[連載開始]初級光魔法で婚約破棄してやります!※ただし、禁忌の闇魔法をバレないように使います!〜その後の人生は私の自由ですわ〜
よろしくお願いします。
この作品の連載が開始しています。
https://ncode.syosetu.com/n5061ir/
「えっっ。これは走馬灯かしら?」
次々に流れてくる今まで体験したことのないような出来事。あら。それだったら走馬灯ではないのではないかしら?
ん?私逆行してる?んん??逆行時を前世だとしたら、前々世も覚えている?……ということは転生2回目?!ちょ、ちょっと訳がわかりません。
でも、これだけは分かりましたわ。私が、 失われた光魔法を使えるということ。今のところは初級しか使えないようだけれど……
そして、1番大切な事は、婚約者が最悪な人でその相手もひどい女の人だという事。
あら。公爵令嬢なのに言葉遣いが悪くてごめんなさい。でも前々世は孤児だったようなので、その時の癖が出てしまっじまったようですわ。
今の状況を説明してくれ!ですよね。
話は、少し前に遡る。
私は、三大公爵家の1つであるアクランド公爵家の長女かつ第2王子と同い年という事で、ずっと昔から第2王子の婚約者である。
今日は、来たる1週間後の結婚式についての話し合いと第2王子妃になるための最後の教育とので王宮を訪れていた。
ここまでは、いつもと変わらなかったけれど、ただ1つだけ違ったことがあった。それは、王宮から公爵家へ帰る途中の王宮の庭園で、第1王子殿下から声をかけられたことだった。
「マルティーナ・アクランド令嬢。あなたはこのまま愚弟と結婚してもいいのか?」
「……急にそのようなことを仰るのはどうしてでしょうか?」
「……いや、なんでもない」
結婚1週間前。
その言葉は私の結婚への決心を揺さぶるのに十分過ぎる言葉だった。
だって、この言葉はベイビー様と腹違いの兄とはいえ、ベイビー様と共に過ごしてきた家族の言葉なのですから。
もしかしたら、私が見えていないベイビー様の大きな欠点があるのでは?
そーんなことを考えながら歩いていると、見たことのない景色が広がっていた。
あら。ここはどこかしら?王宮ではなさそうなのだけど……
ここは……どこかの森ね!
なぜなら木がいっぱい生えているから!いや、皆がわかる状況なのだけど……
私は迷子になってしまったのかしら……
いや、きっと迷子よね。
私は家族に大切にされて育った温室育ちの娘だし、本当は家の馬車に乗って帰るはずだったのだから、ここで迷子になるのは本当に誤算よね。
やってしまったわ……
そう思っていた時だった。
バターン。
木をなぎ倒す音がした。
音がしたところを見ると、フェンリルがいた。
あら。フェンリルがいるわ。となる訳がない。
ま、まずいわ。早く逃げなくちゃ。
私は慌てて令嬢らしからぬ走りで逃げ始めた。
逃げながらも思考は働き続けた。
フェンリルが通る所はたくさんあるのに、なぜ、わざわざ木を倒したのかしら。
もしかして、逃げることができるように、前もって"今から俺様が君を襲うから逃げてみろ"って合図をしてくれたのかしら。
意外と優しいわね。
そして、あのフェンリルはモフモフしてて、可愛らしいし触りたいわね。
うん。そんなどうでもいい事を考えている場合じゃないわ。
あら。今大事なことを思い出したのだけれど、私は逃げ道が分からないんですけど。
だって、迷子ですから!
何度考えても、やっぱりあのフェンリルの様子はおかしいわね。
フェンリルは自分の生息地が侵されない限りは人間の住む場所にはなかなかやってこない。
ましては、攻撃なんてしてくるはずがない。
たとえ攻撃してくるとしても、今回のようにわざわざ自分の存在を明らかにするような事はしない。彼らは賢いのだから、静かに一瞬の隙を狙って、すぐに獲物にとどめを刺すはずだわ。
もしかして、状態異常かしら?
