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10話 mirror of mind

 白い…。ただ白い…。水平線すらも見えない世界で俺は目を覚ました。俺の椅子に座っているところから、ここは心の中だと理解した。先の戦闘からの今で、心はまだ宙ぶらりんだ。あれからどうなったのだろうか。俺は死んでしまったのだろうか。いや、それよりも俺は彼を殺してしまっていないだろうか。どちらも致命傷と言えるほどの傷を与えた。それこそ、出血死するくらいの量。俺たちはプロトタイプだからまだ修復するかもしれないが、確証は薄い。このまま死んでしまうのであれば、せめてカマエル…いや、ウェプノと合流できればいいのだが…。とそんなことを思っていた時だった。


「よくやったな。俺にしては、及第点じゃないか?」


 とそんな声が聞こえた。俺は思わず、そちらへ目を向けてしまった。そして、目を見張る。そこには人影ではなく、"俺自身"がいた。姿形,声,雰囲気に至るまで全く同じ。鏡に映し出されたかのように自分が対面にお気に入りの椅子に座っていた。その異様さを不気味に感じている一方で、不思議にも親近感があった。


「君は…俺?」

「その通り。俺はお前、お前は俺だ。そして、お前の言う()()()()()でもある。」

「人影の正体…?」

「ああ…。」


 その瞬間、全てがつながる。人影の言うことはなぜかすんなりと納得できた。今も、人影の正体が自分だと告げられても何となく理解したのだ。それに、なぜか俺の知らなかった自分のことまで事細かに知っていた。人影が俺であれば俺の全てを理解していても何らおかしくはない。だが、それでも疑問に思うところはある。


「じゃあ、君は一体俺の何なんだ?逆に、俺は君の何なんだ?」

「俺はお前のすべてだ。本来、生物では不可能な領域まで脳を使用したことで生まれたお前を形成する全ての情報が擬人化した姿。簡単に言ってしまえば、バグでゲットした最終装備とフルステータスって言ったところか。」

「rpgで分かりやすい説明どうも。」

「つまりだな。お前が俺を取り込めば、お前の知らない全ての情報を手に入れる。そうなれば、お前は感覚として遺伝子転換に至るまでの全てを操ることができる。だが、もうそこに物理法則は一切存在しない。だからこそ、お前は感覚的にしか、それらを行うことができない。」

「君は俺に取り込んで欲しいのかい?」

「ああ、俺はお前だ。お前が自分でそれを望んでることくらい分かってる。お前にとって俺は今後絶対になくてはならない存在だからな。」


 ああ、そうだ。俺は自分の目的のためにも彼を取り込もうと思っている。でも同時に、彼が自分が消えてしまうことを恐れているのではないかとも思っているのだ。彼の存在が塵も残さず、俺に取り込まれる。すなわち、実質的に死んでしまうのだ。だから、俺は今、立ち尽くしている。これに正解や不正解はない。ヒントもない。どんなことが起こるかさえも分からない。彼を取り込めば、力を得る代わりにこの身が化け物と化してしまうかもしれない。逆に、彼を取り込まなければ、俺は現状維持できるだろう。しかし、俺の目的の実現可能性は極めて低くなってしまう。どちらに転んでも茨の道。ならば…ならば…ならば…。

 俺は深く息を吸い、ゆっくりと息を吐く。筋肉の緊張や心臓の高鳴りが流されるような感覚。そして、俺は彼に歩み寄り、手を差し出した。


「決心はついたみたいだな。」

「ああ。このまま何もできないくらいなら、悪魔と契約した方が何倍もいい。」

「いいか?この手をとれば、得るのは地獄への片道切符だ。途中下車や引き返しの電車に乗ることもできない。それでも…お前は行くのか?」

「何を言ってるんだ?」


俺は笑いまじりに彼に聞いた。彼なら、僕の全てなら、もうすでに分かってるはずだ。

 

「もう地獄ならいくらでも経験してるさ。今更一つ二つ増えたところで、どうってことないよ。」

「そうか…。なら俺は止めない。その代わり、後悔はするなよ。」


 そこで初めて、俺は彼の笑みを見た。子供を慈しむような愛でるような、そんな母親みたいな優しい笑み。一片の悔いも感じないその表情はとても幸せそうだ。自分で自分自身を見るのは少し不思議な感覚だが、それを見て思わずこちらも頬が緩んでしまう。この真っ白で空虚な世界に存在した住人の本性は、とても温かかった。

 そして、彼は俺の手を握る。包み込むように、それでいてしっかりと。もう離れないと言う思いがその手から伝わる。もしかしたら、彼は寂しかったのかもしれない。俺が彼を見つけた時に彼の心はすでに救われたのだとぼんやりそう思った。瞬間、繋いだ手の隙間からほとばしる光。それは以前に見たものよりも強く、激しく。そして、白い光の中でいろんな感情が混ざったように七色が輝いている。それが何もない世界を塗り上げていく。そこで俺はようやく分かった。どこかに置いてきた、失くしてしまったと思っていた自分の願いや感情,希望すらも彼が大事に持っていてくれていたのだ。「ありがとう…。」とそう口からこポツリとこぼす。そしたら、消えていく世界の中で「行ってこい。」とそう背中を押された気がした。そうして、俺の視界は完全に白く染まってしまった。

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