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友情隊  作者: 星咲コットン
ユウ渡界編
11/14

花の痣

 ドライヤー?のことを謝罪した後、私は周也の案内で野外ステージへ向かっていた。不意打ちを受け身で流し切れていなかったのは経験不足なだけだろうし多分動体視力がいいのかもしれない。もし騎士団にいたら騎士団長候補に入るかもな…。

「そういえば周也ってなにか武術とかしてる?」

「は?」

「さっきの受け身もだけど体を鍛えているみたいだしあとは動きが騎士に近いなーって思って」

「騎士団長になるとそこまでわかるのか」

「私はまだまだだよ。師匠ならその人のクセとかまで分かるけど…」

「バケモノか…」

 それは私も思ってる。師匠は精霊という枠から外れていると思う。

「武術とは少し違うけど、知人の紹介で護身術教室に行っているし釣りするときにも筋力はあった方がいいからな」

「確かに!私もたまに誘われて釣りに行くけど毎回魔物が襲ってくるから見張り役になるんだよねー」

 この前の休みに同期の妹さんたちと行った時も魔物の集団が押し寄せてきたから妹さんたちを安全なところに逃がしつつ全部倒したんだよなー。一番きつかったのは始末書よりもフレデリック様の仕業って思って決闘を申し込もうとしたイオズを抑えることだったなあ…。と話すと「俺の思う精霊と違う…」って頭を押さえてた。

「精霊って言っても人間の生まれ変わりだからね」

「生まれ変わり?」

「セルトから教わったんだけど、精霊って元は人間が死者の魂が霊として見守っているっていう思いから生まれたんだって」

 精霊信仰が始まったころ。魂が新たな存在となることを信じる人間たちを面白がった神様の一柱がちょうど未練が纏わりついている魂を使って人間界の裏の世界、つまり後の精霊界を作り上げたらしい。そのときに創られた精霊『原初の精霊(スピリット・テスター)』のうち何人かは今でも生きているらしくどこか人気のない土地で暮らしているらしい。その末裔の一つがセルトの実家であるクィーレンということを騎士団長に就任したころに教えてもらった。

「付喪神みたいなもんか…」

「ツクモガミ?」

「多分日本特有の考えだけど、物を九十九年大切にすれば魂が宿って、宿った魂のことを付喪神って言うんだ」

 魂が宿る?力の強い魔導士が作った魔道具が意思を持つのと同じなのかな?と思っていると「ここが野外ステージだ」と足を止めた周也が指で奥の方を指し示す。指し示された方へ視線を向けると

「え、っと…」

 第一に目を奪われたのはツタ。第二もツタ。とにかくツタだらけ!長い間掃除されていないのか土汚れやごみが散乱していてとても舞台とか上演できない状態だった。

「数年見ない間に随分汚れてんなー」

 案内した周也も知らなかったようだけど、なぜかベンチに絡みついているツタを剥がしたり砂埃を払って「とりあえず座れ」と手で示される

「いや、私は疲れてないよ?」

「足痛めている奴が何言ってんだ。騎士団長をしているから大丈夫とでも言いたいんだろうが今は人間の10代女性とほぼ同じなんだろ?ならお前が気づいていないだけで足の怪我が悪化している可能性もあるし、証拠に足を庇いながら歩いていたよな?」

 うぐ、私がさりげなく足を庇っていたのバレてる…。手当てしてくれたのに痛みがまだあるとか言えないし、このくらいの痛みなら師匠との稽古の時に毎回負う傷より軽いからって黙ってたとかはさすがに言えない…。いやこれもバレてそう。

「頭から川に落ちてたから後々何かしらの症状が出ることもある。北北西に建物があるか俺が確認してくる」

 人間の一般人って国仕えの仕事レベルの知識が備わってるのかな?さっきから的確な指摘がポンポンと出てくるし理解力が早いというか、でも精霊という存在とか精霊界のことをすんなり信じたところもあるし…。あ、私が空から川に落ちたところを見たからかも?うーん…

(ー前から何かの気配!?)

「周也。私の後ろにいて」

 私はアジトの有無を代わりに調べてくれようとした周也の袖をつかんで背後に庇う。

「は?」

「何か来る」

 私の突然の行動に周也は目を丸くしてたみたいだけど、そのあとの言葉に状況を察して言うとおりにしてくれる。

(気配は前のやつと後ろの周也の家あたりからついてきてる気配の二つだけ。片方は人間っぽいから精霊の姿に戻らないほうがいいな)

 後ろの気配に関しては敵意や殺意も感じないし、感覚的に私のことを見ているだけだから特に何もしないけど、精霊の存在は出来るだけ知られないようにとかセルトたちに口酸っぱく言われているし、周也を抱えて撒く?でも足首のダメージが思ったよりもあるのと人間の体にまだ慣れていないのもあって私より二回りくらい大きい周也を抱えて逃げ切れる確率は四割程度だと思う。加えて全く知らない場所だから確率は3割になる。

(いっそのこと後ろの気配の意識を奪っちゃう…?)

 その方がやりやすいかも。と手刀の構えをとったときに、気配がグンっと近づいて私の目の前で止まる。慌てて横に逃げても追いかけてくるけど、見た目は謎の模様が描かれた人型の紙で、攻撃性能などはないように思う。

「……紙?」

「…みたい、だね?」

 あれ?この紙よく見たらなんか見覚えある気がする?どこだったっけ?