結論に至った瞬間。
フェンリルは私のすぐ後ろにいた。
そして、私の視界はフェンリルの口の中しか見えなくなった。
ああ。終わったわ。
結論が出た瞬間に私は死ぬのね。
私の人生の最高の思い出は……と思い出している時だった。
冒頭の走馬灯らしきものが脳内に映像として流れ出した。
一瞬にして、私が逆行しているという事実ーーマルティーナ・アクランドとしての人生が2回目だという事。
さらに実は、私は前々世は孤児で、闇魔法という今は禁忌になっている魔法を使っていた。しかも上級を。
という事実を思い出した。
そして、死んだ2回ともが魔物によって命を落としている。流石に3度目は嫌よ。
まだやりたい事はたくさんある!
今死んだら後悔しかない!
絶対死にたくないわ!
だから、一か八か、今世で、闇魔法が使えると信じて使ってみますわ!
「正常化」
闇魔法はその他の魔法と違い発動の仕方が異なる。闇魔法はこの地にある瘴気を使い、魔法は自分自身の魔力が必要だ。
上級闇魔法使いは瘴気を集める様子を見せる事なく発動させることが可能なのよね。
もちろん私もできます!その闇魔法でも"正常化"は上位魔法で、闇魔法特有のものなのよね。
原理としては、より強い闇の力である瘴気で、魔物を異常状態にしている元凶を抜き取る。そして、闇魔法の源である瘴気に変え、相手から吸い出して、瘴気を外に分散させるといったものだ。
フェンリルから少しずつ瘴気が出てきた。
私の闇魔法が発動できたのね。
すると、荒々しかったフェンリルの様子が一転し、穏やかな雰囲気になり、私にすり寄ってきた。
あら。想像通りのモフモフで気持ちいいわ。
今気づいたのだけれど、黒い毛並みが黒混じりの銀灰色のように見えるのは気のせいかしら?
まぁ、死ぬと思った時はフェンリルから逃げていて毛並みの色までじっくり見る余裕なんてなかったのだし、どっちかというと撫でたいわ。としか思っていなかったから、分からないものはよく考えても分からないわ。
だから、気にしないでおきましょう。
まずは先ほど思い出した事実を整理しましょう。
マルティーナ・アクランドとして生きた1回目の人生。
私は、結婚後に光魔法を使えるようになった。
現在は、光魔法に慣れていないから、初級しか使えないわね。
だけど、練習したら魔力量からして、中級くらいは使えるようになりそうね。
今の時代は、世界では、魔法を使える人はそこまで多くない。 孤児の時は、沢山の人が魔法を使えたのにどうしたのかしら?
その上、闇魔法と光魔法は使える人はいなかった。闇魔法は禁忌とされ、使える人は皆殺されたらしい。そして、何故だかわからないのだけれど、それと同時に、光魔法を使える人もいなくなった。
そんな光魔法を使えるようになった私は、かなり王家から大切にされるはずだった……
それなのに、あの婚約者は浮気をしていた。
しかも、第1王子殿下と比べると無能だったせいで自分の王宮での立場が揺らいでいた。その立場を確固たるものとするために、私に魔物討伐にばかり行かせていたわ。
全ては、大切な自分の妃を国民のために危険な魔物討伐に行かせている素晴らしい第2王子。と噂されるために。
私のことを大事にしたことは一度もなく、利用していただけなのに……
第2王子妃として国民のために。光魔法を使えるのは私だけだから、頑張ろう。と思っていたわ。
でも、私が命をかけて魔物討伐をしている間、婚約者は浮気相手とウ・フ・フな事をしていた。
せめて、政務くらいしておいてくださいませ!
