12話 君臨せし忌み子たち Part.1
「それで、君たちの新しい名前っていうのはなんだい?」
あれから少しずつ落ち着きを取り戻し、いつもの明るさを取り戻していた。ウェプノもしばらくは泣きじゃくっていたが、今では不適な笑みを浮かべている。かと言って、何もかもが元通りというわけにはいかない。今回の改良はいつもとイレギュラーであり、さらにその結果というのも異常だ。もう一度状況整理が必要だと思った俺たちは、把握している方について話そうということで、現在に至る。
「はいはーい、最初はあたしから!」
そう言って、我先にと手を挙げたのはサイコル。彼女から溢れる元気が変わっていないようで、ほっと胸を撫で下ろした。
「あたしはね、ランクSで名前がザドキエルになりました!」
ザドキエル。記憶を司る天使。神の高潔や公正を意味し、人々の心の不安を取り除く存在。サイコルの性格と相性が良い名前だ。しかし、そこで聞き慣れないワードがあるのに気づく。ランク。今まで、それについて言われたことも聞いたことすらもない。
「ランクってなんだい?」
「えっ、パパ知らないの!?」
「うん。」
その場いる全員がこちらに目を向けていた。その様子から察するにどうやらランクについての説明がされていないのは俺だけのようだ。
「もともと私たちに付けられていた被験体番号。あれはあくまで製造順を示すためのもの。でも、今の私たちにとってはあまり意味のないものになったの。そこで、新しい名前をつけると同時に、新しい指標を用意することになったの。それがランク。その位置付けについては詳しく知らないけど、超越率と異能の使用精度が基準となって付けられるらしいわ。」
つまるところ、つくった順番よりも技術と力を元にしたランクの方が望ましいということらしい。
「あ、ありがとう、インテラ…。」
「どういたしまして。さ、あの子の続きを聞いてあげましょ。」
「ふふーん。あたしはね、自分の考えてることとか心の声を言葉を介さずに伝えられるようになったんだよ!(ほら、こんな風に。すごいでしょ!)」
確かに、これはすごい。周りの反応からするに、俺と同じ現象が起こっているようだ。今、彼女の口はまったく開いておらず、しかし頭の中に彼女の声が響いている。これを同時に複数人に行なっているというのだから、より驚かされる。そんなサイコルの顔は無邪気な子供みたいに、褒めて欲しいと言わんばかりの顔をしている。
「あ、ちなみにみんなの心の声とかも聞こえるようになったんだよ。」
「これは、迂闊に隠し事をできなくなったわね。」
「別に隠し事なんかしなくていーじゃん。私たち家族なんだし。」
「ま、それもそうか。」
「じゃあ、次俺行くわ。」
そう言って、次に声をあげたのはサウンド。心なしか数週間見ないうちに少し背が伸びた気がする。その目の輝きも失われることもなかったようだ。
「俺はな、ランクAで名前はサンダルフォンになったんやで!」
サンダルフォン。人々の祈りを神に届ける役割を持つ存在。子どもの心を思い出させたり、歌を司る点で言えば彼にぴったりの名前だ。
「できるようになったことで言うたら、もっと声張れるようなったり、声の周波数変えれるようなったりやな。ほな、ちょっとやってみるで。」
そう言って、彼は息を深く吸い込んだ。そして次の瞬間、それはある種の衝撃波のように炸裂する。耳を覆いたくなるほどの大音量が耳を貫き、空間を震わせる。腹の中を重低音が掻き乱す。すると、今度は甲高い音に変わる。さっきよりも鋭さを増した音に、体を刺すような感覚を覚える。頭が割れそうになりながら、その発狂に耐えていた。ほどなくして音は止んだが、その場の誰もが放心状態だった。
「あ、ごめん。やりすぎやったか?」
「あ、あんた、しばらく喋るの禁止…。」
「えっ、何で!?」
「あんなのもう一回やられたら、私たちの身がもたないわよ!」
「さ、流石に僕も、や、やめた方がいいと思うよ。」
みんなサウンドの周りを囲って、彼を諫めた。まあ、あれをもう一度やられるのは俺も耐えれそうにない。そうして、肩を落とした彼をよそに手を挙げる者がいた。
「じゃあ次、私が行ってもいいかしら?」
それはケイト。華奢な佇まいや上品な立ち振る舞いは未だ健全だ。
「私はランクB。名前はガブリエルよ。」
ガブリエル。神のメッセンジャーである天使。彼女の持つ異能ゆえにつけられた名だと推測できる。
「私はどうやら、すでに失われた言語すらも訳して、それを使うことができるようになったらしいのだけれど、それを試したことはまだないの。ごめんなさいね。」
「仕方ないよ。逆に、そんな言語をすぐに用意できるわけもないんだしさ。」
「でも、ちょっと見たかったわ。ケイトの異能。」
ふふふと、口に手を当てて笑うケイト。家族のそんな様子に思わず笑みが溢れてしまう。綽綽と座る姿はどうにも触れがたい。周りをも飲み込んでしまうような空気すらも、あるいは彼女の力なのかもしれない。




