精霊界 スピリル王国 スピリルパレス



 数十分後。駆け足で到着したユウとジルドは息を整えながら精霊長室までの道のりを歩いていた。パレスについた際にジルドがリズとフェイに到着したことを報告してくれと頼むと二人は敬礼しながら飛んで行った。

「今回はなんだろうねー」

 騎士団としてならわざわざ妖精を使いに出さずとも月に一度開催される定例会議か呼び出し状を送ってくれば良いのだ。それをしないということは個人として呼び出したということなのだろう。

「お前。またやらかして…」

「ジルド酷い!いつも巻き込まれているだけなのに!」

「着いたぞ」

「無視しないで?!」

 ユウの叫びを意に介さずジルドは精霊長室の扉の前に立っている騎士に入室する旨を伝える。来客のことを聞いていたのか騎士は頷いて扉をコンコンと叩く。

「精霊長。騎士団長、副騎士団長がお見えです」

「入れ」

 入室許可を貰った二人は扉を開く。

 精霊長室は書斎のような内装だ。青や緑を基調とした部屋にアンティーク調の家具。そして存在を主張するように机に鎮座している大量の書類…

「ワーカーホリック」

「お前にだけは言われたくない」

 思わずとつぶやいたユウの言葉に部屋の主ー精霊長セルト・モン・クィーレンが作業する手を緩めてジト目で反論する。

 精霊長というのは精霊界で最も権力が強く、中心国家スピリル王国の国主のことである。ほんの数十年前まではスピリル国主は王族であったがクーデターにより精霊長が実権を握ることになった。

 当代の精霊長は代々精霊長を輩出する御三家の一つ『大地のクィーレン』の嫡子である。齢28にして傾きかけていた母国を安定に導き、失われかけた外国の信頼を取り戻した実績者として支持されている。が、その分仕事量が多く常に忙しい状態なのを役職持ちや使用人たちは心配に思っている。仕事量に関しては最年少騎士団長のユウも同じだ。元平民ということで貴族に疎まれている中実績を積むために大量に仕事を仕入れている(勝手に問題を作ってくる)ので結果的にワーカーホリックな二人を止めるのはジルドになりもはや日常と化している。


閑話休題


「セル…精霊長。どのような呼び出しでしょうか?」

「個人として呼んだからセルトでいい。まずは誕生日おめでとう」

 セルトもユウの兄弟子であるため呼び捨てになりかけることが多々ある。が、公の場で親しくするのは貴族として許されないため精霊長と呼び直している。今回の呼び出しが仕事か個人的か判断がついていなかったため精霊長と直したところ本人から無礼講の許可を貰いラッピングされた箱がユウの手元に現れる。

「今後ユウに必要となるものが入っている。この話し合いが終わった後で確認してくれ」

「え?ありがとうセルト!ジルドと大違いだね!」

「鉄拳か米神か選べ」

「ゴメンナサイ」

 静かに拳を掲げるジルドに謝罪しつつセルトに促されて来客用のソファに座る。ため息をついたジルドもそれに倣う。

「個人で呼んだということは少なくても騎士団関連や国関連ではないという解釈でいいかセルト」

「…関連は大いにあるが、今回呼んだのはそれ以上の機密事項だ」

 パチン、と指を鳴らしたセルトにユウは目を丸くする。

(え、何急に)

(防音か…)

 ジルドは部屋全体に緻密に張られた防音魔法にこれから聞かされる内容の重さを察してセルトを見据える。セルトはそんなジルドの様子に苦笑しながら正方形の箱をユウに差し出す。

「なにこれ?」

「開けてみろ」

 一瞬誕生日プレゼントかと思ったユウだが、いやさっき渡されたな??と思い直してセルトの顔を見る。真剣でどこか焦っている様子が冷や汗に現れているセルトの表情でこの箱の中身が重大なものと思い至ったユウは頭の中を疑問符で埋めながら箱を開ける。

 箱の中に丁重にしまわれていたのは石板のカケラだった。呪物のような気配はせず、手に持ってみても手のひらサイズで一見何の変哲もないただのカケラだとユウは思った。

 その瞬間。カケラが淡い光を放ちながら浮かぶ。呆気にとられている騎士組をよそにカケラはユウの首の前に移動すると一瞬強く光る。反射的に目を瞑った3人が次に瞼を上げた時にはカケラはペンダントに変わっていた。

「…やっぱり、か…」

 予想が当たってしまったと言いたげに額に手を当てるセルトと何の事情も知らされていない二人。ジルドはユウの首に光るペンダントを観察する。

 ペンダントは金色の鎖にネリネのレリーフが描かれたロケット。一見すれば市場で売られていそうな見た目だが精巧に作られているとジルドは思った。

「…セルト。このアクセサリーは一体…?」

 訝しげに問うユウにセルトは魔法で本棚から一冊の本を取り出しとあるページを二人に見せ、答える。

「友情隊。といえばジルドは分かるか」

「!まさかリートが…っ!?」

(二人で分かり合わないで?!)