しかも、私のマルティーナ・アクランドとしての1度目の人生を終えた理由。
それは、私が魔物討伐から帰ってきて、魔力がなくなってしまい、ボロボロ雑巾のようになった時。
私が力尽き、もうこれ以上魔法を発動させることができないタイミングで、何故か魔物が王宮内に侵入していた。
私の目の前に広がるのは、魔物の餌食になりかけている婚約者。
私は咄嗟に、あの人の前に立った。
もちろん、もう魔法を発動できない。
魔物に勝つ算段はない。
呆気なく、私は婚約者の盾となり死んだ。
何故あの時、彼を守ったのか。
あの人に恋をしていた……なんて訳はない。
だって、あの人は、"顔は整っている"と言われているけど、私のタイプではない。
性格もタイプではない。私は努力する人が好きだった。だけど、婚約者は、何かで努力している様子はなかった。
ただ王族という立場で色々なことを享受しまくるだけの人で、大変な事は全て他人に押し付ける人なのよね……
きっと、彼を助けた理由は、私の前で誰かが死ぬのは見たくなかった。
婚約者は幼馴染でもあったから、情があった。
あとは、結局は公爵家は王家の臣下で、臣下としての行動だった。
私も、前世と今世で婚約者の行動が違うのなら許せたはずだわ。
でも、今も大して変わらない気がしてきた。
今の状況を振り返ると、婚約者は、ある令嬢とずっとくっついて一緒にいる。
学園の課題は私に押し付ける。面倒臭く、課題をやることに意味を感じないとか何とか言っていたわね。
そして、あの浮気相手も、私を見ていつも勝ち誇った顔をしてくるのよね。
今思うと、なぜ許せたのかしら。
思い返せば、私は彼に全く興味がなかったから、別の事を考えながら対応していたからかしら。
あぁ。気づいてなかったのよね。
そして、嬉しいことに逆行前の結婚式を思い出したわ!
王宮内で開催したのだけれど、婚約者はその浮気相手の令嬢をエスコートし、側室に迎えると宣言をして、彼女とずっと共にいたわね。
その彼女も、いつも通り勝ち誇ったフフンって感じの表情をしていたわね。
私はそれと対比して、結婚式なのに相手がいなくて周りからは同情されていたわね。
ふふふ。この結婚式はいい機会なのではないかしら。
前々世の私の名前はマーシャ。
そんな私の2つ名は、"普段は怖くないのに、怒らせると恐ろしい"という私としては納得していない理由から"豹変マーシャ"
やり返すと決めたらとことんやり返す。という私の性格から"倍返し製造機"
だとか呼ばれていたのよね。
この機会にやり返しをしないと、前々世の私の二つ名が廃れてしまうわ。
今、最っ高なやり返しを思いついたわ。
ただ、今世は、闇魔法を使える人は"悪魔"だとか"魔女"だとか呼ばれ、処刑されるから気をつけないといけないわ。
要は、闇魔法を使ったとしても、バレなければいい!今回はできる限り使わないようにしますわ。
じゃあ、ショボい程度しか使えない光魔法を披露するしかないわね。
でも、とてもレアだから、皆がビックリしてくれることに期待しますわ。と考えれば考えるほど、来たる結婚式への楽しみな気持ちが膨れ上がる。
終いには鼻歌を口ずさんでいた。
これが花嫁気分かしら?
ところが、ワクワクする気持ちも束の間、急に闇魔法を使った上に、やり返す方法を考えて頭をフル回転させたから、眠気と甘いものへの食欲が湧いてきた。
早くお家に帰ろう。と思ったのだけれど、そういえば私は迷子だった。
あぁ!思い出したわ!これは前々世のせいね。
前々世の私は、最強闇魔法使いだったのに、方向音痴という弱点があったのよね。
だから、前々世も上級闇魔法が使えるから、基本は1人で魔物を討伐できるのに、いつも孤児仲間の誰かにペアを組んでもらっていたのよね。
今世でもこの弱点付きなの?!まったく欲しくないんですけど……と思いながら、途方に暮れていた。
何気なく、周りを見渡すと、フェンリルが歩き出した。これは、フェンリルについて行くべきだわ。と思い、フェンリルと共に歩くこと30分。
私には救世主がいたようですわ。
なんと、王宮の庭園に着いたのですから!
もちろんモフモフを堪能して、フェンリルとお別れはしませんでした!
フェンリル何故か小さくなりました。
私の掌にいます。
一緒に公爵家の馬車に乗りました。
一緒に公爵家まで帰るようです。
じゃあ、このフェンリルを私のペットにしましょうかしら。
そんなこんなで、公爵家に到着です。
ふふふ。明日から、やり返しの準備よ。と思い、私はスイーツを食べ、食べ、食べまくり、寝て、寝て、寝まくった。
これは私にとって、とても必要なものですからね!