「どうした?」

「なんか見覚えがあって…」

 とりあえず害はないだろうと判断して警戒態勢を解く。すぐに周也にベンチに座らされたのでそのままどこで見たかを思い出してみる。

「…たしか、私の就任式で見た気がする…」

「いつその騎士団長に就任したんだ?」

「10歳」

「は?!友門そんなに強いのか!?」

 周也の声を聞き流しつつ思い出し作業を続けてみる。そういえば建国祭とかでも見かけたような…。と考えていると遠くから「結構近い!というか敷地内にいたのか!!」と叫ぶ男性の声が耳に入る。周也と目を合わせて首を傾げていると私たちが登ってきた道とは反対側の道から誰かが飛び出してきた。

「やっと見つけたよー!ユウくん!」

 私たちの前まで走ってきた男性は周也よりもさらに濃いマゼンタの長い髪と同色の瞳。赤のスカーフを貴族みたいに着ていて、ピンク系統のロングコートに赤ワインみたいな色のデニムを履いていて、容姿や恰好だけを見れば女性と間違えてちゃいそうだと思う。けど声質と体格で多分男性だと判断でき…いや、どっち?私の感あってる…?待ってなんで私の名前知ってるの?

「……誰?」

「コホン、失礼。ワタシはスピリル王国魔術師団長のラレク・モン・シルマ・ヨキート。人間名は波浦楽。キミの保護者としてこれからよろしく騎士団長殿」

 性別不詳の人ー魔術師団長こと楽さんは私に一礼すると隣の周也に顔を向けて、周也が無言で私の足に指をさし、大方の事情を察したようだった。

「もしかしなくともバレているようだね。ここまでの経緯を話してくれる?」

 

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「あらら…転移装置が故障しちゃってたの…」

「そうなの~!もう嫌になっちゃう!」

 謎の現象と川でのことを話すと楽さんは「怪我の程度を見たいから足を見せてくれる?」と座っている私の前に跪いて右足首に巻かれている包帯を外していく。

「友門、この人…?精霊?とは知り合いなのか?」

「うーん…、知り合いというか、式神とは何度か会ったことあるけどこうして顔を合わせるのは初めてだよ」

「まじかよ…」

 なんかあり得ないみたいな反応されたけど、実際楽さんと会ったことがある精霊はセルトや魔術師団の精霊くらいだと聞く。それくらい楽さんは表に出てこないし大半の公的行事も式神で参加しているから「「ヒール」。はい、治ったよ」ってえ!?

「治癒系スキルって高等スキルで使える精霊はあまりいないんじゃ…」

「ワタシに使えないスキルはないよ」

 伊達に師団長を務めてないよ。と微笑まれて敵に回したくないと思いつつ立ち上がってみる。幾分か痛みはあるけどさっきよりは歩きやすい!

「……ま、細工した輩は捕らえたみたいだけど」

「今なんて?」

「なんでもない。それより藤森くんだっけ?どうするの?」

 聞き逃した気がして見上げると人差し指で周也の方へ顔を向けさせられる。って、あ…

「じ、ジルドに怒られる…?」

「記憶を消すこともできるけれどどうしたい?」

「それは最終手段!!!」

「本人の目の前で物騒な話止めてくれません?」

 ジトっとした目で見られて楽さんは肩をすくめて見せ、手をくるっとさせたかと思ったら何枚もの式神が楽さんの手元に集まってくる。

「ま、いずれにしても協力者の一人は必要だったからちょうどいい。どちらを選ぶかは…ね」

 笑顔で式神を周りにまとわせてながら周也に何かを囁いた楽さんと顔を引きつらせる囁かれた本人の雰囲気の差に首を傾げていると周也はため息をついて手袋を外しだす。

「何か知らないが俺も協力します。そのかわり…」

 左手の包帯まで取った周也は真剣な表情で手の甲を私たちに見せてきた。その手の甲を見た楽さんは面白そうに目を細めて、私は胸のあたりが熱くなる感覚に襲われていた。

「生まれつき手の甲にあるこの痣が何か調べることってできますか?」

 手の甲には何かの花の痣が刻まれていて、「その形からしてツツジだね。キミの髪色と同じだ」と平べったい板に映る何かを私に見せてきた。

「彼の痣はツツジ。道の植え込みとかによく使われる低木だよ。蜜はすごくおいしいんだけど致死性の毒が含まれている場合も多い植物。手ごろに毒が錬成できるからついつい野生のツツジを採取しちゃうんだよねー」

「楽さん?」

 ほとんど何を言ってるかわかんないけどとりあえず毒を作ってることは分かったので再度周也を背中に庇うと「ここでは作ってないってば」と苦笑された。え、ここでは?

「にしてもユウくんは運がいいね。ロケットを開けてみて」

「え?」

「見ればわかるから」

 意図が分からずに聞き返すも楽さんは笑顔を崩さずに無言で催促してくる。仕方なく言われたとおりにロケットを開けてみると、鏡にツツジの花とピンク色の花が交互に映っていて思わず周也と顔を見合わせる。

「友情隊隊員の証として必ず体のどこかに花の痣がある。そしてロケットに浮かんでいる花は近くにいるカケラの隊員を表しているの。これは藤森くんのツツジと」

 説明しながら先ほどの周也みたいに右手袋を外した楽さんは私たちに見せるように袖を下げーえ?

「このワタシのサザンカだね」

 楽さんは私たちの反応に面白そうに笑うのだった。

波浦楽/ラレク・モン・シルマ・ヨキート

スピリル王国魔術師団団長。実力者だが基本的に式神や部下に丸投げして人間界に滞在している。れっきとした男性だが女性っぽい服装を好む。

この度精霊長から沙希ユウの保護者を依頼されたため迎えに行ったら妨害&一般人にバレるというコラボをした沙希に笑いが止まらない

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