 何のことか分からないと首をひねっているユウとは対照的に意図を察して頭を抱えていたジルドが様子に気づいて視線を合わせる。

「リート。友情隊については知っているな?」

 ジルドの問いにユウは頷く。


✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿


友情隊について語る前にまず、日本で言う戦国時代初期頃に起こったある事件について語ろう。

精霊界には『感情の石板』という石板があった。その石板には淡く光っていれば正常であり、光っていなければ異常を示す魔法具。当時の精霊にとっては人間界のことを知れるということで重宝されていた。が、ある日感情の石板を破壊しようとした精霊が石板が保管されている神殿に侵入した。結果、友情・愛情・喜情・怒情・哀情・楽情・恐情の石板が砕けた。そして友情・愛情の石板のカケラは人間界に渡ってしまう。

 そのころ。人間界では謎の生物が人間を襲う現象が起きていた。今の東京郊外らへんに起こっていた現象だったがカケラを回収しようと人間界に渡った精霊はある光景を目の当たりにした。


ただの人間が謎の生物(・・・・・・・・・・)に対抗していた(・・・・・・・)のだ


その要因について当時の有識者が議論し導き出した答えは『石板のカケラが人間に加護を与えている』ということだった。

「そこから謎の生物ー仮名『常闇軍』を討伐するために精霊と人間の『対常闇軍混合討伐特殊部隊』が結成され、その部隊の名前を一番砕けてカケラになった石板、『友情の石板』からとって『友情隊』になった。だよね?」

 ユウが思い出しながら語った友情隊設立秘話にセルトは頷く。

「ああ。そして討伐は叶わぬまま今日まで続いている」

「前友情隊は10年ほど前に解散し、次の隊長が見つからずに停滞していると聞いていたが…」

 先ほどのセルトと同様に額に手を当てて息をつくジルドの言わんとしていることを察しているセルトも同じような表情をしながらページをめくる。

「代々隊長は精霊長にしか伝えられていないある儀式の間に保管されている円鏡で選出されている。

 本当ならば世代交代の時点で次の隊長を任命しなければならないのを保留にしていたのはその引継ぎが曖昧になってしまったからだ」

 深くため息をつくセルトに二人は訳知り顔で遠い目をする。

 先代の精霊長は独裁政治を行い、反感を買いまくり結果家臣に暗殺された。当時は王国内でクーデターが勢いを増している中での暗殺だったので御三家の中での実力者であるセルトが精霊長の座に就いたが、正直言って反乱を抑えるのと王国復興に尽力せざるを得ない状態だったので事情を知る人間界の協力者たちに少しの期間だけ活動停止する旨を伝えていた。

 3年前にようやく事態は収まりさあ隊長の選出をと思えば儀式に関する書物がほとんど残っておらず代々精霊長のみに伝えられる秘術なども先達が残した手記から読み取って考察するという面倒くさいことになっていた。特に『友情隊』関連の文献が一切残っておらずこの間ようやくそれらしいものを発見した…のだが、

「それが『隊長任命の儀』の箇条書きか…」

 説明し終えて机に伏せたセルトの右手に握られているどこか年季がある1枚の紙切れをそっと引き抜いて確認したジルドが同情の眼差しでセルトを見やる。

「でも、それが私たちが呼び出されたのとなにか関係あるの?まさかと思うけどその隊長が私…ってわけじゃ…ない…よね…?」

 ロケットの装飾を観察しながら用件を問うユウは後半にかけて先ほど起きた出来事と今の話を振り返って口元を引きつらせている。嘘でしょ?と言いたげな彼女の視線から顔を背ける精霊長と諦めろと言いたげな兄弟子の表情に確定的になった事実にユウは叫んだ。


「私が友情隊隊長ーーーーー!!!!!?????」


友情隊。隊長1名。残り???名。

三話目です。

 ユウは必ず月一で何かしらのトラブルに巻き込まれたり起こしたりするので割と保護者代理のジルドと兄弟子のセルトの二人に説教されています。

 この三人は門下の中でも強く、師事していた期間が被っていたのもあって関わるように。ただ、元平民なユウが二人を呼び捨てても特にとがめていないのは師匠の教えの一つに『男女年齢関係なく呼び捨てろ』があったから。そのため結構年齢が離れていても兄妹弟子と分かれば呼び捨てるのが門下たちの習性です。本当に最初のころは肉親が呼んでいた『セルト様』(クィーレンが発音しにくかった)『アリーグ様』で呼んでた設定。番外で出したい作者のメモ帳でした。もうあとがきはメモ帳コーナーにしよ

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