そして、迎えた結婚式当日。
逆行前は王宮内でやったのだけれど、今回は、この前第1王子殿下と出会った庭園で結婚式を開催することにしました。
もちろん全ては"やり返し"のため。
そして、初めて婚約者には感謝しましたわ。婚約者は結婚式には興味がないのか、あの令嬢とずっとくっついているのか、この結婚式に関して何も意見を言わなかった。
ということは……私の意見が必ず通る。
ふふふ。全ては私の思惑通り。
さぁ。始まったわ。
王宮内の庭園は、沢山の美しい花に囲まれ、花の馨しい香りに包まれている。
愛し、愛されている結婚式なら本当に最高な結婚式よね。
もちろん、そんな結婚式ではないのだけれど……
逆行前の通りだともうそろそろ始まるわ。
逆行前は、結婚式が始まる前にオーケストラが演奏を始めた。
その瞬間に、いかにも愛し合っている2人、と言った様子での登場だ。そして、オーケストラが演奏を終えると、結婚式の前に"側室宣言をする"という異例の事態が起きたのですからね。
今まさにオーケストラの演奏が始まった。
登場してきたわ。愛し合っている2人が。
登場を終え、観客から1番よく見える所に2人が到着し、側室宣言をする様子を見せる。
タイミングよく演奏を終える演奏者達。
そして、婚約者が声を張り上げる。
「ここに集まってくれた者達。感謝する。まず彼女を紹介させてくれ。私の側室となるベティー・バーカー嬢だ」
参席者達は、ざわめき始めた。
「な、なんだと。バーカー男爵家のご令嬢ですと?!」
「大出世ですなー」
「側室にしたい気持ちも分かる。あの庇護欲そそるウルウルした表情にあの女性らしい体つき」
私は庇護欲そそる顔と言える顔ではないし、女性らしい体つきではないからごめんなさいね。
そんな失礼な言葉も、これから始まるショーの余興だと思えるので、許して差し上げますわ。
そんな参席者と私の感情を置き去りにして、婚約者は言葉を紡ぎ続ける。
「私の最愛の人だ。彼女を傷つける者は何人たりとも許さん」
あら。カッコいい男主人公みたいな言葉ね。
でも、浮気と人をこき使ってポイっと捨てる人はダメですわよ。
私がそんなことを思っている時、彼は宣言を無事終えた様子を見せた。
すると、どこからか司会者が現れ、こう言った。
「それでは、マルティーナ・アクランド公爵令嬢からのお祝いの言葉です」
は??会場の人達、もちろん婚約者もその浮気相手も意味がわからないと言った様子の表情を露わにした。
確かにそうよね。私は浮気された側なのですから、祝福よりは怒りを出す方が普通ですわよね。
でも、皆さん。貴族なのですから感情は隠さないといけないですわ。私は、皆さんが驚いて下さって嬉しいのですけれど、驚くのはまだまだ早いですわよ。
そう思いながら、私は、私のやり返しの舞台に登場した。
「ベイビー・ベリンガム殿下、ベティー・バーカー令嬢。婚約おめでとうございます」
すると、婚約者はこう言った。
「は?婚約だと?」
「えぇ。そうですわ。殿下。殿下と私は、今、この場で婚約破棄となりました。その代わりに、殿下は最愛の人と婚約できたのです。お祝い申し上げますわ」
彼は焦り、焦り、焦りまくった。
なぜなら、元・婚約者は私の家である公爵家が後ろ盾にあったから、王宮での第2王子という立場があった。
そうでなければ、彼は第2王子としては役に立たないので、かなり肩身の狭い思いをしていたたのだろう。
私の家のアクランド公爵家は何度もあの人と縁を切ろうとしたが、温室育ちの私があの人に同情していたことと、王家のお願いにより辛うじて後ろ盾になってあげていただけだった。
まあ、今回でそれも終わりね。と思い、私は言葉を紡ぎ続ける。
「それでは皆さん。ご覧ください。元婚約者の私からのささやかなプレゼントです」
私はオーケストラの演奏者達に合図をする。
えぇ。実は、演奏者達は私の味方ですから。
音楽が流れ出す。
私は、魔法を発動した。
初級レベルの光魔法を。
そう。帝国では誰も使えない光魔法を私が使えることをアピールするために。
でも、魔力量さえあれば、初級レベルでできることとして、映像を写すための光のスクリーンが作れるから、これを利用するわ。
「ルミナス・ウォール」
湖の上に現れた白く光輝く壁。
参席者達がまたもやざわめき始める。
「こ、これはなんだ」
「失われた光魔法だと?!」
「殿下は光魔法使いを失うという勿体無いことをしたな……」
その中でも一際大きな声が響いた。
「マルティーナが魔法を使える?!」
ふふ。私は1週間、元婚約者に魔法が使えるようになったことは隠していましたからね。
そう思いながらも集中をし続ける。
私が作り出した光の壁に、あらかじめ魔道具で取っておいた映像を流す。魔法を使える人達が減ってからは、魔道具が盛んになったのよね。有難いわ。そう感慨深く思いながらも続ける。
その映像からは男女の2人が現れた。
そう。5日前にあった密会も捕らえたもので、その2人とはベイビー様とベティー嬢だ。
そして、ある会話が繰り広げられる。
「俺たちは運命だ。ベイビーにベティーと名前の響きがよく似ている」
「えぇ。神様が私たちがいつまでも一緒にいられるように。と願っての名前なのですわ。でも殿下にはあの婚約者がいらっしゃいますわ……」
「あんなものはどうとでもできる。お飾りの妃だ。私には君だけだ。面倒臭い政務とやらを押し付けるだけの存在だ」
「まあっ。確かに、あの人は頭しか取り柄がない残念な人ですものね。それでしたら、あたし達はずっと一緒に居られますのね」
そうして、近づく男女の影。顔と顔が触れ合うのではという瞬間に、私は光の玉を発動する。
「ルミナス・ボム」
光の玉でスクリーンの見せてはいけないキスシーンを隠す。
参席者達の声に耳を傾けてみる。
「なんてひどい言葉だ」
「これはアクランド令嬢が可哀想すぎる」
「バーカー嬢も酷すぎる」
ええ。この言葉を聞いた時は、本当に苛つきましたわ。でも今は魔法という取り柄ができましたわ。と心の中で言い返す。
そんなこんなで、まだまだ映像を続ける。
次は、私に課題を頼むシーン。4日前に撮ったものだった。
「マルティーナ。これを頼む。君は頭だけはいいのだから、こういう時にこそ役に立ってくれ」
「えぇ。わかりましたわ」
会場内は騒然とする。
でも、皆さん安心してくださいませ。
私は、頼まれた時に、やっとこのシーンを撮影できる!と嬉しかったのですから。
「これが、私たちが支える第2王子殿下なのか?!」
殿下の人に頼むという割に偉そうな態度。
課題を面倒臭がり、第2王子という貴族の模範となるべき人が努力もしない姿勢。
まだ、続く。
3日前の学園での魔物討伐。
魔法が得意な同級生を盾にし続ける。
「俺は第2王子なのだから、命がけで守るのは当たり前だ」
そして、優勝を勝ち取った。
その時の一言。
「私がいれば、優勝なんて容易いものだ」
参席者からは、あなたは何もしていないでしょ。と呆れた様子が伝わる。
本当に惜しいことをしたわ。逆行前の私が、ボロ雑巾のように使われている映像が流せたら……と思ったけど、こんな人と結婚しないで済むのだから。と気持ちを持ち直しながら、また同じ光の玉を出す。
私だって、使える魔法のレパートリーを増やしたかったのですが、なんと言ってもまだ初級魔法しか使えませんですから!
スクリーン付近に光の玉を作り、演出を盛り上げる。
さらに、もう一つの映像。これは昨日の出来事だ。
この映像私も衝撃的だった。
ある男女の密会。
ベティー・バーカー嬢とある男性だった。男性の方は、顔が映っている付近の光魔法を強くして見えない状態にしているが、明らかに第2王子ではない人との密会。
「あなたのこと愛しているわ」
「あぁ。僕もだ」
そして、気を良くしたベティー・バーカー嬢は口が滑ってしまった。
「殿下なんてお遊びよ。私は、あなたが1番好きなの」
「……二股だったのか?僕には殿下と争うなんて無理だっ」
そう言って、逃げ出した男性。
もちろん、この相手はただ騙された可哀想な人なので、その相手が誰かわからない状態で映像を流している。
相手の男性には、映像を流すことに許可をもらった。その男性も、愛する彼女に二股をかけられていて憤慨していた。
その男性は、念のため公爵家が保護している。まぁ、この密会にいたベティー嬢以外は相手を特定できないのだけれど。
参席者達はベティー嬢を理解しがたい者。という顔で見た。流石に王子のあのカッコいい宣言の手前、批判はできないと思ったのだろう。
しかし、その映像を見た王子は顔を引きつらせ愛する彼女に質問した。
「ベティー、これは嘘だよな」
すると、質問をされた女性は青ざめた顔で短く答えた。
「えぇ」
しかし、皆、知っている。
この映像が嘘ではないことを。
この映像の魔道具は実際に起きたことしか写せないのだから。婚約者となった2人の周りの空気は氷のように冷たくなっていた。
参席者は、静観を続ける。
そして、クライマックスを迎える。
映像には、仲睦まじく手を繋ぐベイビー第2王子とベティー嬢が映る。
そんな彼らのためにある魔法を使う。
「ルミナス・シャワー」
これはシャワーと言いながらあまり魔力量を使わない初級でも使える魔法だで光の粒がが少しずつ降りてくる婚約式に似合うロマンチックな魔法だった。
「す、すごい」
「光魔法はなんて美しいんだ」
それを聞き届け、私は最後の挨拶をする。
「どうぞお幸せに」
そして、迎えに来る人は第1王子殿下。
元婚約者がライバル視していたけど、全く敵わないからとても嫌悪していた人。
私は、彼にエスコートされてこの結婚式を退場しようとした瞬間だった。
私も復讐が終わったと思い、復讐モードをオフにした。
そして、周りを見回すとある人に目がいった。
騎士にしては細いが、かなり実力のありそうな雰囲気を持つ人。
しかし、右足が壊死している。
これだったら、彼の騎士生命が絶たれてしまうのでは。そう思って第1王子殿下に耳打ちする。
「少しすみません。ちょっと用事ができましたので少しお待ちください」
そう言って、ある騎士のもとに向かう。
やはり、右足は壊死していた。
この人と、次いつ会えるかわからない。
これは治してあげなくてわ。
これは、闇魔法の出番ね。そう思いつつ、目くらましとして、光魔法を発動する。
「ライトニング」
その場は光で包まれる。その間に、私は瘴気を集め、無詠唱で彼の右足の患部に瘴気を行き渡らせる。
そして、壊死している原因となるものより強い瘴気で患部の周りを包み込み、それと一緒に体外に出す。
いわば、イメージとしては、悪をより強い悪でやっつけて、そのものすべてを取り出すといったものだ。
私は、闇魔法を悪だとは思わないのだけれど。
彼の右足を見ると、壊死していた黒い部分は消えていた。すると参席者達から大歓声が起きる。
「「「「ワァァ。奇跡だ」」」」
あぁ。よかったわ。うまくいったのね。
しかし、私はかなり魔力を使い疲弊して限界を迎えていたので、騎士が何か言おうとしているのを微笑みで躱し、第1王子殿下の方へ向かった。
退場する前に、元・婚・約・者・の声が会場内に響き渡った。
「マルティーナ、なぜこのような事実を隠したのか?」
私は、もう2度と会わないだろう彼への餞として、最後の力を振り絞り、私史上最高の笑顔でこう答えた。
「隠したほうがこの演出が盛り上がるでしょう?」
第2王子が、今後もその座に入れるのかはわからないのだけれど、彼にとっては、彼が1番嫌いな第1王子殿下と私が良い仲になっているのではないかと疑うのだろう。
それと同じように、参席者も魔法を使える令嬢が第2王子ではなく、第1王子殿下を選んだと考えるのだろう。
もちろん、そんな仲ではないのだけれど。これも思惑の通りよ。
そして、第1王子殿下と王宮内に戻ると、やり遂げまたわ。と達成感と疲れが湧き上がる。
ここで、一つ疑問に思うでしょう。
なぜ、王家の人達が王族の一員がここまでやり返されるのを見逃していたのか。ということについて。
それは、私が前世と前々世を思い出した次の日に、家族であるアクランド家全員と共に王宮に訪れた。
そして、私が多くの種類の魔法が使える事を、事前に第2王子以外の王族の方々と家族にお披露目し、ある契約を交わしたからだった。
来たる結婚式では、私の好きなようにできる。
その代わりに、国の魔法師団に入団すること。家族の皆は王家の前なのに、"私の意思を尊重する"という考えを示してくれていた。
家族には感謝しかないわ。
そこで、私は自分が婚約破棄後どうしたいか考えてみた。
すると、魔法師団に入団するのは素敵ね。と思った。
なぜなら、前々世は孤児仲間と闇魔法でこの国の英雄になると、約束したのだから。
その目標を達成するために、魔法師団の入団は良さそうね。と思った。
そして、私は意気込んで、魔法師団に入団することに決定した。
ついでに、第1王子殿下が最後の退場のエスコートをすることもこの時に決まったのだった。
そんなこんなで、この様なやり返し劇場が開催されたのだった。
その劇場の後ーー
第2王子殿下とベティー・バーカー嬢は身分を剥奪された。
元第2王子とベティー・バーカー嬢は結婚したのか?
元第2王子は浮気をしていた最愛の彼女をまだ愛しているのか?
私は当事者ではないので彼らのことはわからない。でも、巷の噂では、元第2王子は心を入れ替えて騎士として努力している。という事を聞いた気がする。
それだったら、王家の彼に対する願いが叶ったのね。と思った。
私は……というと。
初日に珍しい毛並みの色をしたフェンリルに乗って魔法師団に出勤した。という事件を起こしたものの魔法師団に馴染み、沢山の良い仲間ができた。
あの時は、フェンリルが私を乗せてくれる雰囲気を出していたから、ついついやっちゃったのよね。
第1王子殿下や魔法師団長だけではなく、なんと前々世の仲間とも出会えた。
私が、あの結婚式の時に治してあげた騎士のマーカスは、私の孤児仲間の生まれ変わりだった。
もちろん、また仲良くなったわ。
マーカスも孤児の時を思い出して、闇魔法を使えるようになったのだし、お互いに協力しあっているわ。
そして、魔物討伐で危機的状況にあったり、何かあった時で、闇魔法が必要な時は、光魔法の周りの人を目眩しさせる"ライトニング"で、バレないように闇魔法を使っていた。
これが私の通常営業だった。
……だって、使えるものは使いたいし、私が使える上級魔法は闇だけですから。光魔法は何とか中級が使えるかな?くらいなんです。
仲間達が何をしたんだ?と疑うと
「とある光魔法を発動させました」
という台詞が常套句となり、マーカスや孤児時代の仲間もフォローをしてくれた。
今世では、孤児仲間以外誰も闇魔法と光魔法が使えないので、この常套句をいうと、皆納得してくれていた様に思う。決して納得しているフリをしている……なんてことはないと思うわ。
そして、私の二つ名は、"豹変マーシャ"や"倍返し製造機"ではなく、"怒ると恐ろしい聖女"と"やり返しの英雄"というものになりました。
きっと、皆結婚式のことを引きずっているのですわ。
この二つ名を見る限り、前々世からの目標達成しました!と胸を張って言える気はしないけれど、"英雄"という二つ名はゲットできましたから、目標達成ですよね?
今は前より幸せですか?と聞かれたら即答したいですわ。
もちろん。幸せです。
最っ高な仲間達に囲まれているのですから!
連載の方もよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n5061ir/